今週の「マガジン9」

 今年は全国高校野球選手権大会が始まって100周年とのことです。日本人の多くにとっては夏の風物詩ともいえます。

 戦争の回顧もまた同じ、といっては語弊があるかもしれませんが、甲子園での熱闘が繰り広げられるなか、8月6日、9日、そして15日には、観客も選手も居住まいを正し、亡くなった方々に思いをはせ、過ちは2度と繰り返すまいと誓う。それは日本人の文化として根づいていると思うのです。

 欧米諸国とビジネスを行っている日本企業には、夏の間はパートナーがバケーション気分なので、仕事は進まないという前提で年間計画を立てているところがあると聞いたことがあります。日本の夏も、長期の夏休みの有無にかかわらず、どことなくうきうきする季節ですが、じりじりと照りつける太陽の下、騒々しい蝉の鳴き声を聞きながらも、厳粛になる季節であるともいえるでしょう。

 再び話を高校野球に戻せば、真夏の炎天下で高校生にプレーをさせること、公共放送のNHKが高校の課外活動である野球を全試合放映すること、テレビの露出によって知名度を高めるため学校が野球のうまい少年たちを越境入学させることなど、弊害はあるものの、日本人が高校野球にひきつけられるのは、参加4000校を超えるチームのうち、ただ1校を除いて「すべてのチームが負ける」ことにあるのではないかと思います。最後のアウトをとられてグラウンドにうずくまる、ベンチ裏で泣き崩れる、悔しさをこらえて歯を食いしばる、といった球児たちの姿に、私たちは気持ちを揺さぶられます。

 敗者の美学が日本独自のものなのかはわかりませんが、少なくとも私たちは「負けることを通して学べるものがある」と思っており、「戦後」という言葉には、私たちが戦争に負けたことから学び、2度と戦争に加わることはないというメッセージが込められているのではないでしょうか。

 であれば、「戦後」はずっと「戦後」であってほしい。「戦後レジームからの脱却」は、私たちが独自に培ってきた夏の文化を捨て去ることになりかねません。それは「日本が日本でなくなる」といってもいいくらい、悲しいことではないでしょうか。

 いまだ残暑の厳しいなか、あごを上げて歩きながら、そんなことを考えています。

(芳地隆之)

 

  

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