今週の「マガジン9」

 出版社ロッキング・オン・ジャパンが発行する季刊誌『SIGHT』(2012年夏号)の内田樹氏と高橋源一郎氏の連載対談で、司会役を務める同誌編集長、渋谷陽一氏がこんなことを言っていました。
 「……極端なたとえだけど、『あなたはこれから非常に危険な雪山に行きます。ひとりパートナーを選べます。橋下徹と湯浅誠、どっちを選びますか?』って言われるとさ。……橋下支持者も湯浅さんを選ぶと思うんだよ。いきなりそこで肉体が生じるわけじゃない。そういうリアルを湯浅さんは持っているわけだよね」
 東京都知事の選挙戦の様子を見ていて、1年半ほど前に読んだ渋谷氏の言葉が何度か思い出されました。
 よく「選挙は人気投票ではない」と言われます。「政策本位で選ぶべきである」と。
 しかし、選挙戦で聞く言葉はえてして総花的。いきおい私も渋谷氏のいう「リアル」を感じる人を推したくなる。
 投票をする際は、「厳しい状況に置かれたとき、この人は仲間を支えるだろうか?」をひとつの基準にし、身も蓋もない言い方をすれば、「この人、いざというときにケツをまくるんじゃね?」と疑問に思ったら自分のなかではアウト。顔は笑っているのに、目が笑っていない人は要注意。顔は怒っていても、目は優しい人は信用できる、などなど。
 という個人的な物差しはさておき、私たちの国で「リーダーシップ」の必要性が強調されるようになったのは、バブル以降、すなわち低成長時代に入ってからだと思います。これまでのような経済成長の恩恵を社会の広い層に分配することが難しくなり、リーダーの決断が求められるようになりました。何を拾いあげ、何を捨てるか。「決められない政治から決められる政治へ」というのは、政治家が「自分は何を最優先にしているのか」を明らかにすることでしょう。
 問題は、選挙戦のときに言ったことが、当選後に反故にされたり、逆に約束していないことが実行に移されたりすること。「話が違うじゃん」みたいなことが起こる。
 東京都知事選に勝利した舛添要一氏が、有権者にそんな思いを抱かせませんように、大事な場面でケツをまくりませんように――東京都民ではない私が手前勝手に願っていることです。

(芳地隆之)

 

  

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