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どうなってるの?!米軍再編〜番外編「宇宙基本法って何?」

21日に成立した「宇宙基本法案」。これによって、自衛隊が直接、ミサイル防衛に必要な早期警戒衛星を独自に持つことができたり、様々な軍事目的での宇宙空間の利用が可能になったりする。1969年の国会決議に基づく「非軍事」原則が緩められての大転換となる法が、わずか数日の国会議論で成立。もちろん国民の論議などわき起こる前に、そそくさと成立である。
経済界は歓迎しているそうだが、それによって国民の負担(開発にはものすごい額の税金が使われるはず)はどのぐらいなのか? 自衛隊の活動にどんな歯止めをかけるのか? 軍事目的というが9条との兼ね合いは? そもそも「宇宙基本法」って何なのか? わからないことだらけであるが、これも一つの米軍再編に伴う結果であろう。津込仁氏に緊急解説してもらった。(以下原稿は5月20日時点のもの)

「宇宙基本法」という甘い罠

 またしても、キナ臭い法案が成立しようとしている。しかも、今回は与党のゴリ押しという法案ではなく、自民公明の与党に加え、民主党も賛成しての、議員立法による法案成立、ということになるらしい。
 5月14日に、自民・公明・民主の3党合意で衆議院を通過した「宇宙基本法案」というのが、それだ。なにしろ、この3党が賛成しているのなら、ねじれ国会であろうとも、なんの問題もない。すんなりと参議院も通過し、今国会で成立してしまう。
 共産、社民の両党は賛成していないけれど、圧倒的な数の力、ごまめの歯軋りにもならない。

 この法律の、どこがキナ臭いのか。

美しい言葉は疑え

 総則の中の第一章では、いつもと同じように、美しい言葉の羅列が続く。
 まず、第一条で「宇宙の平和利用」が高らかに謳われている。第二条には「日本国憲法の平和主義の理念にのっとり、行われるものとする」と、またも日本国憲法の平和主義が取り上げられる。
 なにか後ろめたいことをしようとするときに、その後ろめたさを隠すために使われる言葉の第1位が、この「平和」である。

 米軍基地のある街を訪ねてみるといい。基地周辺の道路や歓楽街に、たいてい「平和通り」なる場所があることに気づくだろう。戦争と平和は、いつでもセットで使い分けられる。硝煙を隠すために、平和は利用されるのだ。

 だから、この法律の「平和利用」の内実が問題なのだ。 条文は、ほんとうに美しい言葉のオンパレードだ。
 宇宙開発は「国民生活の向上」のためであり、「産業の振興」に寄与し、「人類社会の発展をもたらし」、「国際協力」や「環境への配慮」にも留意する、などと列挙される。

隠されている危険性

 だが、衣の裾から鎧がのぞくのは、いつものことだ。
 条文を読んでみる。
(例によって、だらだらと分かりにくい文章が続くのも、いつものことだ)

(国民生活の向上等)
<第三条・宇宙開発は、国民生活の向上、安全で安心して暮らせる社会の形成、災害、貧困その他の人間の生存に及び生活に対する様々な脅威の除去、国際社会の平和及び安全の確立並びに我が国の安全保障に資するよう行わなければならない。>

(国民生活の向上等に資する人工衛星の利用)
<第十三条・国は、国民生活の向上、安全で安心して暮らせる社会の形成並びに災害、貧困その他の人間の生存及び生活に対する様々な脅威の除去に資するため、人工衛星を利用した安定的な情報通信ネットワーク、観測に関する情報システム、測位に関する情報システム等の推進その他の必要な施策を講ずるものとする。>

(国際社会の平和及び安全の確保並びに我が国の安全保障)
<第十四条・国は、国際社会の平和及び安全の確保並びに我が国の安全保障に資する宇宙開発を推進するため、必要な施策を講ずるものとする。>

 ほとんど同じ条文が出てくることにお気づきだろう。そして、この法律が、何を目指しているかにも、お気づきのことと思う。
 ここで言う「人間の生存及び生活に対する様々な脅威」とは、いったい何か。この言葉を、何度も重ねて使わなければならない理由が、言葉の陰から透けて見えてくる。
 アメリカがイラク戦争開始の際に用いたロジックと、これは基本的には同じなのだ。
 「我が国の安全保障」との名目で、アメリカはイラクに侵攻したのではなかったか。それに追随して、「我が国の安全保障のために」ブッシュの戦争に、世界中のどの国よりも早く支持を与えたのは、日本という「我が国」ではなかったか。
 その結果、10万人超えるイラク人が死亡した(国際NPOのイラク・ボディ・カウントの発表による)ことを、自民党と公明党はいまでも正しいと思っているのか。

 どうとでも解釈できる条文を持つ法律は、必ず悪用される。例など挙げるまでもない。

軍需産業との癒着

(民間事業者による宇宙開発の促進)
<第十六条・国は、宇宙開発において民間が果たす役割の重要性にかんがみ、民間における宇宙開発に関する事業(研究開発を含む。)を促進するため、自ら宇宙開発に係る事業を行うに際しては、民間事業者の能力を活用し、物品及び役務の調達を計画的に行うよう配慮するとともに、打上げ射場(ロケットの打上げを行う施設をいう。)、試験研究設備その他の設備及び[中略]、民間における宇宙開発に関する研究開発の成果の企業化の促進、宇宙開発に関する事業への民間事業者による投資を容易にするための税制上及び金融上の措置その他の必要な施策を講じるものとする。>

 ここに、民間事業者参入を促す明確な宣言がある。特に「ロケット」を明記していることは重大である。これが、瞬く間に軍事技術に転用されるのは、言うまでもないことだろう。
 「民生用の人工衛星」や「その打上げ技術」が、スパイ衛星やミサイル技術に転化していったことは、宇宙技術開発の歴史をひもとけば、一目瞭然ではないか。
 そこへ参入した「民間企業」が、恐るべき軍需産業として成長していく様は、ヨーロッパやアメリカの例を挙げるまでもない。

 事実、日本におけるトップの軍需産業であるM社などが、この法案の推進役を担った「日本の安全保障に関する宇宙利用を考える会」(自民党の国防族議員たちが、宇宙技術分野の民間企業や防衛庁(当時)幹部らと、2005年に立ち上げたもの)などに、大きな献金をしていると言われている。
 企業が意味もなく献金するわけもない。その裏に、巨大な利権が隠されていると見ても差し支えない。
 そしてそれは、衛星誘導による無人偵察機、もしくは攻撃機の配備まで望んでいるといわれる防衛省や国防族議員の思惑とも一致する。

宇宙が戦場になる日

この法案が成立すれば、いままではさすがの政府も認めては来なかった、自衛隊によるMD(ミサイル防衛)のための高解像度を持つ偵察衛星(いわゆるスパイ衛星)の開発や打上げも可能になることになる。防衛産業を形作る連中が望んでやまない無人攻撃機配備までは、ほんのあと一歩なのだ。

 この法律では、情報管理の必要性や、民間企業参入の促進も謳われている。
 そうなれば、「秘密保持」の名目で、情報は国民にはほとんど開示されなくなるだろう。私たち国民の目の届かないところで、宇宙を舞台にした軍事開発が進展していくのは、止めようもない。

 こんな法案に、なぜ民主党はやすやすと乗ってしまったのだろうか。
 いま大問題となっている後期高齢者医療制度は、2年前に成立したものだった。しかし、その際の国会質疑では、民主党はこの制度の危険性にまるで気づかなかった。
 「いまになって、あの法律はおかしい、と言い出すなんて、それこそおかしい」と、厚労省の官僚たちは民主党を馬鹿にしている、とも聞く。
 宇宙基本法案は、衆議院ではたった2時間の審議しか行われなかった。そんな短時間で、こんなキナ臭い法律が易々と成立していいものだろうか。

 何年か後…。
 宇宙で繰り広げられる軍拡競争に怯えながら、
 「ああ、あのとき、もっと時間をかけて内容をチェックしておくべきだった」
 などという後悔の言葉とともに、空を見上げることには、なりたくない。

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