三上智恵の沖縄〈辺野古・高江〉撮影日記

沖縄・普天間基地へのオスプレイ配備をめぐる抵抗運動の様子や、新たな米軍基地建設計画が進む沖縄本島北部・東村高江の住民たちの闘いを描いたドキュメンタリー映画『標的の村』を撮影した三上智恵さん。辺野古や高江の 現状を引き続き記録するべく、今も現場でカメラを回し続けています。その三上さんが、本土メディアが伝えない「今、何が沖縄で起こっているのか」をレポートしてくれる連載コラムです。毎週連載でお届けします。

第17回

知事選後2日で潰された民意~おばあの怪我で怒り頂点に~

 これが沖縄か!
 これが沖縄か!
 これが沖縄なのか!

 辺野古に向けてハンドルを切りながら私は叫んだ。20日昼前、島袋文子おばあ(84)が機動隊と衝突して転倒、救急車で運ばれたと連絡が入った。なんという事を。彼女を守れなかったことが悔しくてフロントガラスが霞む。なぜこうなるんだ、知事選に勝ったのに!

 基地反対の民意をはっきりと示したはずの県知事選挙、そのわずか2日後の18日夜中、埋め立て用資材が大量にキャンプシュワブに搬入された。海の方では浮桟橋が再び姿を現し、海保のゴムボートや船も30隻を超え、あっという間に2か月前と同じ臨戦体制に戻ってしまった。19日、ゲート前では知事選勝利の空気は吹っ飛んでいた。新知事就任前の駆け込み工事をさせまいとトラックを止めようとする市民と機動隊のにらみ合いが続いた。

 この日、文子さんはリハビリで週に一度のお休みだったので、私は夕方彼女の家を訪ねて緊迫したゲート前の1日を報告した。
 「なぜ私のいない日に!」とおばあは悔しがり、「基地は嫌だと、私たちは翁長さんを選んだんだ。こちらが正しいのであって、トラックを入れさせてはいけない」ときっぱり言った。かっこいいねえ、おばあ! という私に向かって文子さんは
 「私に指一本触れてごらん。ただじゃおかないよ」とすごんで見せてから、「おばあが役に立てるのはこれしかないからね」と笑った。そして二人で辺野古の古いレストランに行き、ラーメンを食べて帰った。

 前日にかっこいいねえ、とおばあを焚きつけるようなことを言った自分の言動を何度も何度も思い出しては唇をかんだ。あんなことさえ言わなければ。おばあにもしものことがあったら。半泣きのままカメラを回しながら、現場についてみた光景は、これまでになく荒れていた。

 何人もが泣きながら沖縄県警に抗議していた。リーダーの山城博治さんが涙を拭きながら絶叫しているのも初めて見た。今回の私の映像で、沖縄の島言葉で誰彼かまわず喰ってかかる博治さんをみて「常軌を逸した攻撃」と非難する人もいるだろう。これが基地反対運動か。チンピラと一緒だと引いてしまうかもしれない。でも、これだけは言える。あの場にいた人間は全員、よくも大事な大事なうちのおばあを傷つけたな! と機動隊に掴み掛り、胸の一つも殴ってやりたい衝動に駆られていた。みんながそれをやったらそれこそ暴力団になってしまう。この日集まった50人は、博治さんが「お前だってウチナーンチュだろう! お前の家だって家族だってわかるんだ、みんな親戚みたいなもんなんだ。なのに任務だからってひどいことをやり逃げするのか? お前の家族はそれを許すのか? おばあを傷つけて、涼しい顔でこの島で生きていけると思うのかクソッタレ!」と叫びまわるのを聞きながら、歯を食いしばって座り込んでいた。博治さんがみんなを代表して怒り狂ってくれなければ、あの場はもう、どうなっていたかわからない。文子おばあのかたき! と全員破れかぶれで突っ込んで行きたいのを、いつもの歌や冗談でなんとか保っている。そういうギリギリの状況にある現場の様子を伝えたくて、リスクも承知でこのサイトにアップしている。本当は心を痛めているに違いない警察官の表情も、悲しみと矛盾の群像としてみて欲しい。この文章と切り離し、基地反対運動批判のために映像を悪用することだけはお願いだからやめて欲しい。マガ9読者を信頼して掲載させていただく。

 幸い、島袋文子さんはその日の夕方自宅に戻ることができた。本人の話によると、朝9時半ごろ現場に行ってまもなく、トラックを止めようと前に回ると機動隊員に両脇を掴まれ引っ張られたのでバックミラーの部分を必死でつかんでいたら、その手の指を一つ一つ警官に剥がされ、後ろに転倒した。両脇にいた機動隊員はなぜかいなかったという。一瞬意識がなくなり、数時間も震えが止まらず、レントゲンやCTスキャンを撮った。自宅に帰ってからも首と肩の痛みを訴えていた。後頭部には大きなこぶもできていた。痛々しかったが、話ができるまでになっていることを神さまに感謝した。駆けつけた家族とも話し合い、しばらくは座り込みはお休みすることになった。

 映像にあるように、文子さんが怪我をした19日と20日の攻防は激しく、それまでは排除が始まると警察官に体を触られるのを嫌がって列を離れる女性もいたが、この日はだれも自分から立ち上がらなかった。最後の一人までアスファルトの上に身を投げ出していた。
 急転直下、修羅場になったゲート前の様子をネットで見て駆けつけてくれた人も多く、早朝から集合がかかった21日にはこれまで見たこともない人たちが大勢駆けつけ、テントは300人規模に膨れ上がった。その勢いでゲート前の「殺人鉄板」を占拠して座り込んだ結果、海では海保が撤退をはじめ、現知事の任期中に追加工事を進めるのは不可能という展開になった。衆院解散もあり、こんな騒ぎの中で選挙は戦えないという政治判断もあっただろう。しかし「だれが知事になっても基地建設は粛々と進める」とうそぶく政府のパフォーマンスは、押し返すことができた。土曜の夕方、ゲート前では安堵と歓喜のラインダンスもとびだした。文子おばあの空席を囲みながら、怒りの4日間はこうして幕引きとなった。

 叩けば叩くほど、強くなっていく。1人を押し倒すと3人が起き上がってくる。これは昨日や今日始まった悔しさではないのだ。沖縄戦から70年の困難の中で、新しい知事を選んだこの局面が歴史にどう刻まれるのかという問題だ。私たちは転換期に直面している。

 沖縄民謡の「敗戦数え歌」の歌詞にこんな一節がある。

 九つ 困難あたてぃから
 ありくり むぬう物思みさんぐとぅに
 解放さりゆる しち節待たな  

 (訳 敗戦・占領という困難に当たっても、
 あれこれ思い悩まず解放される時期を待ちましょう)

 解放される時、その「節(しち)」を沖縄県民は充分に待った。いつまでも「敗戦数え歌」を歌っているわけにはいかないのだ。これからこの島の主役になっていく、子や孫のためにも。

三上智恵監督新作製作のための
製作協力金カンパのお願い

沖縄の基地問題を描く、三上智恵監督新作の製作を来年の2015 年完成を目標に開始します。製作費確保のため、皆様のお力を貸してください。

◎製作協力金10,000円以上、ご協力いただいた方(もしくは団体)は、映画HPにお名前を掲載させていただきます。
◎製作協力金30,000円以上、ご協力いただいた方(もしくは団体)は、映画エンドロール及び、映画HPにお名前を掲載させていただきます。
※掲載を希望されない方はお申し込みの際にお知らせ下さい。

■振込先
郵便振替口座 00190-8-513577
名義:三上智恵監督・沖縄記録映画を応援する会

 

  

※コメントは承認制です。
第17回 知事選後2日で潰された民意~おばあの怪我で怒り頂点に~」 に4件のコメント

  1. magazine9 より:

    知事選の結果に喜びの声が上がった直後、辺野古での工事強行の様子がSNSなどを通じて伝わってきたときには、思わず目を疑いました。知事選で示された民意をまるで無視した行動。これが「信を問う」という政府の姿勢なのでしょうか。動画から伝わってくる悔しい思いを、「信を問う」衆院選に反映させなくてはと思いました。

  2. 西平賀亨 より:

    許せません。
    こんな事があっていいのか。
    怒りと悲しみで一杯です。
    二度とこんな事を起こさせたくないです。

    自分に出来る事は何か、思案しています。
    私はメンタルを患っていて毎日デイケアに通っていて、現場に行く事は難しいです。
    でも、自分のいる場所から支援する事や周りの人を啓蒙する事は出来ます。
    三上監督の次回作に期待しています。
    私も自分の今出来る事を精一杯やって、二度とこんな事件が起きないようにします。

  3. 田中冽 より:

    凄いね。「これは昨日や今日始まった悔しさではないのだ。沖縄戦から70年の困難の中で、新しい知事を選んだこの局面が歴史にどう刻まれるのかという問題だ。私たちは転換期に直面している。」その通りだ!

  4. 千原@京都 より:

    日々のご奮闘、有難いです! ウチナーの人びとも三上智恵さんも。
    ありがとうございます!

    文子おばあは、大丈夫でしょうか? お見舞い申し上げます。

    総選挙ですが、沖縄にヤマトが学べないのが悔しいです。
    建白書グループとして、あかみね政賢さん、テルヤ寛徳さん、玉城デニーさん、ナカサト利信さんと、共産・社民・生活・元自民の各党からの候補者を立てる!
    長い苦闘の中からこそ体得なさった智恵と言うか…。

    あまりの不合理・欺瞞・圧政・暴虐・既に戦前=ふたたび戦争への道・・・に、抗うことに、今、心をひとつにしないで、どうするのか!?
    ウチナーが教えてくれているのに、ヤマトでは心をひとつに出来ません。

    降りる勇気と誉れをもって、
    なんとしても思いの分断を避けたいのですが・・・・。
    沖縄にま学ばなければならないのですが・・・・。

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三上智恵

三上智恵(みかみ・ちえ): ジャーナリスト、映画監督/東京生まれ。大学卒業後の1987年、毎日放送にアナウンサーとして入社。95年、琉球朝日放送(QAB)の開局と共に沖縄に移り住む。夕方のローカルワイドニュース「ステーションQ」のメインキャスターを務めながら、「海にすわる〜沖縄・辺野古 反基地600日の闘い」「1945〜島は戦場だった オキナワ365日」「英霊か犬死か〜沖縄から問う靖国裁判」など多数の番組を制作。2010年には、女性放送者懇談会 放送ウーマン賞を受賞。初監督映画『標的の村~国に訴えられた沖縄・高江の住民たち~』は、ギャラクシー賞テレビ部門優秀賞、キネマ旬報文化映画部門1位、山形国際ドキュメンタリー映画祭監督協会賞・市民賞ダブル受賞など17の賞を獲得。現在も全国での自主上映会が続く。15年には辺野古新基地建設に反対する人々の闘いを追った映画『戦場ぬ止み』を公開。ジャーナリスト、映画監督として活動するほか、沖縄国際大学で非常勤講師として沖縄民俗学を講じる。『戦場ぬ止み 辺野古・高江からの祈り』(大月書店)を上梓。
(プロフィール写真/吉崎貴幸)

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