今週の「マガジン9」

 専門家の言うことを鵜呑みにしていいのか。ときどき思うことがあります。福島第一原発事故とその後の電力会社の対応、日米同盟の堅持を不可侵のものとみなすかのような外交、デフレ脱却のためとする金融緩和、あるいは莫大な建設費のかかる新国立競技場のデザインを選んだ建築家の見識など、普通の肌感覚で考えると「おかしいんじゃない?」と思えることでも、「専門家」がゴーサインを出すことで通ってしまう。

 そこには権威がまとわりつくので、異論をはさみづらい雰囲気が生まれるということもあるでしょう。ただ、それ以上に根強い理由として、過去の延長から現在を見るという抜け難い考え方があるのではないか。とりわけ、過去が成功体験になっていると、なかなか路線を変えることができません。ましてや素人に素朴な疑問を指摘されると、あからさまに不愉快な顔したり、見下したり、ときには逆ギレしたりする専門家もいる。しかし、そのような反応(説明責任を果たさない)のままで通ってしまう事柄はたいていうまくいかないと思うのです。

 外交関係についてもそうです。たとえば、シリア政府軍に対してミサイルを撃ち込んだアメリカの判断を真っ先に支持した安倍首相は、北方領土問題解決を目指してこれまで友好関係をアピールしてきたロシアのプーチン大統領(シリア政府を軍事支援)と会って、真っ向から日本の立場を説明できるのだろうか? 日米VS中国という構図を語る元外交官や文化人がいるけれども、トランプ米大統領と習近平中国国家主席の関係は大国同士のビジネスライクなもの。トランプ大統領が日本と組んで中国に対抗しようとすることがありえるのだろうか?

 外交だって人間同士の付き合いですから、普通の人間関係に当てはめて考えてみることができる。そうすると不思議に感じられることが少なくないのです。

 故・加藤周一さんは戦後、内科と血液学の専門家から「非専門化の専門家」になろうと決意したそうです。もちろん私たちは氏のような博覧強記な人ではありません。けれども、フラットになって世界を見ることはできる。そうすると、これまでとは違ったイメージを抱けることもあるのではないでしょうか。

 マガジン9では、幸い、そんなイメージを投げかけてくれる執筆者がたくさんおられます。ここが「素人が考える時代」のプラットフォームになって、「こういうのもありだよね」という、専門家の常識とは違う選択肢がもっと出来るようになったら面白いのではないかな、と思うこの頃です。

(芳地隆之)

 

  

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