今週の「マガジン9」

 かつてドイツで生活していたとき、反ネオナチデモに出くわしたことがあります。外国人排斥の示威行動が日増しに激しくなり、難民施設に火が放たれたりするに至った状況に抗した人々が、ベルリン市内で大規模なデモを組織したのです。

 そのときひとりの女性から一枚のビラを手渡されました。私が外国人だったからでしょうか、そこには「ネオナチに対処するための〇〇カ条」と書かれており、もしあなたが運悪く彼らに遭遇してしまったら、こうすべし、がリストアップされていました。

 そのなかのひとつに、胸を張り相手の目を見て、いわゆる「タメ口」をきかず、「ですます」調でゆっくり話すべし、という項目がありました。正面から相手と向き合い、怖いのを我慢して、堂々と振る舞いなさい、というのです。

 それができたとしても、殴られるときは殴られるだろう、と私は思いましたが、同時に、殴られるだけで済むかもしれない、とも考えました。怯えて踵を返して逃げようとしたり、逆ギレして対抗しようとしたりしたら、相手の思うつぼでしょう。命まで危なくなります。堂々と無抵抗であれば、現場を見た人が、助けを呼んでくれたり、警察に通報してくれたりするかもしれません。

 衝突の力を緩和することを考えた方がいいということです。

 先に成立した安全保障関連法案をめぐる議論を思い出せば、この法案を通したい側の人間は、相手の目を見ず、うつむき、ときに語気を荒らげ、たいていは早口で語っていました。

 非常にリスクの高い態度ではないでしょうか。

 お互いの国が相手に対して必要以上の脅威を感じるとき、あるいは恐れるに足らずと過剰に威張るとき、戦争の危険は高まる。だからこそ、国内政治における為政者の振る舞いが気になるのです。

 胸を張り相手の目を見て、ゆっくり、はっきり、丁寧な言葉づかいで語る――そんな政治家が現れれば、現在の政界がボスの言うことには一切異論をはさまず、覚えめでたく出世できるのを待つようなタイプが多いとしても、大きな支持率を獲得できるのではないでしょうか。

 国や権力者が居丈高になったり、卑屈になったりしたときが要注意です。

(芳地隆之)

 

  

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