雨宮処凛がゆく!

 本来であれば今回は「働いたら収容所、帰国したら拷問〜〜謎のイラン人、ジャマルさんは難病で難民!!」の「その3」をお届けするつもりだったのだが、ここ最近、さまざまな動きがあり、それについて触れたいので、「その3」は次回にしたい。

 ちなみにジャマルさんと南京虫の闘いはというと、巣を発見したものの、現在は「全面戦争」状態に。被害は隣室にまで広がり、大変なことになっているようなのだ。

 「南京虫をなめてはいけないようです!」

 ジャマルさんからのメールには、そんな悲鳴のような言葉が綴られていた。南京虫に負けるな! ジャマルさん!!

 ということで、最近あった「動き」とは、294回で書いた「ファストフード世界同時アクション」関連のこと。

 5月15日、世界35カ国で「Fair Pay. Respect. For All Fast Food Workers」(ファストフード労働者の権利を尊重し公正な賃金を!)という統一スローガンのもと一斉にアクションが行なわれ、日本でも「時給1500円」を求めて渋谷などでアクションが展開されたのだが、この動きを受け、アメリカではどんどん事態が動いているのである。

 まず、15日の統一行動だけでは飽き足らず、世界同時アクションから一週間後の22日、アメリカではファストフード労働者たちがマクドナルドの株主総会への「突入」を試みる。

 彼らが要求としてずっと掲げてきたのは「時給15ドル」。それから約10日後の6月3日、衝撃のニュースが飛び込んできた。

 アメリカ・ワシントン州のシアトル市議会が、最低賃金を15ドル(約1500円)にすることを満場一致で決定したというのだ。

 記事には、支援団体の人のこんな言葉がある。

「1年前、15ドルは、ファストフードのプラカードに書かれる『ただの数字』でした。今日、それが10万人規模のシアトルの労働者にとって現実になりました」

 これだけでも驚きだったのだが、その翌日、6月4日のハフィントンポストで更に驚きの報道がなされた。

 マクドナルドのCEOが、最低賃金を7.25ドルから10.10ドルに引き上げることを表明したのだ。

 ファストフード労働者たちの闘いの大勝利である。

 なんだか、久々に胸が熱くなった。シアトル市議会の議員の一人は、「低賃金のため、ファストフード労働者がストライキをすることがフラストレーションや怒りを呼び起こすと思います。少数の人々の手に、どれほどのお金が集まっているのかを、私たちは皆知っています」と語っている。

 日本でも、マクドナルドの時給は多くの都道府県で最低賃金にはりついている。それに対し、ある年の取締役の報酬は3億4900万円という現実がある。単純計算でも、現場の労働者と取締役の「格差」は、200〜300倍にもなるのだ。

 だからこそ、今、「1%VS99%」の象徴としての多国籍企業で多くの人々が立ち上がっている。そしてそんな彼らへの共感が広がっているからこそ、こうして要求が通っているのだ。

 しかし、日本ではどうか。悲しいほど、現実は何も変わっていない。それどころか、消費税が増税されたり派遣法が改悪されそうだったり残業代ゼロなんてのが出てきたりと「弱い者いじめ」が続いている。その陰で、企業減税の話が出てきたり、2013年の内部留保は上位1000社で23兆円も増えていたりというデタラメがまかり通っている。

 しかし、アメリカで「15ドル」を巡る様々な動きが起きていた頃、日本でも「1500円」を巡るある動きが起きていた。

 それは、従業員逃亡による人手不足が続くすき家で時給がどんどん上がり、遂には深夜の時給が1500円になったということだ。しかし、それでも人はなかなか集まらないという。

 5月29日には「肉の日」ということでネットで大々的に「ストライキをしよう!」と呼びかけられたことは記憶に新しい。結局、店舗でのストライキは起きなかった。が、この動きは、私に「新しい運動」の芽を見せてくれるものだった。なぜなら、それぞれの心の中で、確実に「ストライキ的なもの」は起きていたように思うからだ。

 「ストライキをしよう」という呼びかけには、すき家店員だけでなく、多くの人たちが共感の声を寄せた。おかしいと思ってるのは自分だけじゃないんだ。みんな、もう限界だと思ってるんだ。「ストの呼びかけ」は、自己責任という言葉に覆い尽くされたこの国の過酷な労働現場に、大きな風穴を開けたと思うのだ。

 そんな状況を見ていて、勝手にこの現象に名前をつけた。「エアストライキ」だ。エアバンドやエアギターのアレである。まだまだ定義は定かではない。だけど、すき家ストライキがよびかけられた日、働きながらも「気分はストライキ」な人って沢山いたのではないだろうか? そんな、「働いてるけど心はスト中」な人が、例えば「エアスト中」と書かれたTシャツを着ていたりしたら、それはもう立派な「ストライキ」ではないのか?

 すき家騒動の少し後、ファストフードアクションを一緒に企画した人たちと話していて、そんな話で盛り上がった。

 エアストということで言えば、「牛すき鍋定食」が始まったことでワンオペ労働(たった一人で現場を回すこと)の過酷さにトドメがさされ、従業員たちの「逃亡」が一斉に始まったことそのものも、「エアスト」っぽい。「逃亡」というと消極的だが、「逃散」という言葉もある。過去、農民が集団で使った「闘争手段」「抵抗手段」だ。

 そして時給を1500円にしても、なかなか人が集まらないという現実。これもひとつの「エアスト」ではないだろうか。

 「どれほど過酷かはわかってる、そんな額には騙されないぞ」「自分たちの労働には、もっと価値がある」

 すき家騒動を通して、この国で働く人々の意識は少しずつ、変わりつつあるのかもしれない。

 そしてこのことは、「正規・非正規問わず、従業員に低賃金で多大な責任を負わせた挙げ句使い捨てる」ということで利潤を上げてきたこれまでの「激安系ビジネス」のやり方が通用しなくなっている証拠に思えて仕方ないのだ。

 私たちは今、声を上げたらいつもよりも要求が通りやすい、奇跡的なタイミングを迎えているのかもしれない。

 ということで、6月30日、ここまでの経緯を経て、これからどうしていくかなどを考えるイベントを開催!

 イベントのタイトルはなんと、「いよいよストの時代! 5・15ファストフード世界同時アクション報告+作戦会議」大集会!!

 世界各国のファストフードアクションを映像とともに振り返りつつ、「エアスト」をはじめとする「新しい形のスト」について、みんなで知恵を絞るイベント! 「誰もやったことがないやり方」で「世界を変える方法」を、みんなでイチから編み出そう!!

 30日、19時より。文京区男女平等センターで待ってます☆

 ※ファストフード世界同時アクションの画像などはこちらで。

またまた新刊を出版しました! 『命が踏みにじられる国で、声を上げ続けるということ』(創出版)。月刊『創』での連載の、2011年夏からの約3年間をまとめた一冊です。いろんなことに怒り、いろんなことに抵抗し、声を上げまくってきた日々。

 

  

※コメントは承認制です。
第298回 シアトルで最低賃金1500円!! そしてエアストライキ! の巻」 に4件のコメント

  1. magazine9 より:

    スピーディな展開に驚かされた、シアトル市議会やマクドナルドCEOの決定。雨宮さんの新刊のタイトルにもある「声を上げ続けること」は無駄じゃない、と思わせてくれました(ちなみに、「時給1500円」というと高いようにも聞こえますが、年収にすると300万以下。本当に「最低」の、当たり前の要求だったことが分かります)。
    そしてもう一つ気になる、ジャマルさんと南京虫のその後は、待て次号。

  2. TokiNoKawa より:

    「ファストフード世界同時アクション」サイトの動画、すごく良かった。

    アメリカの公民権運動の記録映画を見たときの興奮を思い出した。

    しかも人種の壁を越えてデモをし、デモしただけで警察に逮捕されているなんて!

  3. ピースメーカー より:

    >シアトルで最低賃金1500円!!

    時給1500円……、良いですねぇ(嘆息)
    因みにとある介護職の給料は、試用期間(3か月間)で時給900円。
    正社員登用になってからは、月給18万円スタートで賞与年2回といった感じです(爆)!!
    賞与含めて年収300万以上になってくれればと思う、今日この頃です(涙)。

  4. 多賀恭一 より:

    結局、民主主義国家では、選挙に影響しない活動は効果が薄い。
    デモもそうだ。
    デモをするなら、選挙期間中の地域で撃つべきだろうし、その地に立候補者を立てるべきだろう。
    今年なら、秋の沖縄県知事選挙など以下の通り予定されている。
    07/19 滋賀県知事      08/31 長野県知事      09/04 香川県知事
    11/11 福島県知事      11/17 新潟市長(新潟県) 11/30 愛媛県知事
    12/06 福岡市長(福岡県) 12/09 沖縄県知事      12/16 和歌山県知事

    ・選挙期間中にその地域在住の血縁や友人にメールをや電話をして投票依頼をする。
    ・選挙期間中にその地域で、周辺から集まれるメンバーでデモを行う。
    ・選挙期間中にすべての立候補者に、該当する問題についての見解を質問する。
    こういったことをまずやるべきだ。

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雨宮処凛

あまみや・かりん: 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮日記」

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