今週の「マガジン9」

 昨年末の猪瀬直樹・東京都知事の辞任に伴う選挙が2月9日に行われることが決まりました。立候補者が徐々に出揃いつつあるなか、争点のひとつとして、「脱原発」がクローズアップされています。
 それに対して、政権与党の自民党からは、2020年東京五輪開催に向けた街づくりや少子高齢化対策など、都民生活に身近な問題を争点とすべきとの声も上がっています。地方自治体の長の選挙は、国のエネルギー政策を問うものではないということでしょう。しかし、「東京五輪」を視野に入れた選挙であれば、なおさら原子力発電所の議論は避けて通れないと私は考えます。
 2020年までに首都圏を含む日本のどこかで大地震が発生し、既存の原発が再び事故を起こしたら、オリンピック参加を見送る選手が続出する恐れがある。「○○原発は首都から離れているので心配ない」という物言いは、福島第一原発の事故の収束さえままならないなかでの2度目の事故となれば通じず、五輪開催さえ危ぶまれるかもしれません。
 選手の不参加といえば、1980年のモスクワ五輪が思い出されます。その前年のソ連軍によるアフガニスタン侵攻に対する抗議として、アメリカをはじめとする西側先進国の多く(英国を除く)が選手の派遣をボイコットしたのです。モスクワに続く1984年のロスアンゼルス五輪は、その報復として東側諸国が不参加(東欧からはルーマニアが参加)を決めました。後者では初の五輪参加を果たした中国がアメリカ国民から拍手喝采で迎えられたものの、両大会は平和の祭典から遠いものでした。
 それだけに1988年のソウル五輪は目を見張りました。韓国と国交がなかったソ連も参加し、3大会ぶりに東西両国の選手が一堂に集まったからです(ただし北朝鮮は不参加)。韓国で民主化が実現したのは前年、ベルリンの壁が崩壊するのはその翌年。世界のパラダイムの大きな変化を予感させる大会でした。
 私は以前、本サイトでオリンピックの開催地をテーマにコラムを書きましたが、このイベントが「諸国民の平和の象徴」であるならば、五輪開催を控える東京の首長選挙では、東アジアの安定も議論されてしかるべきでしょう。各国首脳との会談もままならないまま、たとえば東シナ海で偶発的な武力衝突などが起こったら……。東京五輪組織委員会にとっては最悪のシナリオです。
 ソウルでの五輪開催決定が、韓国の民主化を進めたように、2回目の東京五輪が、新しい産業構造を基盤とする時代の到来を促し、世界に「平和国家ニッポン」を発信することになってほしいと切に願います。

(芳地隆之)

 

  

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vol.436
脱原発五輪で世界に平和のメッセージを
」 に2件のコメント

  1. ピースメーカー より:

    原子力政策については最大の電力消費地である東京が関われる余地は少なくないと思いますが、東アジアの安定の問題は「感情の錬金術(by高橋哲哉氏)」の問題といえるでしょう。
    高橋氏は「感情の錬金術」を「日本の靖国問題」としてのみ論じ、日本の保守勢力を批判していましたが、感情の錬金術の素材となっているのでは靖国であり、領土であり、そして歴史でもあるのです。
    仮に尖閣、竹島で争われている領土問題が中国、韓国の望むままの結果となったとしても、「感情の錬金術」が機能している限り、今度は南西諸島や対馬で争われることになるでしょう。
    歴史問題でも「感情の錬金術」が機能している限り、日本がいくら謝罪しても、日本の右翼勢力を針小棒大的に見つけ出し日本への非難を続け、従軍慰安婦像や安重根像などの錬金材料は作られ続けます。
    これは「もし、(憲法違反ですが)東京都知事が権力を持って靖国神社を取り潰しにしても、日本における「感情の錬金術」が機能し続けるのでは?」と問われたら首肯せざるを得ないと同じ事です。
    このように「感情の錬金術」の問題は東京の首長選挙程度では解決できる問題ではなく、東アジア諸国の政府ならびに国民が全力を尽くして克服すべき問題であるといえますが、少なくとも護憲派勢力には日本だけで満足するだけでなく、東アジア全体の「感情の錬金術」を克服させる運動が必要でしょう。

  2. 庄秀之 より:

    そのためには、原発以外に、憲法や靖国参拝も争点になるように、訴えかけていく必要があるのではないかと? 少なくとも細川・小泉陣営にははっきりさせるように働きかける必要がある。マスコミにまかせておくと、どうせうやむやのまま選挙突入になるんだから。

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