雨宮処凛がゆく!

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朝生後、楽屋にて。一応みんな大人なので笑顔。

 御覧になった人も多いかもしれないが、4月25日、「朝まで生テレビ」に出演してきた。テーマは「新しい貧困」。これは出なければと思い、出演を即決。「反貧困ネットワーク」の同志である「もやい」の湯浅誠さんや「首都圏青年ユニオン」の河添さん、そして森永卓郎さんや連合の「非正規労働センター」の龍井さんも出るという。で、「敵」側としての出演は「過労死は自己管理の問題」と言い放ち、大バッシングを受けた奥谷社長や自民党議員。あとはよくわかっていなかったが、この準備不足がいけなかった・・・。「味方」が多いので、すっかり安心していたのだ。その上、〆切やメーデーの準備などでバタバタしていて、「朝生」だということもあまり意識していなかった。「朝生の心得」をすっかり忘れていたのだ。「朝生の心得」とは何か。それは初めて朝生に出る時に森達也さんから教えられた。いわく「人の話は一切聞くな」。ああ、これを思い出していて、当日出演前に湯浅さんと河添さんに伝えていたならば、事態はきっと変わっていただろう・・・。

 ということで。御覧になった人はわかると思うが、議論は途中から「敵」側に思いきりはぐらかされてしまった。こっち(田原さんの左側席)は「ワーキングプアやネットカフェ難民などの貧困層をどう救うか」という問題意識なのに対し、向こう側はマクロな経済、「国際競争で企業がいかに生き残るか」、そして「成長力底上げ」系の、弱肉強食の市場原理を地でいくネオリベ系立ち位置で、結局「競争に勝ち残れない人間が貧乏になってホームレスになる」ことそのものを正当化するような議論を展開するばかりだ。たぶん同時期くらいに、私と湯浅さん、そしておそらく河添さんもが「諦めモード」に入った。なんだか、「言葉の通じなさ」「市場原理主義を振りかざす人々の残酷さ、冷たさ」「傲慢さ」に愕然として、話したくなくなってしまったのだ。特に自民党の世耕弘成氏には愕然とさせられた。せめて「普通に働いたら普通に生きていける」とか「餓死やホームレス化を本気で心配しなくていい」ことくらいは政治の最低限の役割だと思うのだが、それが果たされていないことに対し、本当に「スキル」とか「チャレンジ」とか言って「自己責任」系の言説で突き放すのだ。自民党がいかに金持ち側しか見ていないか、本当に、恐ろしいほどによくわかった。結局、彼のスタンスは「貧乏人、役立たずは死ねばいい」ということではないのだろうか。言ってることを集約すればそう聞こえる。そんな自民党がのさばっているこの国でワーキングプアが大量に生み出されていることは当然なのだ。しかもそのことに対して全然まったくちっとも悪気がないのが怖い。

 さて、そんな朝生後、楽屋で「打ち上げ」が行われた。楽屋に入ってすぐ、森永卓郎さんが湯浅さんにさりげなくカンパを渡すのが見え、感動した。1万円札が何枚か。「もやい」のやってるような生活困窮者支援は本来なら国がやるべきことで、それを湯浅さんたちが本当に大変な中、やっている。なんだかいろいろと納得しなかったので、湯浅さんと「せめて自民党からカンパをもらって帰ろう」と作戦を立て、世耕議員に近付き、私の帽子をカンパ箱にしてカンパを要求した。そしたら、くれた。たぶん3000円くらい。2000円かもしれない。4000円かもしれない。ま、そんなものだ。世耕議員は顔の色つやが非常に良かった。いいもん食ってるんだろう。

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東北大で講演。立て看です。

 朝生の愚痴はこれくらいにして、私はゴールデンウィーク、メーデーツアーに入る。で、5月3日の東京「自由と生存のメーデー」の翌日と翌々日は、私も呼びかけ人になっている「9条世界会議」が幕張メッセで開催される。詳しくはこちらhttp://whynot9.jp/program/を参照してほしいが、なんとイラク帰還兵のアメリカの人とアメリカの元陸軍大佐、そしてイラクの人、そして高遠菜穂子さんと私でトークをする。テーマは「イラク、アメリカ、日本」。いわば「殺した側」と「殺された側」との対話だ。一体どんな対話になるのか、絶対刺激的なことになるのは間違いないので是非来てほしい。そして、一緒に考えたい。特に私はイラク帰還兵の人の話を聞くのが待ち遠しい。「経済的徴兵制」と言われるような、貧困層への軍のリクルート。彼がなぜイラク戦争に行くことになったのか、なぜ軍隊に入ったのか、そんなことを聞いて、日本の「新しい貧困」と照らし合わせて考えたい。

 それでは、メーデーと9条世界会議で会おう。

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※この連載が単行本になりました。
タイトルは「雨宮処凛の闘争ダイアリー」(集英社)。
5月2日発売です。読んでね!

 

  

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雨宮処凛

あまみや・かりん: 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮日記」

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