今週の「マガジン9」

 三上智恵監督の新作映画『標的の島 風かたか』の試写に行ってきました。前作の『戦場ぬ止み』から2年近く。その2年の沖縄の状況が、あますことなく描かれた映画でした。
 タイトルの「風かたか」とは、三上さんも以前にコラムで書かれていますが、沖縄のことばで「風よけ」のこと。2016年6月、元米軍属による女性暴行殺人事件が起こった後、被害者を追悼する県民大会で稲嶺進・名護市長が口にした「我々は、また命を救う“風かたか”になれなかった」という嘆きの言葉から取られています。
 もちろん、この事件だけではありません。前作でも描かれた辺野古や高江での新基地建設反対の闘い、宮古・八重山の先島諸島で新たに進む「軍事要塞化」、そしてかつての沖縄戦の凄惨な記憶…。そこに描き出されるのは、「本土」によって幾度となく踏みにじられ、犠牲にされてきた沖縄の姿です。「風かたか」になれなかったのは(むしろ、ときに風を起こすほうに荷担さえしてきたのは)「本土」に暮らす私たちでもあるのだと、改めて思い知らされた気がしました。
 選挙で明らかな民意が示されたはずの翌日にさえ、その結果を裏切る基地建設工事が、堂々と再開される。やむにやまれぬ思いで路上に座り込んだ人々は、全国から集まった機動隊員によって、次々と排除され、何事もなかったかのように事態は「粛々と」進行していく。これが本当に法治国家で、民主主義の国で起こっていることなのか。その思いが、何度も口をついて出そうになりました。
 もしかしたら現政権は、沖縄だけではなく全国で、これと同じようなことをやりたいのではないか。さらにそんな思いが頭をよぎったのは、何度も危険性が指摘されてきた「共謀罪」が、またしても国会に提出されるかもしれない、というニュースを読んでいたからかもしれません。秘密保護法や安保法制の強行採決、繰り返されるメディアへの圧力を思えば、あながち絵空事ともいえない気がするのです。

 先島諸島の「軍事要塞化」は、日本を守るためではなく、日本列島と南西諸島を、中国を軍事的に封じ込めるための「防波堤」にしようとするアメリカの軍事戦略によるものだ、とも三上監督は映画の中で指摘しています。「標的の島」とは、決して沖縄だけを指すのではない。その意味でも、この日本列島に暮らす人すべてが、見るべき映画だと思います。公開は3月。ぜひ、周りの方に広げましょう。
 また、今週の三上監督のコラムでは、自衛隊基地建設計画が進む宮古島の市長選挙について書いていただいています。こちらも、ぜひ。

(西村リユ)

 

  

←「マガジン9」トップページへ   このページのアタマへ↑

マガジン9

最新10title : 今週の「マガジン9」

Featuring Top 10/195 of 今週の「マガジン9」

マガ9のコンテンツ

カテゴリー