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週間つぶやき日記

第十九回

081022up

10月15日(水)くもり

書店から 平和の棚の 風が吹く

 昨夜(14日)は、新宿のジュンク堂という巨大書店で、恥ずかしいけれどトークセッションというものを行いました。店の中の小さなカフェで、森達也さんと私が、40人ほどの客さんを前に、対談したわけです。
 雨の夜に、私の話なんか聞きに来るような酔狂な方はいないでしょうが、いまや超人気作家(本来はドキュメンタリー映画監督ですけど)の森さんのファンはとても多く、予約はすぐに満員締切りになったそうです。
 最近のいろんな社会現象について、「言葉」をテーマに話したのですが、さすがに森さん、私の問いかけにもすぐに的確なコメントを返してくれて、雨の中わざわざ出かけてくれたお客さんたちにも、満足していただけたようです。
 森さんの著書『死刑』(朝日出版社)『日本国憲法』(太田出版)それに最新刊の『メメント』(実業之日本社)や、私の本『目覚めたら、戦争。』(コモンズ)なども取り上げながら、1時間半ほどのトークでした。
 慣れぬことをやったおかげで、私はどっと疲れました。

 この催しは、ジュンク堂新宿店が行っている「平和の棚」のイベントでした。「平和の棚」フェアを記念して連続5回のトークセッションが企画されました。私と森さんはその第5回ということだったのです。
 さて、「平和の棚」ってなんでしょう。ジュンク堂のHPから引用してみます。

<小社はこのたび、19社の出版社とともに「平和の棚の会」を立ち上げました。「平和」というと、「戦争のない状態」あるいはそれを批判的にとらえるための「戦争状態」をまず発想しますが、ニートやドメスティックバイオレンス(DV)や、ジェンダー差別もパワーハラスメントも、すべて「平和」の問題です。「積極的平和」を視点に入れた「争いと差別のない暮らしへ」と題したフェアをジュンク堂書店新宿店で開催中です。ぜひいちどジュンク堂書店までお越し下さい。新宿駅からすぐです。→約600点がジュンク堂書店新宿店7階に展示されています。>

 この「平和の棚」に、私の本の版元コモンズも参加していて、そのつながりから今回のイベントに呼ばれたというわけです。それにしても、志のある小出版社が集まっての企画、さらにそれを応援しようという書店側の熱意、久しぶりに「出版界のちょっといい話」に触れたようで、なんとも嬉しくなりました。
 さらに嬉しいことに、この企画がとても好評で、10月一杯の開催予定が11月まで延長されたということです。素晴らしい読者の方々も、確実にいらっしゃるのです。
 ちなみに、この「平和の棚の会」に参加している出版社は、以下の通りです。

 インパクト出版会、大月書店、凱風社、学習の友社、かもがわ出版、現代書館、現代人文社、合同出版、高文研、コモンズ、彩流社、社会評論社、新泉社、新日本出版社、新評論、柘植書房新社、刀水書房、梨の木舎、七つ森書館、緑風出版、日本経済出版社、同時代社。(3社があとから参加)

 東京近郊にお住まいの方は、ぜひ一度、ジュンク堂新宿店7階の「平和の棚」コーナーを覗いてみてください。きっと、志の高い素敵な本に巡り会えますよ。

10月16日(木)秋晴れ

大統領 無事の誕生 祈るのみ

 アメリカ大統領選挙も、いよいよ最終ラウンドに入った。民主党オバマ候補と共和党マケイン候補の、最後の直接対決討論会が、15日、ニューヨーク郊外の街で開かれた。
 結論から言えば、オバマ候補の圧勝だったようだ。直後に行われたCNNの世論調査によると、58%対31%でオバマ候補の勝ちという結果が出たそうだ。支持率も、ほとんどの調査でオバマ氏がマケイン氏に10%前後の差をつけている。
 11月4日の本選挙まであと20日もない。このままオバマ氏が地すべり的な勝利をするのではないかとも言われ始めている。
 しかし、不安もある。追いつめられたマケイン陣営が、なりふり構わぬ個人攻撃に打って出たのだ。
 筋金入りの右派思想の持ち主らしいペイリン副大統領候補らが、「オバマ氏はテロリストとの交友がある」とか「オバマ氏が大統領になればアメリカは分裂する」などと、極端なネガティブキャンペーンを展開。演説会場ではその過激な演説に興奮した支持者らが「殺せ、殺せ!」と連呼したり、あげく、その様子を取材していたテレビクルーの黒人カメラマンに殴りかかったりという事態まで引き起こしている。
 当然、「アメリカを分裂させようとしているのは、むしろ、マケイン・ペイリン陣営ではないか」という強い批判が起き、共和党はますます追い込まれているようだ。

 有権者たちは言葉には出さないけれど、人種問題はやはり投票行動を大きく左右する。
 この問題に関しては、投票における「ブラッドリー効果」が有名だ。1982年のカリフォルニア州知事選で、黒人候補のブラッドリー氏が事前の世論調査では、白人候補デュークメジアン氏に10%近くの大差をつけていたにも拘わらず、結果は49%対51%でブラッドリー氏は敗れた。白人層のかなりの部分が「黒人に対する偏見を持っていると見られたくない」ので、世論調査ではウソをついたのだと推測されている。これを「ブラッドリー効果」というのだそうだ。
 マケイン陣営は、この現象を期待しているらしい。しかしそううまくいくものだろうか。

 ただやはり懸念されるのは、“不測の事態”である。つまり、オバマ氏に対する襲撃だ。
 オバマ陣営では、オバマ氏に防弾チョッキの着用を勧めているが、オバマ氏がそれを拒否しているという。

 コリン・パウエル氏という人物をご記憶だろうか。
 彼は、黒人ながら陸軍大将にまで昇りつめ、第1期ブッシュ政権では国務長官を務めた。共和党の中では穏健派で知られ、妊娠中絶や同性愛にも理解を示すなど、党内右派とは一線を画した。そのパウエル氏を大統領候補として推す動きがあったけれど、彼はそれを固辞した。理由は、家族の猛反対だった。
 特に夫人は、「黒人大統領候補が無事に選挙戦を闘えるはずがない」として、最後まで反対し続けたという。
 軍人としてその豪胆さを謳われていたパウエル氏でさえ、黒人差別の恐怖を払拭できなかったのだ。いかに苦し紛れとはいえ、差別を煽り立てるようなマケイン・ペイリン陣営の選挙戦術は、結局失敗に終わるだろう。
 そのパウエル氏が、正式にオバマ候補支持を表明した。マケイン陣営の人種差別を煽るようなキャンペーンに嫌気がさした、ということも理由のひとつだという。共和党の大物が民主党候補の支持にまわった。マケイン陣営はまたひとつ、大きなダメージをこうむったことになる。

 なにはともあれ、マケイン・ペイリン陣営のオバマ氏への過激な個人攻撃が、不測の事態を引き起こさないことを祈るだけだ。

10月20日(月)秋晴れ

総選挙 望むけれども この疑惑

毎回のように書いているけれど、早く解散総選挙を行うべきだ。政治(というより政界)は、もうメチャクチャ状態。

 またも凄まじい勢いで株が乱高下。制御不能のジェットコースター。まるで打つ手がない。
 金融危機が実体経済に波及し始めて、“気分はもう恐慌”である。なのに、政治家たちの右往左往ぶりは果てしがない。それもスキャンダルまみれの大騒動。

 まず、民主党に疑惑が噴き出した。前田雄吉衆院議員がマルチ商法業界(例のねずみ講的商売)から多額の講演料などを受け取り、業界寄りの質問を繰り返していたことが判明。これに小沢一郎民主党党首は大激怒。発覚後すぐさま前田議員を呼びつけ、厳しく叱責したという。
 このため前田議員は16日、次期衆院選には不出馬を表明、民主党からも離脱、涙の記者会見となった。小沢氏の思惑では、これで早期の幕引き、一件落着となるはずだった。しかし、野党に攻められっぱなしの自民党がこの好機を見逃すはずもない。
 「これは一議員の話ではなく、民主党の体質そのものに関わる問題」と、一挙に民主党の本丸に攻め込もうとした。
 けれどここで思わぬしっぺ返し。なんと、こんなマルチ商法を取り締まるべき立場の野田聖子消費者行政担当大臣が、12年前だが、この前田議員とほとんど同じ趣旨の質問を国会で行っていた、と自ら言明したのだ。自民党は、前田議員を攻めれば攻めるほど、自党の人気大臣の足を引っ張ることになる、というジレンマに陥ってしまった。
 しかもこの野田大臣、マルチ商法最大手のアムウェイからパーティー券を買ってもらってもいた。さらに、アムウェイの重役たちの表敬訪問を受けたり、アムウェイの講演会に講師として参加していたことも判明した。
 そのことをどう思うかと記者に問われた麻生首相の答えには、思わず失笑した。
 「消費者問題に関わる大臣だから、そういうところから情報を得るのも必要じゃないか」と言ったのだ。こんな言い訳があるだろうか。呆れるしかない。それだったら、何をやっても許されることになる。

 双方の痛み分けでオシマイかと思ったら、そうはいかなかった。民主党の幹部たち(山岡賢次国対委員長、石井一副党首、藤井裕久最高顧問ら)がマルチ商法の業界団体の関連議連に名を連ねていたり、そこから多額の献金を受けていたりしたことが判明。もう与野党ひっくるめての疑惑の連鎖。  

 しかし、野田大臣がまるで自分から進んで疑惑を明らかにしたようにマスコミでは報道されているが、これはおかしい。
 彼女が国会で自ら明らかにする前日、超有名ブログ「きっこの日記」がその件を暴露していたのだ。むろん、野田大臣はこれに気づいたからこそ、マスコミに報道される前に先手を打ったつもりだったのだろう。しかし、さすがにきっこさん、野田大臣とアムウェイとの癒着ぶりを連日暴露。もしかしたら、野田大臣の進退にまで発展するかもしれない。
 新聞やテレビが、この「きっこの日記」にまるで触れていないのは、どう考えてもおかしい。野田大臣が自ら進んで疑惑を明らかにしたのではないということを、正確に伝えるべきではないか。ブロガーが政治家を追いつめるという、かつてない現象がいま起きているのだということ、そして、大臣の疑惑をつかめなかった自らの取材力の欠如を、マスコミは反省したほうがいい。

 それにしても、スキャンダルが持ち上がるときは、まるで連鎖反応のように続く。
 あの中山成彬前国土交通大臣が、失言暴言妄言のあげくに大臣辞任、次期選挙不出馬宣言をしたのは9月28日のことだった。ところが10月17日になって、再出馬の意向を表明。それを自民党古賀選対委員長にこってりと叱られたらしく、翌18日には再度不出馬を表明。自民党内からも呆れ声しきり。当然、自民党宮崎県連は不快感を表明。ほぼ四面楚歌状態。
 いったい何なんだろう、この人?
 ひたすら自民党の足を引っ張っているとしか思えない。もしかして中山さん、民主党が自民党へ送り込んだ刺客だったりして…(笑)。

 自民党に頭の痛いことは、まだ続く。
 今度は倉田雅年総務副大臣が、フィリピン女性の日本入国に関して、ビザ取得に便宜をはかるよう、法務省と外務省に圧力をかけたという疑惑が持ち上がった。
 フィリピン女性をチャリティーコンサートに出演させるという名目で入国させ、実際はフィリピンパブなどで働かせていた、というとんでもない疑惑だ。その仲立ちをするNPOの責任者が、倉田議員の元公設秘書だったというのだ。

<元秘書は「支援者から倉田先生に話があり、先生から『調べてやれ』と言われ、自分が役所と相談しながら法に触れないような仕組みを作った。今回の事件は店舗が私の仕組みを守らなかったためだ」と話した。日本のフィリピンパブで働く女性をめぐっては、米国務省の「人身取引報告」(04年)が日本を「要監視国」に指定するなど国際的に「人身売買の温床」との批判が高まっていた(後略)>
(朝日新聞10月17日)

 つまり、売買春の疑いさえ持たれているようなところへのフィリピン女性斡旋に、総務副大臣が関与していたらしい、と記事は伝えているのだ。副大臣が“人身売買”の片棒を担いでいたかもしれないという疑惑。もはや言うべき言葉もない。

 与野党あげての疑惑合戦、チクリ合い。
 噴出するスキャンダル、この先まだまだ何が出てくるか分からない。
 20日に発表された各メディアの世論調査では、麻生内閣支持率は軒並み急降下傾向。例えば、毎日新聞では、内閣支持率は9%下がって36%。逆に不支持率は15%も上がって41%。他のメディアでも傾向はほぼ同じである。
 このままでは自民党は、選挙で第1党の地位を確保できそうもない。かといって、選挙を先送りしたところで、支持率上昇の秘策などあるわけもない。むしろ、まだまだ出てきそうな疑惑によっては、奈落の底である。
 麻生首相、ほんとうにもう、どうしていいか分からなくなっている、というところが真相らしい。
 「どうせジリ貧なら、なるべく長く総理大臣の椅子に座っていたい」と側近には洩らしていたという首相だが、いつまでもダラダラと延ばしておくわけにもいくまい。ほんとうに、どうするのつもりなのか。

 何度も「早い時期の総選挙を」と書き続けてきたこのコラムだが、自民党はむろん、民主党の疑惑もひどすぎる。
 政権交代は望むのだけれど、一体どこへ投票すればいいのか。
 「第3の道」を探して、しばらく考え込む日が続く…。

(鈴木 耕)
目覚めたら、戦争。

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