今週の「マガジン9」

 先日の日曜日に今後の潮流を示すかのような2つの出来事がありました。ひとつは、大阪市の解体と特別区設置の是非を問う大阪市民による住民投票で反対が賛成を上回ったこと。もうひとつは、米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設阻止を訴えた「戦後70年 止めよう辺野古新基地建設!沖縄県民大会」に3万5000人が集結したことです。

 前者では、「二重行政を廃止するため」として大阪市の解体を訴える橋下大阪市長と、同市の存続を主張する自民党府連などが対立し、後者が勝ったわけですが、安倍政権は「大阪都構想の是非は大阪市民が決めること」として静観する立場をとりました。本来であれば、自民党府連を応援してもおかしくないのに、このような姿勢をとったのは、憲法改定をはじめとする安倍政権の政策を橋下市長が支持しているからだといわれています。

 後者については、翁長沖縄県知事が辺野古新基地反対の先頭に立っています。昨年の知事選において、自民党が全面的に応援した仲井真前知事を破って当選した翁長氏には、自民党県連幹事長を務めた経験があります。しかし、沖縄が米軍基地の過剰負担に耐えなければならない不条理に反対し、オール沖縄で選挙を戦ったのです。

 同じ党でも立場は真っ向から対立する。これは中央が目指すものと地域が望むことが相容れなくなっているからでしょう(大阪都構想においては大阪府に権限がより集中するという批判が聞かれました)。

 独自の地域活性化論や中小企業論を展開する中沢孝夫氏は、自著『〈地域人〉と町づくり』(講談社現代新書)のなかで、グローバル化の時代だからこそ、「人々はかえって自らのよって立つ場所を必要としている」としてこう書いています。

 「グローバル化は『天下国家を論ずる』ことよりも『身近な地域に直接かかわる』ことを市民に選ばせているのである。……しかし現代の共同体(ムラ)はかつてのように閉ざされたものではない。地縁・血縁で結ばれたものではなく世界につながるネットワークをもっている。世界中から受信し発信できるものである」

 沖縄県民大会で参加者が一斉に掲げたスローガン「辺野古新基地NO」のプラカードは中央の政府や本土の人間のみならず、広く世界に訴えているように見えました。アメリカの映画監督、オリバー・ストーン氏は集会の主張に賛同しています。

 「天下国家を論ずる」人は、自分は正しいと胸を張る。自分に反対する人を容赦なく攻撃する。なぜなら自分は天下国家のことを考えているという自負があるから。

 しかし、天下国家を論ずるだけでは、この国を覆う閉塞感は如何ともし難い。むしろ地域に根づいた発想と行動が社会を変えるのではないか――そう思わせる2つの出来事でした。

(芳地隆之)

 

  

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vol.502
天下国家を論ずるだけでは
世の中は変わらない
」 に1件のコメント

  1. 島 憲治 より:

    「大切なのは誰が言ったかより何を言ったかだ」。これはアインシュタインの有名な言葉だ。「マガ9」の論考を読む余り仕事の時間が削られます。でも読まない訳にはいかない。今、私たちは望みもしない歴史的分岐点に立たされているからだ。いつも貴重なご意見ありがとうございます。

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