今週の「マガジン9」

 「日本は官僚が動かしてんだからさ」

 1970年代半ば、中学生だった私のクラスメートはしたり顔で言いました。ちょっとひねくれた秀才といった感じの彼はさらに、

 「だから政治家なんて誰がなっても一緒なんだよ」

 先日行われた統一地方選挙の前半戦は、自民党が1991年の統一選以来、24年ぶりに総定数の過半数に達し、10の道県知事選で推した現職10人も全員が当選となりました。投票率は、道県知事選が47%で、統一選として過去最低だった2003年の53%を下回り、41道府県議選の投票率も過去最低の45%(これまで最低だった前回2011年は48%)とのことです。

 投票率の低さが報じられるたび、私は当時の彼の言葉を思い出します。しかるに当時と今との違いは、前者では日本の経済が成長を続け、その果実が国民全体に広くいきわたっていたのに対して、後者は低成長が続くなか、格差が広がっていること。

 今回の選挙戦では政府の掲げる「地方創生」がひとつのキーワードになっていました。しかし、それをどう実現していくのか。自治体の長にも、地方議会の候補にも、具体的な打つ手があるようには見えない。そのため語る言葉は抽象的になり、それを見抜いている有権者の多くが棄権したような気がするのです。「政治はここまでしかできない。それ以外の部分は有権者の皆さんの助けが必要です」と正直に訴えた方が得票数を伸ばせると私は思うのですが。

 民主主義の社会では、投票に行かないからといって、選挙結果によって生じる事態に対する責任から免れられるわけではありません。しかし、今後は、「政治家がそれをできないのであるなら、私たちがやるよ、やらせてよ」という人が増えていくのではないか。

 かつての業界団体による霞が関への陳情といったものとはまったく異質のロビー活動といってもいいかもしれません。あるいはネットやマスメディアを通して、自分たちの活動を世の中に発信し、共感の輪を広げることで、社会を変えていこうとする動きが各地で生まれるように思えるのです。

 冒頭の「だから政治家なんて誰がなっても一緒なんだよ」的なものは変わらないまま、「世の中を動かすのは私たち」という意識が育っていくといえばいいでしょうか。

 マスメディアはしばしば日本人の「政治への無関心」を嘆きますが、正確にいうと、「政治家への無関心」であり、それが投票率の低下となって表れている。そのことに対する危機意識を当の政治家たちはもちえているのか。今回の統一地方選で抱いた疑問です。

(芳地隆之)

 

  

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