雨宮処凛がゆく!

清瀬の商店街を練り歩く不穏な人々

 「獄中20年の確かな実績、塩見孝也です!」「赤軍派もいる明るい清瀬!」「元赤軍派議長、今は駐車場管理人、塩見孝也をよろしくお願いします!」

 4月25日、統一地方選最終日、東京都・清瀬の街をそんな言葉とともに練り歩く一団がいた。
 彼らが掲げる大きな幟には「獄中二十年」の文字。「赤軍」と書かれた旗を持つ人もいる。十数人ほどの一団の中にいるのはマガジン9でもおなじみ・鈴木邦男氏、ロフトプラスワンの平野悠氏、老若男女の塩見支援者、そして、私。一団の先頭ではなく後方を「足がつった」とのろのろ歩くのは、このたび清瀬市議選に立候補した塩見孝也氏だ。
 塩見孝也氏とは、1960~70年代、革命を目指し、武装蜂起を主張した赤軍派の元議長。70年、ハイジャックの共謀や爆発物取締法、破壊活動防止法違反などで逮捕され、獄中20年。89年に出所した。

 そんな塩見さんとの出会いは今から約20年近く前。ロフトプラスワンに、「元赤軍派議長が語る!」的なイベントを見に行ったことがきっかけだった。もともと、60~70年代の「政治の季節」には並々ならぬ興味・関心があった。というより、一言で言うと羨ましかった。若者が政治のことに怒り、デモとかしまくって火炎瓶を投げていた時代。翻って90年代に「若者」だった私は、半径5メートルの世界の中で、「消費活動」や「恋愛」や「合コン」にうまく乗れない人々がなんとなく馬鹿にされ、社会や政治のことなど語ろうものなら「おかしな人」扱いされるという空気の中、生きづらさを極めていた。その自分の生きづらさが、社会と何か関係があるのではないか。政治の季節に思い切り暴れていた「元若者」の話を聞けば、何かヒントが得られるのではないか。そうして訪れたイベントで、塩見さんは初対面の私をいきなり北朝鮮に誘った。

 そうして、よくわからないまま知り合ったばかりの塩見さん、他の若者数名と初めての海外旅行でピョンヤンに飛び立ったのが24歳の冬。北朝鮮には私と同世代のよど号グループの子どもたちがたくさんいて、彼女たちと仲良くなった私は合計5回北朝鮮に通うことになり、それが原因でガサ入れを受ける羽目になるのだが、当時はそんなことなど露知らず。
 また、2003年のイラク戦争直前には、塩見さん、鈴木邦男さん、そして平野悠さんたちと数十名で外務省から出ている「邦人避難勧告」を振り切ってイラク・バグダッドへ。開戦一カ月前のイラクで「ここに爆弾を落とすな」と反戦デモなどをすると警察が応援してくれた上、パトカーのマイクなどを貸してくれたのもいい思い出だ。ちなみに塩見さんはイラクで、撮影禁止の場所を撮影したとかで数時間秘密警察に拘束されたという、これまたどうでもいいエピソードがある。
 こんなふうに、この20年近く、私は塩見・鈴木・平野というオッサンたちと何かあるたびにつるみ、遊んできた、というか活動をしてきたのである。で、この3人は私が物書きになる前のフリーター時代、ロフトプラスワンや各種右翼、左翼、サブカル系イベントにただの客として出入りしていた時から私のことを知っていたという経緯があるため、未だにいろいろと頼まれると断れない相手でもあるのだ。
 ということで、そんな塩見さんが清瀬の市議会議員選挙に立候補しようと思っている、と本人から聞いたのは数カ月前。思わず言葉を失ったものの、ここ数年の塩見さんの「変化」に感銘を受けていた私は、選挙戦に駆けつけることを約束した。

塩見さんの事務所。いろいろすごいです。

 「変化」とは何か。例えば出会った頃の塩見さんは、とにかくなんでもかんでも資本主義のせいにし、二言目には「世界同時革命」と叫ぶという、非常に珍しい人だった。そうして常に「労働者が」「人民が」などと演説するのだが、なんというか、難しい言葉が空転しているような印象だったのだ。
 そんな塩見さんは数年前にシルバー人材センターに登録。地元・清瀬のショッピングセンターで駐車場管理人を始めたところから大きく変わり始めた。大文字の「労働者諸君」ではなく、自身の労働経験からいろいろと矛盾を感じ、発信するようになったのだ。この数年間、幾度か塩見さんから「労働相談」的なものを受け、時には労働組合の事務所で話し合いをしたりもした。ちなみにシルバー人材センターの労働には労働基準法が適用されないなど様々な問題があるのだが、そういったことなどについても、現場目線からいろいろなことを私に教えてくれたのである。
 そんなふうに「シルバー人材センター労働運動を!」的な話になると、「これをきっかけに最終的には世界同時革命を!」なんて言い出すこともあったけれど、「革命家」・塩見孝也は70代にしてやっと「地に足がついた」活動家となったのである。この辺りの話は塩見さんの著書『革命バカ一代 駐車場日記 たかが駐車場、されど駐車場』(鹿砦社)に詳しいので興味のある方はぜひ。

 ということで、統一地方選最終日、私は清瀬に駆けつけた。73歳、元赤軍派議長・駐車場管理人の塩見氏の周りには、多くの支援者がいた。
 マイクを渡されて、私は話した。
 なぜ、塩見氏を応援しようと思ったのか。それは「現在暴走を続ける安倍政権、そして地方議会でも多数を占める与党の好き放題を止めるには、塩見さんレベルの飛び道具しかいないのではないか」と思ったからだ。なんといっても、日本で初めて、個人で破壊活動防止法を適用された人である。その上、権力に楯突き続けて50年以上。20年の獄中生活を非転向で過ごしたという「超頑固者」だ。「言うこときかない」「黙ってない」系の元祖みたいなものである。もはや存在自体が嫌がらせ。こういう人が市議会にいれば、いろいろと風通しもよくなるのではないか。
 清瀬の街頭でそんなことを話させて頂き、そして夜は商店街を「獄中二十年」の旗のもと、みんなで練り歩いた。
 そうしてすべてを終えた20時、近所のスーパーで発泡酒やお惣菜を買い込み、みんなで安酒で乾杯した。途中、「これが学生運動名物・内ゲバか?」と身構えるような喧嘩が勃発したりもしたけれど、「これでこそ塩見さんの選挙だ」ということになり、なんとなく収まったのだった。
 そうして、翌日の投開票日。塩見さんは319票を獲得したものの、落選となった。
 「市会議員・塩見孝也」誕生とはならなかったが、73歳のチャレンジは、今後きっと大きな波紋を広げていくはずだ。

 今回、改めて思ったけれど、塩見さんの周りにはいつも、生きづらさを抱えた人々が多くいる。この20年近くずっとだ。本人はまったく意識していないけれど、そういった人々を、何か救い、癒す力があるのだ。本人は「革命」を目指しているのに、癒し系。
 そんな塩見さんに、今後も注目していきたいと思っている。

左から、鈴木邦男さん、私、塩見孝也さん、平野悠さん。
この三人のオッサンと20年くらい、いろいろつるんでいる私の人生・・・。

自由と生存のメーデー2015――反富裕 Life is a Scandal

5月2日(土)
○サウンドデモ(13時集合)原宿駅前広場(神宮橋)
○集会(17時30分開会)千駄ヶ谷区民会館集会室1
(渋谷区神宮前1-1-10)
→詳細はこちら

当日はゾンビメイクでデモします! (もちろんしなくても参加できます☆)
ゾンビメイクご希望の方は、12時30分に原宿駅表参道口の喫煙所前に集合してください。ゾンビスタッフがあなたをゾンビにします☆

ということで、今年も「自由と生存のメーデー」!! 絶望を先取りしたいアナタのご参加をお待ちしてます。

 

  

※コメントは承認制です。
第334回 「獄中二十年」の選挙戦。の巻」 に3件のコメント

  1. magazine9 より:

    塩見さんが当選していたら、どんな活躍をされたのか、とっても気になります。それにしても、シルバー人材センターの労働には労働基準法が適用されないとは知りませんでした。社会にはさまざまな立場の人がいて、共通する課題もあれば、立場が違うと気付きにくい課題もあります。そういう意味では、議員にも多様な人がいたほうがいいはずですね。いまの社会の中で生きづらさを感じている人の声を、政治に反映させていく仕組みは早急に必要だと思います。

  2. 塩見さん、気さくな感じでアンケートに答えてくれました。ありがとうございました。QT https://twitter.com/chipifb/status/591642865140301825

  3. 多賀恭一 より:

    「騎虎の勢い」そのものである。
    理想のためか?欲望のためか?に関係なく、
    権力との戦いの先に有るのは、権力奪取であり、
    一直線に進まざるを得ず、後悔したり、怯んだりしてはいけないのだ。

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雨宮処凛

あまみや・かりん: 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮日記」

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