今週の「マガジン9」

「おい、ジョン・レノンが死んだんやて」

「うそや」

「知らんかったん」

「なんで?」

「撃たれよったんや」

「……」

 自転車に乗った友人は猛スピードで私に追いつくとそう言って、「先行くけん」と再びペダルを踏み込み、あっという間に小さくなってしまいました。

 ジョンがニューヨークの自宅近くで撃たれたのは1980年12月8日の夜。日本時間では9日午後の出来事でした。
 
 ジョンとヨーコの久しぶりのアルバム、「ダブルファンタジー」が出たのは数週間前。母親から小遣いを前借りした私は、町のレコード屋に自転車を飛ばしました。ひと月の小遣いがLP1枚分だったのです。
 
 帰って早速、レコードに針を落とすと、最初の曲「スターティング・オーヴァー」のイントロから引き込まれ、A面が終わるまで、身動きせず、ステレオの前でじっと聴き続けたのを覚えています。

 それなのになぜ(死んだ)?
 私が洋楽を聴き始めたころ、すでにビートルズは解散していましたが、ジョンのソロ活動は比較的オンタイムで聴くことができました。『マザー』、『ワーキング・クラス・ヒーロー』、『イマジン』、『マインドゲームス』、『パワー・トゥ・ザ・ピープル』、『ギブ・ピース・ア・チャンス』……。
「ジョンは、メッセージ性はあるけど、音楽センスはポール(・マッカートニー)の方が上やな」と、したり顔で私を挑発する友人もいましたが、しょせん田舎の高校生同士。FMラジオの番組をこまめにチェックし、毎月地元の本屋さんに1冊だけ届く雑誌「ロッキング・オン」をまわし読みして、背伸びしていただけなのでしょう。

 この時期、巷であまた流れるクリスマスソングのうち、私の胸にストレートに届くのは、『ラスト・クリスマス』(ワム!)よりも、『クリスマス・イブ』(山下達郎)よりも、『ハッピー・クリスマス(ウォー・イズ・オーヴァー)』です。毎年12月、この曲を耳にすると、18才の時、「ジョン・レノンの死」を唐突に知らされ、田んぼ道に一人取り残されたような気分で、自転車でとろとろと家に帰ったあの日を思い出します。
 
 イラク開戦のとき、アメリカでは『イマジン』を流すのが自粛されました。厭戦気分を広げるからというのが理由ですが、米仏ロによるシリアのIS支配エリア(といわれる)への爆撃が続く中(ドイツはフランス軍支援のために派兵を決定しました)、パリで、モスクワで、ベルリンで、ジョンの歌声は聞けるのか。いま彼が生きていたら、どんなメッセージを、どんなメロディに乗せて歌ったのか――そんな想像を巡らせています。

 「この日は真珠湾攻撃の日でもあるんだよな」とつぶやきつつ。

(芳地隆之)

 

  

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