雨宮処凛がゆく!

 報道などでご存知だと思うが、弁護士の宇都宮健児氏が、都知事選に出馬することとなった。

 宇都宮弁護士と言えば、日弁連前会長であり、08年から09年にかけて日比谷公園で開催された「年越し派遣村」の名誉村長であり、そして私が副代表をつとめさせて頂いている「反貧困ネットワーク」の代表である。

 ここ数年、反貧困の現場で共に活動を続けてきた。この連載にも何度も登場している。私にとっては人生の大先輩であり、「活動家」としてもっとも尊敬する人である。そんな宇都宮弁護士が都知事選に出馬するのだ。これは応援するしかない!!

 そんな宇都宮弁護士と初めて出会ったのは、おそらく07年。湯浅誠氏が貧困問題をなんとかするため、「反貧困ネットワーク」設立に向けていろいろ動き始めた頃だと思う。

 宇都宮弁護士のことは、以前からメディアなどを通して知っていた。多重債務問題にいち早く取り組み、借金に苦しむ人たちのために奔走している弁護士さん。

 そうして実際に会った宇都宮弁護士は、まさに「弱者の味方」というイメージ通りの人だった。いや、イメージ以上の人だった。

 第一印象で強烈に覚えているのが「パンと牛乳」だ。

 初めて出会った日は、反貧困ネットワークの準備会的な集まりだった。場所は都内どこかの会議室。会議室に宇都宮弁護士が到着した瞬間、私はひそかに緊張していた。何しろ、テレビなんかにもよく出てるとても有名な弁護士さんなのだ。おお、ホンモノだ、せっかくだからよく見ておこう。そんなふうに思っていると、宇都宮弁護士はおもむろに持参したコンビニの袋からアンパンと牛乳を出し、食べ始めたのだった。

 それを見た瞬間、私はなんだか感動していた。メディアなんかで「庶民の味方」などと取り上げられてはいても実態は違う人などザラにいる。というか、そっちの方が多数派だろう。しかし、目の前の、非常に社会的地位が高いはずの弁護士さんは、当たり前のようにアンパンを食べ、牛乳を飲んでいる。またその姿が、妙に似合っている。アンパンと牛乳という昭和っぽいセレクトもいい。この人は、本気でいい人に違いない。私は一瞬で宇都宮弁護士を信頼し、なついた。

 そんな宇都宮弁護士と出会って、5年。その間、本当に様々なことがあった。

 出会ってからはすぐに反貧困ネットワークで活動を共にするようになり、様々な集会やイベントでご一緒し、年越し派遣村で悲しみと怒りを共有し、私がやっていたネットラジオの番組「オールニートニッポン」にはゲストとして出演して下さり、集会の打ち上げなどではいつも安居酒屋で飲んできた。そうして2010年には、宇都宮弁護士が日弁連会長に就任。

 また、3・11後は、被災者支援や脱原発に取り組む姿を見てきた。

 宇都宮弁護士からは、本当に様々なことを学んできた。「法律」を駆使すればいろんな闘い方ができること。現実は様々な活動や運動によって動かすことができること。宇都宮弁護士が取り組んでいたグレーゾーン金利の問題などからは、世の中は、法律を変えたり作ったりすることで本当に良い方向に変えられるんだ、と目からウロコだった。だけど一番学んだのは、弱者に徹底的に寄り添う姿勢だ。宇都宮弁護士の活動のおかげで、どれほどの人が多重債務を苦にした自殺という最悪の事態から救われただろう。

 貧困問題にかかわるようになってから、厳しい現実を多く目にしてきた。どうして弱者がいとも簡単に切り捨てられるような事がまかり通るのかと、何度も震えるほどの怒りに包まれてきた。

 そんな中でも心が折れずにやってこられたのは、運動を通して私自身が「人間への信頼」を取り戻したからだ。そしてその「信頼回復」のきっかけのひとつに、宇都宮弁護士との出会いがある。人間は、損得だけで動くものじゃないんだ、と思えたこと。自分の得とか一切考えずに、ただ淡々と困っている人の手助けを当たり前のようにする人がいるのだ、と気づけたこと。尊敬できる大人が増えると、生きづらい世界は随分生きやすくなる。「自分もこうなりたい」という目標ができると、人はなんだか謙虚になる。会議のたびに5割くらいの確率で「パンと牛乳」を持参する宇都宮弁護士の姿から学んだことは、本当に多い。

 そんな宇都宮弁護士が都知事選出馬だ。

 しかも、これまで取り組んで来た貧困など様々な問題に加え、大きく「脱原発」を掲げての出馬である。

 都知事選、都民以外の人たちにも、大注目していてほしい。

 この選挙自体が、石原都政で壊されてきたものを、ひとつひとつ、取り戻していくものであれば、と思っている。

 

  

※コメントは承認制です。
第247回 都知事選に宇都宮弁護士が出馬!! の巻」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    昨年4月、原発事故の直後に行われた都知事選で、石原前知事の当選が伝えられたときのショックは忘れられません。
    今度こそ、弱者を踏みにじり続けてきた石原都政から決別する機会にしたい。
    そう思います。
    ちなみに宇都宮弁護士、以前には雨宮さんとのこんなショットも掲載されてます。

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雨宮処凛

あまみや・かりん: 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮日記」

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