マガ9学校やりました。

2012年2月25日(土)14:00~17:00
@カタログハウス本社地下2階セミナーホール

世界はFUKUSHIMAから何を学んだか ~各国の核政策から考える~

講師:伊勢崎賢治さん(東京外国語大学教授)&伊勢崎ゼミ生 ゲスト:蓮池透さん(元「北朝鮮による拉致被害者家族会」事務局長、元東京電力原子燃料サイクル部部長)

「日本のことだけ、原発のことだけを考えていては、『脱原発』の動きは必ず行き詰まる」。そう断言する伊勢崎賢治さんが、平和構築ゼミの学生たちとともに、世界各国の原発・核政策を検証。かつて東電社員として福島第一原発の保守管理にも携わった蓮池透さんをゲストに迎え、「脱原発」へのうねりを一過性のもので終わらせず持続させていくために、日本が取るべき道とは? そして私たちが知っておくべきことは何か? を考える1日となりました。

伊勢崎賢治●いせざき・けんじ 1957年東京生まれ。大学卒業後、インド留学中にスラム住民の居住権獲得運動に携わる。国際NGOスタッフとしてアフリカ各地で活動後、東ティモール、シェラレオネ、 アフガニスタンで紛争処理を指揮。現在、東京外国語大学教授。紛争予防・平和構築講座を担当。著書に『東チモール県知事日記』(藤原書店)、『武装解除 紛争屋が見た世界』(講談社現代新書)、『伊勢崎賢治の平和構築ゼミ』(大月書店)、『国際貢献のウソ』(ちくまプリマー新書) 『紛争屋の外交論―ニッポンの出口戦略』 (NHK出版新書)など。

東京外国語大学伊勢崎ゼミ生● 伊勢崎先生のもとで平和構築について学ぶ東京外国語大学3年生。大学で専攻する言語や分野はさまざま。それぞれの専門を活かしつつ、昨年から世界各国の原発や核政策などについて研究を進めてきた。

〈ゲスト〉
蓮池透●はすいけ・とおる 1955年新潟県柏崎市生まれ。1977年から2009年まで東京電力に勤務し、福島第一原発の保守管理などに携わった。また、1997年より2005年まで「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会」の事務局長を務める。著書に『奪還 引き裂かれた二十四年』、『奪還 第二章 終わらざる闘い』(新潮社)、『拉致 左右の垣根を超えた闘いへ』(かもがわ出版)、『私が愛した東京電力―福島第一原発の保守管理者として』(かもがわ出版)など。

●第一部は、「世界の核政策検証―ドイツ・イタリア・ブラジル・英国・米国・フランス・ロシア・中国・インド・パキスタン―」と題し、語学力を活かしてリサーチした現地メディア情報などをもとに報告がありました。

 まずプレゼンテーションの冒頭に伊勢崎さんより、伊勢崎ゼミの紹介がありました。東京外国語大学は、世界にある50以上の言語を勉強し、言語を通じてその地域の文化や政治経済、社会を勉強する日本で唯一の大学であること。そして今回のプレゼンは、3・11の福島原発の事故を受けて、世界各国のメディアがそれをどう報じ、世論はどのように動いたか、各国の原子力政策は変わったのか変わらなかったのか。などについて、現地のメディアを定点観測することで読み解くという作業を行った、と説明がありました。

 最初の75分間は、各国の動向について担当のゼミ生より発表がありましたが、発表の順番にも、工夫がありました。まず当事国である日本、そして脱原発を表明している国、ドイツ、イタリア。次にBRICS(ブリックス/ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)の一角として、台頭する新興大国の中でも経済発展を続けており、南南協力(途上国同士が対等な立場でお互いの知見を共有し、相互に学び合う、水平的なパートナーシップ)の要でもあるブラジル。イギリス、アメリカ、フランスは、ロシア、中国は核保有国。そして戦争状態にあると言ってもいい二国、インド、パキスタンは、核不拡散体制の外にいながら核を持っている国。

 プレゼンは、パワポと分厚い配布資料をもとに、進められていきました。普段目にすることのない、英語圏以外の各国の新聞がどのように3・11を紹介しているのか、を見るだけでも大変興味深いものがありました。

 ゼミ生がこれらのリサーチを通して出した結論/まとめは、「世界は福島の事故からは何も学んでいない」というものでした。そのいくつかの理由についても、論点をまとめた紹介がありました。

●第二部は、伊勢崎賢治さん×蓮池透さんのトークセッションです。まず蓮池透さんから、第一部の世界の動向を聞いた感想として「世界は福島から何も学んでいないんじゃないか、というまとめがありましたが、私は最も学んでいないのは、日本と東京電力ではないのか。あまりにも皮肉な結果になっているが」と指摘されました。各国の報告を聞いていると、脱原発にしろ推進にしろ、各国のエネルギー政策の方針は出ている。しかし大方針がここにきても何も決まっていないのは、日本だけ。行き当たりばったりを続けていることを批判しました。

 伊勢崎さんは、「世界の状況を見たときに、どうやら世界は福島の事故から原発をやめよう、という方向には向かっていないようだ。お隣の国、中国もそう。じゃあ我々は脱原発をあきらめるのか、というとそういうわけにはいかない。市民が持続可能な脱原発運動を続けていくための、ヒントを見つけたい」と問題意識を語りました。

 蓮池さんは、ご自身が東電の原子力担当だった経験からも、日本においても世界においても最も問題になるのは「核廃棄物」であると言います。核廃棄物の問題をどうするのか、これについて東電の中でもずっと頭を悩ませてきたと答えました。「今みんなが注視している福島第一の4号機の使用済み核燃料が入ったプールですが、あのようなプールは、日本全国の原発の敷地内にあって核廃棄物を置いてある。さらに青森県六ヶ所には広大なプールがあり、そこにはどんどん使用済み核燃料が運び込まれているのだが、それでも足りないから隣のむつ市に中間処理場をつくろうとしている」など現状を紹介しつつ、「今、現在の日本の核のゴミは、ガラス固化体にしても2万5000本あり、管理には10万年かかる。しかしそれの最終処理場はまだ決まっていないし、青森県だって最終処理場はいやだと言っている。福島の事故が起こった今、国内の自治体ではどこも引き取り手がいないでしょう。どうするんですか?」と蓮池さん。

 「国内につくれないとしたら、海外か? モラル的にどうなのか、という話にもなるが、今、プルトニウムを国際的な管理の元においているように、核のゴミも国際管理する、という枠組みも出てくるかもしれない。地震が少なくて広大な土地のあるロシアやモンゴル、ということになるのかもしれない。それを廃棄物を出した国は財政的に技術的に支援をしていく。そういうことの音頭がとれ、また資格のあるのは、日本しかないでしょう。でも、今そういう動きはまったくないですね」と伊勢崎さん。

 今後10万年、人類が出した「核のゴミ=最終処理場を国際管理する」そのためには何が必要か? はこれからの大きなテーマになりそうです。

●第三部は、会場からの質問にお二人が答える形の質疑応答です。会場には鈴木邦男さんの姿もあり、発言がありました。最後にまとめとして、蓮池さんは「電力会社は、消費者目線で電力をつくって売って欲しい。東電の組織から言っても発電と送電の分離はすぐに出来るはずです」と。伊勢崎さんは、「広島、長崎、福島を経験した日本は、核の問題を考える上では、外交的にもナイーブな意味からモラルリーダーになれる。そのポテンシャルは世界一の国であり、日本人もそうであると信じている」と結びました。

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●アンケートに書いてくださった感想の一部を掲載いたします。(敬称略)

ドイツの脱原発など、どちらかというと原発を減らす方向に向かっているうと思っていましたが……全く逆なんですね。地球は救われない方向なんですね。恐ろしいです。(匿名希望)

世界の原発についての現状や世論についても説明していただけてよかった。蓮池さんによる東電の内情についての説明もおもしろかった。内容は非常に良かったが時間が少ないのが惜しい。(匿名希望)

外大の学生の報告もすごく分かりやすかったです。駆け足だったのでもっとさらに深く考えたかったですが、11カ国の政策などを知ることができ、よかったと思います。トーク、質疑応答も、テレビや新聞等のメディアではなかなか聞くことのできない話も多々あり、おもしろかったです。(匿名希望)

日本のマスコミが報道するほど、世界の主要国が脱原発の方向へ向かっているわけではないことがよく分かった。(匿名希望)

なかなか答えを見出せない問題を考える上でお2人の対談は刺激になりました。鈴木邦男さんの発言も面白かったです。学生の皆さんの発表は、各国の原発をとりまく状況を体系的に知ることができて興味深かったです。明るい見通しが見られないので暗い気分になったのですが、しっかり現状を見つめることが重要と思いました。学生の皆さんの個人的見解なども聞ければもっとよかったです。(北沢寛)

不明瞭な現在の実態と将来の見通しをよく知ることができ有意義な講座でした。残念なことですが、結局福島の事故は世界にとってはどこか他人事であることが各国の対応から明らかになったように見えました。でも、車と同じで、事故の可能性があっても恩恵のほうが大きければ使うという考え方になってしまうのは人間として当然で、仕方がないとも思います。また、最後「世界は福島から学んでいない」という結論になっていましたが、「福島から学ぶ」ということが単純に「原発をなくす」とイコールになるのかどうかは大きな疑問です。被爆国である日本が世界に手本を見せられていないのに、「日本から学べ」ということにも、たしかに違和感を覚えます。(匿名希望)

世界の国々の原発情勢がわかり、勉強になった。(佐久間真弓)

世界の原発事情など全く知らなかったので、勉強になればと思って参加したのですが、比較的情報が入ってきていると思われるイタリアやドイツだけでなく、普段情報がない印パの状況についても垣間見ることができました。日本がリーダーになって世界を脱原発に持っていければと思います。(匿名希望)

各国の現状を知ることで、頭の整理ができました。それを踏まえて伊勢崎さん、蓮池さん、鈴木さんがおっしゃった「事故から一番学んでいない日本」という言葉は印象深く、また共感しました。(匿名希望)

面白かったです。時間が足りなかったのが残念です。(坂本謙一)

世界の様子を知ることができて勉強になりました。エネルギーとしての原発をなくすためには、原発より安価でクリーンなエネルギーの仕組みを開発して、世界に売り込むのが有効かなと思いました。そして大事なことですが、経済より命を大事にする社会にするため、不便でもそれに甘んじるのが人間としての考え方なのでは? と思います。(匿名希望)

東京外大の強みをうまく活かしたものだったと思います。世界的なイシューに対する各国の考え方を知ることができたのはとても有意義でした。ただ、廃棄物の処理方法について一切調査されていなかったのが驚きだったのですが…。(匿名希望)

各国の原発政策について知ることができてよかった。いろいろ考えさせられたが、結局は脱原発に向けては「リーダー」と呼ばれるような人物の登場を待つしかないのかと思い、それでは蓮池さんの言う「スピード感」は当分出てこないのではないかと感じた。(匿名希望)

世界の原子力・核政策を概観することで、日本国内の「脱原発」の動きが進展しないこと、あるいは蓮池さんの指摘する、日本のエネルギー政策の方針が決められていないことが、合わせ鏡のようによく理解できました。オールorナッシングで進む道が決められなくなっている、反対派も手詰まりになっている状況が感じ取れました。また、フランスでの「原発ジプシー」の問題が、3・11以後明らかにされていったという話は興味深かったです。(匿名希望)

大半の人々はチェルノブイリ、スリーマイルを忘れて行った。所詮よそごと。フクシマも他国から忘れられ、国内でも忘れられ(忘れさせられ)ていくのか。第二のフクシマが起こったほうがよいのだろうか。しかしそれは壊滅ということにほかならない。(匿名希望)

先生方がさまざまな立場・視点からの考えを述べておられて、とても面白かったです。「すべての国が脱原発すべき」というのが、特に伊勢崎さんのお考えなのだと思いました。たしかに、核技術が抑止力になっている面から考えると、すべての国が同時に原発をなくす方向に向かっていくことが必要だと思います。しかし、少し考えてしまうのは、価値観の押し付けになっていないか? ということ。原発に頼っている国の人々の暮らしは、脱原発がなされたら大きな影響を受けてしまいます。原発についてだけでなく、さまざまな国際社会の抱える問題について考えるときに、「価値観を押し付けないこと」は大切だと思います。私自身も、知らないことも考えの至らないところも多いのですが、高校生としていろいろなことを考えていきたいと思いました。(匿名希望)

ゼミ生の発表がとてもわかりやすくまとめられており、よかったです。(匿名希望)

各国の原子力政策について、世論についてよくわかった。福島であんな事故が起き、過去にチェルノブイリがあり、放射能が人間の手に負えないことがわかっていそうなのに、それでも強力な力で、原子力を推進しようとするIAEAや世界中の権力、さまざまな企業、政府……というのはすごいものだと思う。(匿名希望)

なかなか事情のわからない国々の原発のことを説明していただきありがとうございました。貴重な情報でした。あと「移染」という言葉が浸透してきているなと感じました。(匿名希望)

世界各地の原発稼働・建設予定状況がわかりよかった。伊勢崎+蓮池コンビの話も面白かった。(匿名希望)

普段ニュースで見る、聞くことのない、各国の現地新聞等から集められた話にものすごく興味を持ちました。(匿名希望)

個人としてはまだ視野の狭さや知識不足で、今後の日本の原発政策について、はっきりとした意見は持っていない状態です。ただ、今日のレクチャーで得られた外語大の皆さんからの情報と、伊勢崎さん、蓮池さんの見識を活かして、自分の判断につなげていきたいです。群馬から来て非常によかったです。(匿名希望)

大まかな内容ではあるが、10カ国の原発の状況とそれについての方針を調査し、報告していただいたのは、他の講演講座にはない企画でとてもよかったと思う。学生の方々お疲れさまでした。2部の蓮池氏は、抽象的な批判や一般論ではなくもう少し「元当事者」としての持論を展開していただきたかったが、核廃棄物の問題を取り上げたことは評価したい。あと、伊勢崎さんの著書は読んでみたくなった。(匿名希望)

多少駆け足の説明の部分もあったので、頭の中に収めるのに時間がちょっとかかりそうだが、各国の発電状況、原子力政策と核政策について、ある程度理解できたと思う。(匿名希望)

原発事故と国際関係を絡めての内容は、とても興味深いものでした。(佐藤和子)

 

  

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