今週の「マガジン9」

 去る月曜日の夜、ベルリンのクリスマス市に大型トラックが突入し、60人以上の死傷者を出した惨事は、ドイツ当局で「テロ」と断定されたようです。

 事件の現場には第2次世界大戦末期に爆撃で半壊したままのカイザー・ヴィルヘルム記念教会が立っています。同教会は戦争の記憶を後世に残すべく、修復も加えられて保存されることになりました。

 その教会の前でテロが起こったわけです。広島の原爆ドームの前で国際組織による殺傷テロが行われたと想像すれば、多くの方は言葉を失うのではないでしょうか。

 IS(イスラム国)が犯行声明を出したといわれています。ドイツ政府は当初、「事故か、事件なのかを冷静に見極める」と慎重な態度を取っていましたが、米国次期大統領のトランプ氏は早々に「イスラム過激派の仕業」と断定。欧州の右派政党は難民受け入れを厳しく制限するという従来からの主張をさらに強調しています。

 ただ、それでテロは根絶されるのか。

 ISとは私たちが知っている従来のような組織とは違います。公のリーダーがいるわけでも、正規軍が存在するわけでもありません。さらにいえば、どこの国籍をもっていようが、どこの地域に住んでいようが、IS的な思想に共感し、行動をともにすると決意すれば、あなたもISの一員になれるということなのです。

 9・11後、なぜアメリカはアフガン侵攻やイラク戦争という過ちを犯したのか。その理由のひとつは、それを国家間の戦争と位置づけたからではないでしょうか。

 駐トルコ・ロシア大使がトルコの警察官に射殺されたのは、警官がシリアのアレッポで民間人まで巻き添えにする攻撃を続けるシリア政府軍へロシアが支援していることに対する激しい憤りがあったからだと報じられています。しかし、トルコ政府は国内にいるクルド人の独立運動を警戒していることもあり、必ずしもロシアを非難しているわけではありません。

 国家とその構成員である国民の目が必ずしも同じ方向を向くわけではない。それがグローバルな世界なのかもしれません。

 経済のグローバリズムの恩恵を受けて、莫大な富を独占する少数の大富豪が誕生するようになった世界で、その反動が各地で頻発している。そんな時代に私たちは生きている。その課題を乗り越えるのに、私たちはどのような心持ちで生きていけばいいのか、いかに日々を過ごしていけばいいのか。そう問いかける年の瀬です。

(芳地隆之)

 

  

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