雨宮処凛がゆく!

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タヒチのパペーテにて。すごくいいとこだけど、
物価がムカつくほど高いです。

 4月13日、ほぼ2週間ぶりに日本に帰ってきた。ピースボートに「水先案内人」として乗るために、タヒチに行ったのだ。タヒチで3泊ほどしてピースボートに一週間ほど乗り、その一週間で船はタヒチからニュージーランドへ着き、そうして帰国したのだ。
 初めてのタヒチ、初めての船旅、初めてのピースボート、そして初めてのニュージランドは、非常に刺激的で楽しい旅だった。いっぱい泳いでいっぱい歩いて浴びるように朝から酒を飲み、いろんなものを食べまくり、いろんなところで昼寝し、いろんな話をした。タヒチでは海で遊びすぎて帰るバスを逃してしまい(タクシーとかない)、遭難寸前で途方に暮れていたら知らないオジサンがホテルの近くまで車で送ってくれた。泊まったホテルはやたらと停電になったが、ホテルの人がちっとも「悪い」と思ってないのが素晴らしかった。スーパーが日曜日は午前中しかやってないとか、午後6時頃にはさっさと店が閉まることもよかった。「平日昼間系」の、何やってんだかわかんないオッサンとかが昼から酒を飲んでるのも素敵だった。

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ピースボートから見た海。360度、海と空しかありません。

 そんなタヒチを堪能し、4月3日、とうとうピースボートに乗船だ。午前5時、ホテルのカーテンを開けると、目の前のまだ暗い港に巨大な船がとまっていた。ピースボートだ。そうして午前7時、とうとう乗船! 南極やイースター島を巡ってきたこの船には、900人以上が3ヵ月間の地球一周のために乗っている。その移動期間に乗り、船内で講座やワークショップをするのが「水先案内人」なのだ。
 私と同乗したのは、「紛争解決請負人」としてアフガニスタンの武装解除に取り組んできた伊勢崎賢治さん、冒険家の辰野勇さん、ニュージーランドのマオリ族のリチャード・ナヒさん、そしてミュージシャンのサンディーさん。船の中には数百人が入れるホールやシアター、フリースペースなどがあり、船のデッキも利用して1日中、様々な講座やワークショップが開かれている。それも硬軟入り交じった感じで、伊勢崎さんの武装解除に関する講座があるかと思えば、「南京玉すだれ塾」や「潮風に吹かれてテニス」なんて企画があったり、社交ダンスや卓球なんかもやっている。そんな中、私も連日「日本の貧困」に関する講座や、他の水先案内人の方々との対談、若者たちとの「しゃべり場」などをやってきた。
 と書くとなんだか忙しそうだが、何しろ1日中船の中、講座なんかはそのうちの数時間なのでかなりゆっくりできた。昼頃に起きて御飯を食べてすぐにビールを飲んで読書、というのが基本スタイルだ。私がピースボートに乗ろうと決意した理由のひとつに、複数の人から聞いた「朝から酒が飲める」というものがあるのだが、まさにこれを実践できたわけである。船の中にいる間には「消滅日」というものもあり、時差の関係で1日が1時間しかない、という貴重な体験もできた。その1時間に「消滅日企画」として、1日を1時間で再現、というくだらなすぎるけど笑える企画もあり、高速ラジオ体操や高速ヨガが披露された。

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ヴィジュアルナイト開催直前! この後、ドラムソロで倒れたMASA。

 そしてそして、私にとってもっともメインイベントだったのは、船内で結成されたヴィジュアル系バンド「PBR」のライヴ、その名もヴィジュアルナイトだ。ピースボートにたまたま乗り合わせたヴィジュアル好きたちでバンドが結成され、ライヴが開催されたのだ。なんでもライヴを実現させるためにカンパを集め、寄港地でギターを買ったりして楽器を揃え、練習を重ねてきたという。ヴィジュアル系好きの私としてはたまらない。
 会場に行くと、みんなばっちりメイクで衣装も完璧。期待値が振り切れそうになったところでライヴが始まった。一曲目はLUNA SEA。それからもペニシリン、X、HIDEなどのコピーが披露され、なんと中盤にはYOSHIKIなみのドラムソロまで入っている。しかもドラムを激しく叩きすぎ、YOSHIKIばりに倒れて楽屋へと運ばれていく。演出かと思ったら、本当に倒れていたという本気ぶりだ。南大平洋を横断する船の中で聞くヴィジュアル系。しかもその日、船は大揺れ。しかし、ライヴ中は船酔いも吹っ飛んでいた。いや、ホントにカッコよかったのだ、ヴィジュアルナイト。
 船を下りる日には、若者たちが寄せ書きをプレゼントしてくれた。やっと船の生活にも慣れてきて、もっと話したいと思った頃にお別れだ。みんなとは陸で会うことを約束して別れたのだった。みんなは今も船で地球のどこかの海の上にいる。

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同じくライヴ直前。ここが大平洋ど真ん中だとは・・・。

 そうしてニュージーランドで2泊して帰国したら、インディーズ系メーデーが更に増殖していた。名古屋の「LOVE&ビンボー春祭り」、熊本の「KY(くまもと よわいもの)メーデー」、札幌の「自由と生存の連帯メーデー」、京都の「恩恵としての祝日よりも、権利としての有休を!」、福岡の「フリーター/貧民メーデー」、広島の「生存のためのメーデー」、東京の「自由と生存のメーデー」、他にも仙台や大阪があるのだが、そこに沖縄も加わった。ちなみに4月11日発売の「週刊金曜日」の特集は「インディーズ系メーデーが熱い! 」。その上表紙は私だ。ぜひ読んでほしい。全国のインディーズ系メーデーに関しての情報はこちらで。現在もウイルスのように増殖中。以下、このメーデーのシビれる文章。
「60億の思考と行動が立ち上がる。経済と政治の国民的な拘束をいともたやすく越えたところに出現した私たちの不安定な生は、そのままプラネタリーな実現なのである。地球規模の思考と行動がここから始まる」
 さて、そんなインディーズ系メーデーの前夜祭が4月17日、阿佐ヶ谷ロフトAで開催される。題して「雨宮処凛のインディーズ系メーデー全国キャラバン前夜祭」! 午後6時半開場。全国の「新手のメーデー」主宰者たちが集結する。とりあえず前夜祭から参加してがっつりアゲておこう!

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ライヴ風景。なんと歌ってるのはピースボートの
スタッフの飯島さん。

 

  

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雨宮処凛

あまみや・かりん: 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮日記」

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