今週の「マガジン9」

 厳しい自然のなかで毎日生きていくこと、それだけでも立派な仕事です――これは先日お会いしたドキュメンタリー映画監督の小林茂さんの言葉です。

 彼の新作『風の波紋』は、冬は豪雪地帯となる新潟と長野の県境の里山で暮らす人々を描いています。村人は屋根の雪を下ろし、米や野菜を育て、鶏を飼って卵を生ませ、山羊を屠る。自給自足を信条としているわけではありません。身近にあるものをいかに活用するか、身をもって知っている。彼、彼女の手には「技」があるのだと思います。

 東日本大震災の日、東京圏の人間の多くが自分の無力さを痛感しました。私もその1人。スーパーマーケットからミネラルウォーターや牛乳、カップ麺などが消えたと戸惑い、生活インフラが機能しないと排泄はどうしようと困る自分たちはいったいどんなところに生きているのかと思ったのです。

 冒頭の小林監督の言葉にならえば、都市の私たちは、本当の意味で「しごと」のできる人間なのか。

 むかし、子どもを預けていた保育園の保護者同士で、「わが子がどんな大人に育ってほしいか」という会話になったことがあります。その際、1人のお母さんが真顔で「(娘には)世渡り上手な人になってほしい」と言いました。そのときの私は笑ってしまったのですが、いまの私はこう思います。彼女は娘に「サバイバル能力を身に付けてほしい」と願っていたのではないかと。

 サバイバルとは他人を蹴落として生き残るということではありません。人間は独りでは生きていけない。だからお互いに助け合う仲間としくみをつくる。農村であれば、それが当たり前のように存在するのかもしれませんが、都市では意識的に動かないと難しい。忙しい日々をやり過ごしている人が大半なのではないでしょうか。ちなみにそういうところでは、本当は些細なことなのに人々がパニックに陥りやすい。横のつながりが薄いからです。

 福島原発の重大事故が収束しないにもかかわらず、大飯で、川内で、高浜で原子力発電所が再稼働されるとのニュースに接すると、この国には、はたして生き残っていく意志があるのか、と疑ってしまう東日本大震災から5年目の東京での初春です。

(芳地隆之)

 

  

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