雨宮処凛がゆく!

 あなたは何かに「依存」しているだろうか?

 人間、誰もが多かれ少なかれ、何かに依存していると思う。
 私自身が自分で自覚している依存先は、まずは猫。お酒にも、ちょっと依存している気がする。自分がしている様々な活動に関しても、もしかしたら依存っぽいところがあるかもしれない。が、自立している人間とは適度な依存先がたくさんある人間らしいので、よしとしたい。

 なぜ突然こんなことを書いているのかと言えば、依存症について、非常に考えさせられる記事を読んだからだ。それは「THE BIG ISSUE」261号(2015年4月15日発売)の特集「ギャンブル障害(依存症)人間破壊に至る病」だ。
 ちなみに私の周りには、なんらかの依存症を抱える人が少なくない。アルコール依存症はもちろん、違法薬物で刑務所入りした経験を持つ人もいるし、「セックス依存」という人もいる。いまだに「意志の弱さ」などで語られがちな依存症だが、まず覚えておいてほしいのは、依存症を「意志の強さ、弱さ」で語るのはお門違いということだ。
 様々な依存症の人たちから話を聞いて、その壮絶さに言葉を失ったことは一度や二度ではない。特にまだあまり認知されていない「セックス依存」などは「ただの好き者」と馬鹿にされがちだが、あまりにも危険な上に人生があっさりと破綻する。

 そんな私も、数年前までは依存症をどこかで「意志の弱い人」と思い込んでいた。が、そんな私に「それは違う」ということを教えてくれたのは、アルコール依存症で閉鎖病棟に何度も入院し、20代から断酒をしている「こわれ者の祭典」の月乃光司さん。しょっちゅうイベントで話しているのだが、数年前のイベント直前、依存症業界にとって大きな出来事があった。田代まさし氏の覚せい剤使用による再逮捕だ。
 その一報を受けた時の世間の反応は、明らかに「あーあ」というものだった。私もどこかで、そう思っていた。しかし、そんな再逮捕について、月乃氏はイベントで言ったのだ。
 「皆さん、今回のことを受けて田代さんのことを、ひどい奴だとか、どうしようもないとか思っていませんか? 違うんです。そうなってしまうことこそが、依存症の一番怖い症状なんです。田代さんの人格とは、一切関係ないんです」
 正確な言葉は覚えていないが、そんな内容だった。その言葉を聞いて、私の中の依存症の概念はがらりと変わった。

 考えてみれば、依存症の問題は、ホームレス問題とも親和性が高いものだった。特に社会保障が充実しているヨーロッパなどでは、ホームレス=なんらかの依存症や精神疾患を抱えた人、という意識が共有されている。たかが失業くらいでホームレス化しないヨーロッパで、住む場所を失うほど生活が困窮・破綻してしまう人はそういった問題を抱えていることが多いのだ。よって、依存症の治療に繋げるような支援がなされていると聞く。

 翻って、日本はどうか。
 ホームレス状態にある当事者がどんなに重い依存症を抱えていようとも、すべて「だらしない奴」の一言で済まされる。また、生活保護受給者の飲酒やパチンコは、即バッシングに晒される。「もしかしたらその影には依存症があるのでは?」という視点などないので到底治療になど繋がらない。そうして多くの依存症者が放置されている。

 ちなみに、私が今まで路上から生活保護に繋げる支援をした人の中にも、ギャンブル依存症が疑われる人がいた。なけなしの生活保護費をギャンブルにつぎ込んでしまうのだ。それを知って慌てて医療に繋げたものの、もし、私が依存症について無知だったら、「裏切るようなことをして」と突き放してしまったかもしれない。そんなことが、一度や二度ではなかったからだ。突き放したところで「治る」ならいいが、そんな「精神論」みたいなものは何の役にも立たないのだ。

 さて、冒頭で紹介した「THE BIG ISSUE」の特集「ギャンブル障害」。一部の議員は「カジノ推進法案」を今年中にも成立させたいようだが、そんな議員にこの特集を読むことを義務づけたい。
 まず、日本のギャンブル障害者は536万人。韓国や米国と比べて3〜6倍。しかも、国内のアルコール依存の109万人、ネット依存の421万人より多いのだ。そんな日本には、世界のギャンブル機器の64%があるのだという。

 男性というイメージが強いギャンブル依存だが、女性の場合も深刻だ。有病率は男性8.7%、女性1.8%とやはり女性の方が少ないが、主婦がギャンブルにハマると、「少しのつもりで」と始めたパチンコを夕方までやってしまい、赤ちゃんをネグレクトしてしまったり、介護を怠ったせいで高齢者が亡くなってしまったケースもあるという。
 しかし、「女がギャンブルなんて」「家の恥」という意識から、病はなかなか顕在化されない。結果、家族からも見放され、路上生活になって初めて支援団体に助けを求めるケースもあるとのこと。

 ちなみに同誌によると、90年代、カジノが急速に普及したアメリカでは、ギャンブル症者が増大。研究を行なったところ、ギャンブル障害が原因による「健康の悪化」「失職」「借金」「犯罪の増加」など、社会的にかかるコストは年間50億ドルと試算されたという。
 また、自国民向けのカジノ「江原ランド」が設置された韓国では、ギャンブル障害が原因の「カジノ・ホームレス」が数千人規模で発生したそうだ。

 カジノの解禁で、数千億の経済効果――。カジノを作りたい人たちは、お金儲けのことばかり考えている。しかし、ここまで書いてきたように、依存症は深刻な社会問題である。そしてもっと問題なのは、この国の人たちの多くは、そんな依存症に対しての理解や基礎知識が圧倒的に足りないということだ。
 カジノを作る前に、「カジノ法案」成立に前のめりな議員たちがすべきこと。
 それは国内の依存症の問題に政治が取り組むよう、様々な働きかけをすることではないだろうか。
 「THE BIG ISSUE」261号、ぜひ、手にとってほしい。

今年もメーデーがやってくる!

5月2日「自由と生存のメーデー2015 反富裕 Life is Scandal」@千駄ヶ谷区民会館 集会室1

13時〜 デモ 原宿
18時〜 集会「ピケティっておいしいの?(仮)」

詳しくはこちらで。
今年はなんと、ゾンビが大量発生!? ぜひ、デモで、集会でお会いしましょう☆

 

  

※コメントは承認制です。
第333回 カジノ法案とギャンブル依存。の巻」 に2件のコメント

  1. magazine9 より:

    駅前にキラキラとしたパチンコ屋が並んでいるのは、日本では見慣れた光景。ギャンブルがとても身近なところにあるのだとあらためて思いました。「ただの遊び」「みんなやっている」と軽い気持ちから、深刻な依存症になっていくケースも…。環境と依存症への私たちの意識を変えることが大事ですね。
    さて、雨宮さんが紹介している「THE BIG ISSUE」は、ホームレス状態にある人に仕事の機会を提供するためにスタートした雑誌。販売者によって路上でのみ販売されています。お近くに販売場所があるか、ぜひこちらでチェックしてみてください。

  2. 時の河 より:

    テレビで「日本ほどカジノが身近にある国はない」という話を聞いた。パチンコはどう解釈されようが、換金できる時点でカジノと同じで、これほどパチンコ店が街中に普及している国はないだろう。「日本のギャンブル障害者は536万人」という数字は、そのことを如実に表している。

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雨宮処凛

あまみや・かりん: 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮日記」

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