今週の「マガジン9」

 2週間ほど前、『ローン・サバイバー』という映画を観ました。アフガニスタンのタリバン武装集団トップを拘束もしくは殺害せよ、との任務を負ったアメリカ海兵隊の特殊部隊「ネイビーシールズ」の4人が、山岳地帯で瞬く間に敵に囲まれ、3人が戦死。1人だけが奇跡的に自軍に救出されるという実話に基づいたストーリーです。
 この映画に対する私の関心は、アフガニスタンにおけるアメリカの兵士がどのように描かれているか。屈強な男でも音を上げる、ネイビーシールズになるための過酷な訓練を耐え抜いた彼らが、何を感じ、考えながら戦ったのかを知りたかったのです。
 しかし、映画全体は、海兵隊員たちの勇気と友情、タリバンの非情、そして「アメリカはタリバンをよしとしない善良なアフガニスタン人のために戦う」というトーンで貫かれていました。たとえば、ベトナム戦争を舞台にした『地獄の黙示録』(ベトナムのジャングルに王国を築いた元米軍大佐を大尉が殺しに行く)、ソマリアへの軍事介入を描いた『ブラックホーク・ダウン』(安易な作戦の失敗により兵士たちが民兵に包囲され孤立無援となる)のような「自分たちがいったい何のために戦っているのか」という内省的なものがほとんどないのです。
 アメリカは現在、イラクとシリアにまたがる地域で「イスラム国家」樹立を目指す武装勢力に対する爆撃を行っています。それにはフランスも続きました。ドイツは戦闘に加わらないものの、「イスラム国」と敵対するクルド人の武装勢力に武器を供給することを検討しているといいます。
 アフガニスタンから中東、北アフリカにおける欧米は、いまも「敵の敵は味方」という外交戦略を続けていると思わざるをえません。ソ連占領下のアフガニスタンにおけるムジャヒディン(聖戦士)も、イランと戦争をしていたイラクのサダム・フセインも、反ソ・反イランという理由でアメリカから武器の供与を受け、軍事力が強大化すると、やがて反米になっていきました。
 シリアのアサド政権を欧米は敵対視していますが、今度は「反イスラム国」で共闘するのでしょうか。欧米からサポートを得たクルド人の武装勢力は、いずれクルド人国家(クルド人はイラク、シリア、トルコ、イランなどに諸国に住む約2800万人の世界最大級の少数民族です)の建設を目指すはずです。そうなれば周辺諸国は容赦なくその動きをつぶそうとする。そのとき欧米はどういう態度をとるのでしょうか。
 中東の人々には、歴史上、繰り返されてきた打算的な中東政策に根深い不信感があるのではないかと想像します。それが欧米の都合によって引かれた現状の国境線の変更を求めることとつながっていると思うのです。
 従来の中東に対する見方を変える。長い時間はかかるものの、同地域を安定に向かわせるための最初のステップではないでしょうか。

(芳地隆之)

 

  

※コメントは承認制です。
vol.470

「敵の敵は味方」の政策をまだ続けるのか
」 に2件のコメント

  1. 遠回しに、次の沖縄県知事選のこと言ってません?

  2. 例えば100人兵士がいて1人ぐらい地獄の目次録のカーツ大佐なんかいるかもしれんがじゃあ残りの99人の兵士の映画がつくっちゃいけないのかと?
    あと映画をイデオロギー的に良いか悪いかで語るとつまんない映画でも褒めちゃうことになるし面白い映画でもけなしちゃうようになるからそういうのはやめませんか?

    批評でやるべきことは表面上のストーリーを理解することとその作品を理解することなんじゃないんですかね?

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