今週の「マガジン9」

 アメリカの出入国カードにある質問欄「あなたは次に該当するか」という問いのひとつに、「ドイツ・ナチス政府の、またはドイツ・ナチス政府占領地または同盟関係にあった地域の政府の直接的または間接的支配下で、いかなる人に対してであれ、人種、宗教、出身国、政治的意見を理由として迫害を加えることを命令、扇動、幇助、またはその他の形で参加した者、あるいはいかなる国においてもジェノサイド(大量虐殺)に参加した者」があります。
 ナチスドイツの迫害から逃れた多くのユダヤ人たちを受け入れたアメリカにおいて、ホロコーストは過去の話ではありません。そのアメリカのロサンゼルスに本部を置くユダヤ系人権団体、サイモン・ウィーゼンタール・センターが先日、日本政府に向けて声明を発表しました。東京都内の複数の図書館で『アンネの日記』関連図書が破損された事件に関して、早急に加害者を特定し、しかるべき対処をするよう求めたのです。
 同センターが日本に厳しい口調の声明を発したのは、この半年で2度目になります。最初は昨年の夏。麻生太郎副首相が「ナチス政権下のドイツで、憲法がある日気づいたら、ワイマール憲法からナチス憲法に変わっていた。あの手口を学んだらどうか」という趣旨の発言を行ったときでした。
 そして、その後、安倍晋三首相は国会の場で、有権者に選ばれた最高責任者は自由に憲法解釈を行えるととられかねない発言をし、『ウォール・ストリート・ジャーナル』では、内閣官房参与の本田悦朗氏が「日本が力強い経済を必要としているのは、賃金上昇と生活向上のほかに、より強力な軍隊を持って中国に対峙できるようにするためだ」と語ったと報じられました。
 いずれも統制国家を志向する内容であり、後者に関してはソ連を仮想敵国とした満洲国の統制経済もイメージさせます。
 その後に『アンネの日記』の破損事件が起こった。欧米では、本の破損は焚書とほぼ同義語。「焚書は序章に過ぎない。本を焼く者は、やがて人間も焼くようになる」と書いたのは詩人ハインリッヒ・ハイネです。ユダヤ人であった彼の本もナチスによって焼かれました。
 国際社会において、安倍政権はナチスドイツと親和性が高いと思われていないか。このままでは、日米同盟の強化どころか、気がつけば孤立の道を歩んでいたという事態になりかねません。今回の事件を深刻に受け止めざるをえないゆえんです。

(芳地隆之)

 

  

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vol.442
私たちは孤立への道を歩んでいるのか?
」 に3件のコメント

  1. 孤立化には向かってないでしょう。むしろ皆が気にしてるのは安倍総理が世界のネオナチの「4番バッター」になってしまうことじゃないかな。経済大国日本の総理が仲間に入れば、一気に大きな流れになるもの。

  2. ピースメーカー より:

    一市民が犯したはずの『アンネの日記』の破損事件を安倍政権の政策や発言とシンクロさせ、日本を危険視する風潮を煽る言論は、現在においては国内外のいずれにおいてもマイナスの作用しかもたらさないと思います。
    例えば今のドイツではネオナチが台頭し、極右政党が人々が抱える社会不満の受け皿として勢いを増してます。
    http://www.nhk.or.jp/worldwave/marugoto/2013/05/0508.html
    しかしドイツ社会には今、右翼的な思想が受け入れられやすい土壌が広がっているからといって、それを抑止しようとするドイツの大勢の存在をまるっきり無視して、「ドイツは孤立の道を歩むことになるだろう」といった批判を展開してドイツを危険視する風潮を煽る言論は、ネオナチや極右政党を抑止するどころか躍進に資するでしょう。
    ”30年前インドでスラム路上生活者の居住権闘争をやっていた時、同じデモでも、プロのオーガナイザーには不文律があった。個人攻撃はしない。個人の名前をシュプレヒコールに入れることや顔写真に×などの看板は厳禁。標的はあくまで”イシュー”。これを僕らは「運動の品格」としていた。 だから、ヒットラーに見立てた安倍総理の漫画なんか見ると、(気持ちは分らないでもないが)、運動の表現として、単純に、品がない、と思ってしまう。戒めてもしょーがない、ただ、そういう運動とは距離を置きたいと思ってしまう。” と、伊勢崎賢治氏はツイートされてましたが、品格の無い、攻撃的で脅迫的な言説は「水のつもりがガソリンを火にかけた」事になりかねません。

  3. countcrayon より:

    「日記」破損事件は、単なる偏執的な個人の仕業で安倍政権や国内の空気とは関係ない、という可能性があると私も思います。といっても「関係ない」という根拠もないので、現段階で諸外国の報道が両者をリンクさせるのを止めるのも難しいでしょうけども。
    じっさい嫌韓嫌中本は本屋に山積みだわ、ヘイトデモは野放しだわ(戦っている方があるのも存じてますが)、という事態が以前の日本とは違ってきているので、諸外国の方が心配するのは仕方ないでしょう。たとえばオーストリア自由党のハイダー党首(当時)、とか私がすらすら書けるのも極右の台頭はどこの国でも心配して国際報道に乗るからなのでして。ハイダーさんと違うのは現在の日本は止める者のない巨大与党政権の中枢がそれっぽいことで………そりゃ心配するよ!
    偏狭なナショナリズムを国会で否定された安倍総理には、是非一回カウンターデモの陣頭にお立ちになり、肉声で彼らに真の愛国心を説いて頂きたい、と冗談ではなく切望していますが、その姿が世界に報道されれば「右傾化という誤解」もおのずと解けると思うんですけどねえ。お勧めしますよ、総理。

    それにしても面白いのは
    鳩山さんがオバマ政権に楯突いた!→「ルーピーだ!日米関係崩壊だ!国益どうする!」
    安倍さんがオバマ政権に楯突いた!→「内政干渉だ!オバマ反日!日本来るな!」
    という方、報道がおおぜいあることでして。
    いや、その逆もあるけどね。

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