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どうなってるの?!米軍再編その3「ローカルな視点から見た米軍再編」

沖縄で、岩国で、厚木で、着々と進行しつつある「米軍再編」。
しかしそれは、日本だけで起こっている事象ではありません。
世界で今、何が進められようとしているのか、その狙いとはどこにあるのか。
平和に関する情報調査・研究活動で知られる
NPO「ピースデポ」の梅林さんにお話を伺いました。

梅林宏道 梅林宏道(うめばやし・ひろみち) 1937年兵庫県生まれ。東京大学大学院を修了後、大学教員を務めるが1980年に退職。フリーの反戦平和活動家として、NPO「ピースデポ」を設立、代表を務める。現在はピースデポ特別顧問。核軍縮を目指す国際NGO「中堅国家構想(MPI)」運営委員なども務める。主な著書に『米軍再編−−その狙いとは』(岩波ブックレット)、『在日米軍』(岩波新書)などがある。

進行する米軍と自衛隊の「一体化」

前回、グローバルな視点から見た米軍再編、というお話をお聞きしました。そこから視点を変えて、ローカルな側面、日本の中でこの「米軍再編」がどういう意味を持ってくるのかということについて伺っていきたいと思います。
この再編を経て、日本における在日米軍の規模や質にはどのような変化が起こった、あるいは起ころうとしているのでしょうか?

 本質的な変化は、やはり「日本の“同盟国”としての責任をはっきりさせた」というところです。基地ができたとかなくなったとかいうところには表れない部分ですね。それが比較的わかりやすく見えている、本質的な部分で大きな変化が起こったのは、神奈川県のキャンプ座間と東京の横田基地です。

 座間の場合は、米陸軍第一軍団の前進司令部が移動してきました。冷戦後、在日米陸軍における実戦部隊は一貫して減ってゼロになっていたのに、今回、新たに実戦部隊の司令部が復活した。しかもこの新司令部は、地域に縛られない、「いつどこで起こるかわからないテロや戦争」に対応するためにつくられた新しい形態の司令部です。

 そしてその同じ座間に、2007年に新設された陸上自衛隊の対テロ特殊部隊、中央即応集団の司令部が移ってくることになった。これによって大きく変わるのはプランニングの部分です。対テロ戦争の概念設定や立案と、それを実行に移すための訓練計画。結果として日米が一緒に行動するのではなくて、戦争の計画段階から米軍と自衛隊が一緒に「つくっていく」ことができるようにするわけです。

 同じことが航空自衛隊でも起こっています。横田基地ですね。ここには、共同統合作戦調整センターという名前の、日米の共同作戦司令所が設置されます。そこにこれまで府中にあった航空自衛隊の総隊司令部を移して、日常的に協力できる態勢をつくろうとしているんです。

【日本における米軍再編ロードマップ】
※クリックするとPDFファイルが開き、詳しい再編内容を見ることができます。

米軍と自衛隊の司令部が「一体化」されようとしているわけですね。

 実は、すでに海上自衛隊と米海軍についても、横須賀の基地で同じ態勢がつくられています。海上自衛隊の総司令部も、米第七艦隊の司令部も横須賀にあるのです。

 ですから、これで陸海空すべての司令部が日常的に意思疎通を図りながら協力する体制ができる。書類を抱えて徒歩で会議場まで行って一緒に会議をするとか、同じスクリーンを見ながら日米双方で作戦立案をするとか、そういう日常が実現するんですね。

 つまり、軍のトップの部分の一体化というものが、今回の在日米軍再編によって格段にグレードアップしたわけです。これは、単に軍事的な意味だけではなく、政治的な狙いのあるものです。しかし、それは非常に見えにくい。本質的な変化は見えないところで進行していて、基地問題として表面化している部分だけでは本質は捉えきれない。ここが難しいところなのです。

ミサイル防衛計画と集団的自衛権

「米軍再編」というと、どうしても「米軍基地再編」に注目してしまいがちですが、そうした表に出てこない部分に、在日米軍と日本との関係の、本質的な変化があるんですね。

 ただ、その本質が非常に直接的に表れているといえるのが、ミサイル防衛の問題です。共同統合作戦調整センターの置かれる横田基地がその基点になるはずですが、ここには米軍と自衛隊の「一体化」や、集団的自衛権の問題が避けようもなく起こってくる。

具体的にはどういうことですか?

 たとえば、北朝鮮からミサイルが飛んできたとします。そのミサイルを撃ち落とすかどうかというのは、発射されてから3分以内に判断しなくてはいけないんですね。

 ところが、その時点ではミサイルがどこに向かっているものなのかわからないケースが多い。方向的に、ハワイやアメリカ西海岸に向かっているミサイルは青森県や北海道の上あたりを通過します。つまり、結局はそのミサイルがどこに向かっていようと撃ち落とす態勢をとるしかない。

それは明らかに集団的自衛権の問題に抵触しますね。

 また、ミサイルの向かっている標的が確定できたとして、日本ではなくアメリカに向かっているとなったときに、そのミサイル追跡情報を米軍に渡すと、当然集団的自衛権の問題に、少なくとも理屈上はなりますよね。

 ところが、国会ではこれについて、笑いたくなるような議論がされているんです。ミサイルが「飛んでいる」という情報を与えるのは集団的自衛権の行使に当たらないが、「飛んでいるから撃ち落とせ」というメッセージを出すと、行使に当たるという。憲法の問題になるのを避けるために、本当にばからしくなるような線引きをしているわけです。

 また、「ミサイルが発射された」ことをもっとも早期に察知できるセンサー・システムは、アメリカしか持っていません。アメリカは、米本土防衛のために、人工衛星で赤外線を探知するグローバルなシステムを構築していますから。

 自衛隊は、そこから情報をもらわなくては動くことができない。一昨年に北朝鮮がミサイルを発射したときも、最初の情報はアメリカからもたらされたんですよ。そうした情報をもらってやっと、自衛隊のイージス艦は追跡などに動けるわけです。

 だから、ミサイル防衛システムが実戦で役に立つかどうかは別にして、日本がミサイル防衛をやる選択をして機器を購入し、配備をしている段階で、集団的自衛権の問題というのは、形而上学の話では済まなくなっているんです。

 そもそも、日米共同研究を始めると言い出したときには、集団的自衛権の問題に抵触しないよう、日本独自のミサイル防衛システムを構築すると言っていたんです。官房長官の談話の中でも、そう言っています。それがあるとき突然、「アメリカのシステムを買う、アメリカと一緒になってネットワークを組む」という話になった。だまし討ちのようなものですよ。

米軍は「結果として」平和に貢献している?

さて、そうしてあまり注目も集まらないままに、在日米軍の再編は着々と進められようとしています。先日も、岩国市で新市長が空母艦載機移転の受け入れを表明したというニュースが報道されていました。この流れはこの後も、止まることなく進められていくのでしょうか。

 2006年5月に日米戦略協議の最後の報告であるロードマップが出されて、在日米軍再編の方程式は一応つくられたわけですが、事態がそのとおりに進行していくという保証はどこにもありません。各地で抵抗運動も起こっていますし、1995年に定められたSACO合意が沖縄の抵抗で実行できなかったのと同じように、うまくいかないことも十分に考えられる。だからこそ、自民党は岩国市の市長選挙を「絶対に負けられない、米軍再編を実現するための正念場」だと位置づけていたわけです。

 沖縄はやっぱりうまくいかない可能性が高いでしょうし、岩国についても、夜間訓練場をどこにするかという問題が残っています。その見通しが立たないと、米軍は移動できなくなるでしょうね。

それにしても、お話を伺ってきたように、米軍再編によって、日本の自衛隊と米軍が対テロ戦争に向けて一緒に協力してやっていくという態勢がつくられつつある。それは安保条約にも、もちろん憲法9条にも明らかに反しているとしか思えないのですが、政府内でのそのあたりの議論はどうなっているのでしょうか?

 それについては、小泉内閣の川口順子外務大臣のときに、行き着くところまで行ってしまっていると言えると思います。

 安保条約の第6条、いわゆる「極東条項」にある、日本の安全、極東の平和と安全の維持という目的外で在日米軍が行動しているのではないか、という指摘に対して、川口は「政府の統一見解」としてこういうことを言っているんです。

 「日本はこれまで戦争に巻き込まれておらず、米軍は結果として日本の平和を確保するのに貢献している以上、それ以外の任務で米軍がどこに移動しても構わない」。

 しかし、平和だったのは米軍がいたからなのか、それとも「米軍がいたにもかかわらず」、憲法9条があったから平和だったのか、そんなことは証明できることではない。こんな言い分がまかり通っていては、もうどうしようもないです。状況が変わるには、政治がまともになるしかないと思いますね。

日本人が気づいていない、日本の持つ力

では、アメリカ側の状況はどうなのでしょうか。現在の米軍再編はブッシュ政権のもとで進められてきたというお話でしたが、今年はアメリカ大統領選挙があり、現時点では民主党が優勢だと言われています。政権が替われば、在日米軍再編の流れにも変化はあるのでしょうか。

 少しは変わるでしょうし、その変わり目を利用したほうがいいとは思います。ただ大きな枠組み、アメリカが日本に対して期待している日本像というのは変わらないでしょう。

「期待している日本像」とは?

 もっとグローバルに責任を持つ——これは、彼らの感覚でということですが——国にしたいということですね。少なくともヒラリー・クリントンはそうでしょう。

 逆に言えば、それはアメリカがアジア太平洋方面を見たときに、やはり日本以外に味方につけたい、頼りになる国はない、ほかに選択肢がそれほどないということでもあります。彼らにとって日本は失いたくないパートナーで、言い方を変えればそれだけ日本は大国だし、力を持っているんですよ。

そう考えると、アメリカの「踏み絵」に対して、言いなりになる必要性はどこにもないのでは、とも思えてきます。

 2000年にロバート・マクナマラが来日したときに、彼を外務省へ連れて行ったんですが、「日本は何をアメリカのご機嫌ばかりうかがっているんだ、アメリカの言うことばかり聞いていないで、たとえば北東アジアに非核地帯をつくればいい、そうすればアジアは変わるんだ」といったことをまくし立てていましたね。

 マクナマラだけでなく、特にそれなりに世界を見た経験のある民主党の政治家などの多くが、「日本はアメリカに言うことをきかせるだけの力があるんだから、日本流のアジア・ビジョンをちゃんと持てば、アメリカはそれについていくはずだ」といったことを言っています。アメリカの中でさえ、そういったセンスを持った人は大勢いるんですよ。

米軍再編イアブック 核軍縮平和 2007
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アメリカの突きつける「踏み絵」に、ただ黙って従うのか、
それとも、違う形の「アジア・ビジョン」をつくってゆくのか。
その選択が今、問われているのではないでしょうか。
今後も引き続き、シリーズをお送りしていきます。

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