時々お散歩日記

 先週は沖縄取材のため、このコラムをお休みした。10日~13日の4日間。なかなか忙しい、そしてスリリングな4日間だった。

 けっこう辛辣な方もいらっしゃるようで、コラムを休んだことについて「都知事選でガックリきて、コラムを書けなかったんでしょう」などというメールがきたし、「細川氏を支持したあなたは、この結果について反省し、きちんと総括しろ。それがなければ、あなたはもう誰にも信用されないだろう」とまでツイートしてきた人もいた。
 僕は苦笑する。
 確かに、あの結果にはそうとうガッカリした。しかし、僕は表立って細川氏支持を言ったことは、一度もない。「時々お散歩日記」でも「デモクラTV」でも、僕は一貫して「脱原発候補の統一を」と言い続けてきただけだ。それをどう受け取られようと仕方ないが、僕は反省なんかしていない。ただひとつ残念な点があるとすれば、統一化に僕の意見なんて何の足しにもならなかったな…という淋しい思いだけだ。

 正直な話、宇都宮氏に対しても細川氏に対しても、僕にだって言いたいことは山ほどある。けれど、選挙戦が始まってからは、僕はその[言いたいこと]を封印した。統一化ができない以上、どちらの候補にも最善を尽くしてもらいたい、と思うしかなかったからだ。
 そして選挙が終わった今も、僕はその[言いたいこと]は封印している。この「マガジン9」でも、様々な意見が飛び交った。統一を望むもの、厳しく反対する論、それらの文章への読者からの意見。
 そして、結果は出た。
 先週の雨宮処凛さんのコラム「雨宮処凛がゆく! トーキョー・ノーサイド宣言!!」の趣旨に、僕はほとんど同意する。都知事選ではふたつの陣営に分かれたけれど、脱原発・反原発に垣根はない。官邸前や国会前、そしてあらゆる場所で、また一緒に訴え続けよう。
 選挙結果への不満・憤懣を、一方への個人攻撃で晴らしてはいけない。僕の[言いたいこと]は、わだかまりが解け、同じ戦線でもう一度手を握りなおしたときまで言わずにおく。

 そう思うとき、鎌田慧さんへの一部の罵声ともいえる批判に、僕は激しい怒りを覚える。鎌田さんがこれまで原発や他の社会問題について行動し発言してきた内容を考えれば、僕には鎌田さんの心情がよく分かる。
 最近の安倍首相の、あまりにひどい右翼的なのめり込みの姿勢に、どう「待った!」をかけるか、それが鎌田さんたちの今回の都知事選における最重要課題だったのだと思う。
 小泉元首相の在任中の新自由主義的政策、自衛隊の海外派遣、ブッシュの戦争への支持などは、鎌田さん自身もこれまで強く批判してきた。そんな鎌田さんだから、決して小泉政策を認めたわけではない。しかし、鎌田さんは候補統一化に失敗した後、細川氏支持を決断した。
 「安倍右翼政権に打撃を与えるためには、とにかく都知事選で勝たなければならない」と思い定めたからだろう。
 ではなぜ、宇都宮氏ではなく細川氏だったのか?
 それには、前回の都知事選の結果が影響している。「猪瀬氏vs.宇都宮氏」の選挙結果は、まさに衝撃的だった。ダブルスコアどころではない、宇都宮氏の得票は猪瀬氏の4分の1にも及ばなかった。
 舛添氏絶対有利とマスメディアが声を揃えて大合唱する中で、前回と同じ結果を回避するためにはどうすればいいのか。それが、今回の都知事選で抱えたリベラル派の大きな悩みだったのだ。
 悩みに悩んだ末に鎌田さんたちが出した結論が「勝てる可能性のある候補」という選択…。それが細川氏でよかったかどうかは、それぞれの考え方の差だろう。

 脱原発を真正面から掲げた細川氏&小泉氏の登場で、都知事選は奇妙な[ねじれ]を引き起こした。
 有権者が重要視する政策としては、アンケートなどでは、脱原発は2~3番目だったが、それでも細川・小泉コンビが登場しなければ、原発は争点化できず、もっと小さな課題として埋もれていただろう。原発を争点化するという意味では、細川氏の登場はプラスに働いたのだ。けれど、脱原発を願う人たちには分裂を引き起こした。これは大きなマイナスだった。つまり、プラスとマイナスが同時に起きるという[ねじれ]だった。
 そのプラスとマイナスの[ねじれ]を解消するためには、何とか両候補の[原発以外の政策についての協定]による統一化を図るしかなかった。しかし鎌田さんたちの要請は実を結ばなかった。そのため、鎌田さんたちは細川氏の勝手連を買って出た。こういう進み行きを考えれば、僕は鎌田さんを批判する人たちを悲しく思う。

 安倍の「立憲主義」さえまともに理解できていない答弁や、歴史認識の著しい右傾化、中国や韓国への憎悪ともとられかねない対応、靖国神社参拝、集団的自衛権行使容認への解釈改憲、教育制度の改悪、労働特区にみられる雇用関係の劣悪化など、どれをとっても危険極まりないキナ臭い安倍政策を阻止するための、やむを得ない選択。
 鎌田さんは、記者会見でも何度も言っていた。
 「宇都宮さんの人格や政策が最高だということは知っています。だからこそ、前回の選挙では、宇都宮さんの応援を熱心にやりました。けれど、結果は残念なものでした。今回は、安倍さんのやりたい放題を止めるためにも、何としてでも勝たなければならない。そのための選択なのです」
 繰り返すが、鎌田さんは、安倍政権の危険性、この国を戦争へと連れていきかねない安倍政策への反旗として今回の東京都知事選を捉えていたのだ。そんな鎌田さんを、裏切者、分裂主義者などと批判・罵倒するのは、間違っていると思う。
 だから、少なくとも僕は、どちらか一方を批判することはしない。原発を止め、安倍右翼政権を倒すためには、割れた闘いをもう一度つなぎ直して再出発するしかないのだから。
 それまで僕は[言いたいこと]を封印する。
 いろんな意見が飛び交った今回の都知事選に関しての、僕の意見は以上である。

 閑話休題(それはさておき)。
 冒頭に書いたように、4日間の沖縄取材に行ってきた。僕を含めスタッフ3名の小さな取材班。これは、僕も協力している市民ネットTV局「デモクラTV」のための取材だった。
 10日の昼、沖縄入り。すぐにレンタカーで普天間飛行場を見下ろす宜野湾市の嘉数(かかず)高台公園へ。沖縄にしては冷たい風雨。僕らは少し震えながら、展望台から基地を撮影。オスプレイがプロペラを上げた状態で、5機ほど駐機していた。
 夕刻、沖縄タイムス社を表敬訪問。地元の有力新聞が、「デモクラTV」に全面協力してくれることになったのだ。武富和彦取締役編集局長以下4人もの幹部が出迎えてくれ、これからの緊密な連携を約束してくれた。小さな市民ネットTV局にとって、この連携は大きい。提携して毎月1回「新沖縄通信」という番組をオンエアする。
 翌11日午前9時半からは、稲嶺進名護市長のインタビュー。高速を飛ばして一路、名護市へ。那覇から約1時間強。ここでも沖縄タイムスの北部支社の儀間多美子編集部長が出迎えてくれた。稲嶺市長のインタビューにも立ち会ってもらった。
 稲嶺さんは、丁寧にはっきりと論理立てたお話が印象的だった。例えば、こんなことをおっしゃっていた。

 政府が言う振興策、何か特効薬みたいな感じで言うのですが、これだけの国費が投入されたのに、名護は本当に豊かになったのか。特効薬は一時的なもので、しかも一部の人にしか還元されない。それも市内にはほんのわずかしか落ちない。
 特効薬は化学肥料のようなものです。土地は痩せてくる。そうじゃなくて、堆肥や有機栽培でもって土地に力をつけていく。それが徐々に実りを豊かにしていく、という方向へもっていかないと、長続きするような話にならない。沖縄では、観光がリーディング産業でしょう。 
 この北部地区、農業だとか文化の面で関わってくるもの、そこへエネルギーを注入していくことで、持続していく経済の循環が来るのではないか…。

 インタビューは、40分以上に及んだ。これらは「デモクラTV」の特別番組として、近々オンエアされる。ぜひ、ご覧いただきたい。
 沖縄弾丸取材班(苦笑)は突風のように、本島中を駆け巡る。稲嶺市長インタビューの後は、那覇へUターン。
 県庁前で、「高江サウンドパレード」という催しが開かれるという。これは「東村高江地区」に、政府が工事を強行している米軍用ヘリパッド(ヘリコプター着陸帯)への反対と実情を多くの人に知ってもらおうという催し。北部やんばるの森といわれる希少生物の宝庫を潰して、百数十人の住民の生活を破壊するような米軍ヘリパッドの強行工事。
 県庁前では、多くの若者のフラッシュモブ、少女たちのフラダンス、沖縄民謡、ロックバンドまでと、多彩な訴えが楽しめた。そして、沖縄随一の繁華街・国際通りに繰り出すデモ。主催者が「警察には30~40名ほどのデモって届けたんですが、なんとその20倍ほどですかねえ、この人数…」という、沖縄風テーゲーなデモ。こんなに子どもの参加が多いデモは、僕も初めてだった。
 そしてこの日、ケネディ米大使が沖縄を初訪問。

 12日、まず高江のヘリパッド工事の現地へ。メインゲート前で座り込みを続けるテントを訪れた。ここで、スラップ訴訟(注・大きな権力を持った側が、市民や弱い立場の者を訴えるもの。欧米では禁止されているところが多い。高江では工事差し止めを求めた住民を防衛局が訴えた)の当事者である伊佐真次さんのお話をうかがった。
 続いて、今度は焦点の辺野古へ。ここでも、座り込みのテントを訪ねた。ちょうど山口県岩国市議団が視察に訪れていた。その後、ヘリ基地反対協議会共同代表の安次富浩さん(辺野古テント村村長)にインタビュー。これまでの闘いの経過や展望を歯切れよく語ってくれた。
 この日、ケネディ氏は、特に自ら希望して稲嶺名護市長と面談、翌13日には、ケネディ氏が辺野古視察をするということも報じられた。

 13日朝、ケネディ氏が、どうも普天間から飛び立つらしいという情報。我々も急ぎ普天間へ。嘉数高台公園の展望台には、すでにカメラ3台と10人以上の取材陣が待機。しかし、ここからの出発はない、との情報。そこで我々はまたも辺野古へ!
 辺野古の浜では、もしケネディ氏が上空から視察する時のためにということで、砂の上に草の葉で大きく[SAVE SEA]と書かれていた。しかし結局、ケネディ氏が姿を現すことはなかった。稲嶺市長とは会談したのだから、ぜひ辺野古の住民たちとも直接会ってほしかったのだが…。
 我々は、またも那覇へとんぼ返り。そして、大田平和総合研究所を訪問。もちろん、大田昌秀元沖縄県知事のインタビューのためだ。僕は沖縄へ行くたびに、大田さんをお訪ねする。いつも変わらぬ明晰さで、沖縄のこと、日本のことを語ってくださる。この日もほぼ1時間、特に辺野古の基地計画や沖縄独立論などについて話をうかがえた。
 かくして、4日間の突風沖縄駆け足取材は一応の完了。
 これらの中身は、じっくりと編集したうえで、近々、「デモクラTV特別番組」としてオンエアの予定。乞うご期待です!

 というわけで、今回はご報告まで。

 

  

※コメントは承認制です。
169 都知事選で思うこと、
そして、沖縄弾丸取材旅行
」 に3件のコメント

  1. ピースメーカー より:

    「宇都宮さんの人格や政策が最高だということは知っています。だからこそ、前回の選挙では、宇都宮さんの応援を熱心にやりました。けれど、結果は残念なものでした。今回は、安倍さんのやりたい放題を止めるためにも、何としてでも勝たなければならない。そのための選択なのです」という鎌田さんの発言には問題があると思います。
    宇都宮さんからすれば、「なぜ私の方が人格や政策が最高だと言われるのに支持してくれないのか?」と疑念視されかねない発言ですし、細川さんからすれば「私の方が宇都宮さんより人格も政策も劣っているのか?」と憤慨されかねない発言であり、双方の統一化を図る目的からすればプラスどころかマイナスに質すると思えます。
    「『同じ脱原発派同士なんだから分かり合えるでしょ?』という前提のもと、分かり合おうとする努力や手続きや対話を怠ったのではないか。いや、そもそも、分かり合うための作業をする時間など、物理的になかったのにもかかわらず、『今は非常時だから』という火事場泥棒のような論理を持ち出して、無理矢理『分かってくれよ』と結婚を強要しようとしたのではないか。」と想田和弘さんは今週のマガ9のコラムで指摘されていましたが、鎌田さんの言葉の無神経さには、想田さんの指摘されたことを裏付けてはいないでしょうか?
    「いずれにせよ、脱原発派・リベラル派が分裂せずに共闘するためには、『一本化せよ』『ノーサイドだ』と叫ぶだけでは全く不十分である。」とも想田さんは言われていましたが、これにはごもっともと言わざるを得ません。

  2. くろとり より:

    中国という強盗が沖縄に刃物を突き付けている現状において強盗を取り締まろうという日本の拳銃保持に反対するというのはどう考えてもおかしくないですか? それともあなたは強盗の仲間なのですか?
    なぜ今の国際状況で日本から戦争を起こさなければいけないのですか? 逆に中国から戦争を仕掛けられる事に危機感を持たないといけない状況なのがわからないのですか? 正直言って沖縄の方々の危機感の不足には頭が痛くなります。
    琉球新報、沖縄タイムズともに中国政府の広報誌と見間違うかのような内容を垂れ流しています。
    それを助長するようなあなたのような人々が沖縄を反米、反日に狂わせているのではないのですか。
    そのことが日本人として許せないのです。
    現在進行形でホロコーストを行っているナチスドイツ以上の独裁国家が隣にあり、その国に沖縄は狙われています。あなた方のせいで沖縄の市民がチベットや東トルキスタンの様にホロコーストに晒されるかもしれないのですよ。日本人というのならもう少し考えてほしいものです。

  3. うまれつきおうな より:

    細川氏より宇都宮氏の得票が多かったのには素直に<おみそれしました>と言うほかないが(元首相より共産、社民候補が勝つなんて悲しいかな地方ではまず無い)二人足しても舛添氏に勝てないのでは、事前の大騒ぎがこっけいにさえ思えて、かえってサバサバする。今さら他人にブーブー言う人はいったい何が目的なのだろう?
    「勝てもしないのに細川氏を支持して分裂を招いた」というのでは<結局死ぬ病人を病院に連れて行ってお金を無駄にした>と言ってるみたいだし、「とにかく裏切りは許せない!」では環境改善を提案する社員を左遷するブラック企業や「国家のために国民は忠節を尽くせ」と要求する自民党と大差ない気がする。権威も力も無いのに忠誠心競争なんか意味が無いと思う。

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すずき こう

すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)など。マガジン9では「お散歩日記」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。

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