雨宮処凛がゆく!

 森友学園の国有地売却問題が発覚する少し前、初めて安倍昭恵氏を生で見た。

 あるヴィジュアル系バンドのコンサート会場の、関係者席でのことだった。コンサート終了後、席を立ち、出口に向かう昭恵氏は満面の笑顔。そのバンドがとても好きな上、20年以上バンギャをやっている私は非常に複雑な気持ちになった。そう、小泉純一郎氏が「X JAPAN」のファンだと公言した時と同じ気持ちだ。好きなバンドを、嫌いな政権の人が絶賛している時の葛藤。なぜ、自民党はヴィジュアル系が好きなのかは一度じっくり検証したいところだが、今回のテーマではないので別の機会にしたい。ということで、今回のテーマはずばり、安倍昭恵氏である。

 首相夫人である昭恵氏に、あなたはどんなイメージを持っているだろうか。

 私自身は、一言で言うと「不思議ちゃん」というイメージを持っている。脱原発やざっくりしたエコとかスピリチュアルな感じに興味があり、自ら居酒屋もやっていて気さくな「家庭内野党」である首相夫人。これまでの首相夫人のイメージを覆すキャラクターだが、「夫と違う意見を持ち、発信する」こと自体が安倍首相の「度量の深さ」みたいなものを表し、安倍政権を補強するという、なかなか高度な感じになっている。また、夫婦に子どもがいないことについて責められた過去などを涙ながらに雑誌のインタビューで語る姿には、「アッキーも首相夫人として苦労しているのね」などと多くの女性の共感を呼びもした。

 そんな安倍昭恵氏について、非常に興味深い原稿を読んだ。それは「文藝春秋」2017年3月号に掲載された「安倍昭恵 『家庭内野党』の真実」(石井妙子)。まず驚いたのは、首相夫人に経産省や外務省から公費で派遣されている秘書が5人もついているということだ。これだけの秘書がつくようになったのは、第二次安倍政権からだという。

 そんな昭恵氏の生家はご存知の通り森永製菓の創業家。記事によると、幼稚園から私立の聖心女子学院に進み、聖心女子専門学校へ。そして電通に入社。時代はバブル。「ゴルフやスキーを楽しみ、ディスコで踊る」、「やんちゃなお嬢様」だったようだ。

 昭恵氏に8歳年上の安倍晋三を紹介したのが電通の上司。当時の安倍晋三は父・晋太郎の秘書。そうして昭恵氏は24歳で結婚。昭恵氏が31歳の時に晋三は初当選。夫が総理大臣となり、ファーストレディとなったのは44歳の時だった。

 が、そんなファーストレディ時代が長く続かなかったのは誰もが知るところだ。昭恵氏は、夫の突然の辞任の頃を「どん底」と表現する。が、そこから彼女の「充電」が始まった。2012年には50歳、結婚25周年になるので、そこから人生を再スタートさせたいと目標を立て、人脈を広げたり、曾野綾子氏とカンボジアの地雷撤去を見に行ったり、ミャンマーに寺子屋を作る運動にかかわったり、フルマラソンをしたりと、まるで90年代の自分探しかってくらいのとっちらかり具合でいろいろ手をつけていく。居酒屋「UZU」の計画もこの頃生まれたらしい。同時に同じ頃に始めたのが、「神社めぐり」だったという。

 そんな神社めぐりを通して、昭恵氏はスピリチュアルカウンセラーや神道関係者、ニューエイジ系の人々との交流を深めてどんどん神がかった方向に突き進んで行くのだが、この原稿で強調されているのは、安倍首相と昭恵氏が、「価値観の基礎の部分を共有しており、結びつきが深い」ということだ。

 では、2人が共有する価値観とはどのようなものなのか。それは例えば「水の波動研究者」「スピリチュアルマスター」と自称した故・江本勝氏に影響を受けてしまうようなところである。

 江本氏は、水に「ありがとう」と言ったら綺麗な結晶ができ、汚い言葉をかけると結晶を結ばないなどと科学的根拠を一切無視した持論を提唱し、一時期いろんな意味で注目されていた。しかも3・11以降は福島県の放射能汚染を「愛と感謝の祈り」を日本中から送れば浄化できると主張していたという、まぁ、そういう人である。そんな江本氏の持論は当然多くの識者から「トンデモ科学」「エセ科学」と批判され、うっかり江本氏の持論を信じた人は笑い者になるという、そういう立ち位置の人物である。

 で、江本氏は、安倍晋太郎氏の代から安倍家と付き合いがあったようなのだ。

 その江本氏は、戦後、日本にGHQが入ってきて、「国家神道の廃止」「大麻栽培の禁止」「天皇制の現在の制度への移行」がなされたことを問題視していたようである。昭恵氏はそんな江本氏に影響を受けたのだろう、この1〜2年、大麻の国内栽培推進を訴え、「『日本を取り戻す』ことは『大麻を取り戻す』こと」という対談までした上、若者たちが過疎地に移住して産業用大麻を栽培する活動を始めれば応援に駆けつけるなどしてきたが、若者たちは大麻所持で逮捕されるというオチがつく。

 そんなふうに大麻に肩入れする一方で、昭恵氏は随分と国粋主義的な発言もしている。「日本は世界で称賛されている」「日本人の精神性の高さが今後、世界をリードする」、また、先の戦争について、アジアの国々を解放するために日本は頑張った、中国や韓国にただ謝るのはおかしい、といった発言だ。

 そうして一見「自由奔放」に見える彼女は、このたび、「天皇国日本を再認識」「教育勅語素読」を掲げる「瑞穂の國記念小學院」の名誉校長に就任していたことが大きく報じられ、辞任することを発表した。系列の塚本幼稚園では教育勅語の朗唱、自衛隊の慰問、伊勢神宮参拝など「戦前回帰」の教育がなされている上、保護者にヘイトスピーチ文書が配られ、虐待と思われるような事例が続々出てきているわけだが、昭恵氏はこの幼稚園をこれまで4回ほど訪問。「籠池先生の教育に対する熱き想いに感銘を受け、このたび名誉校長に就任させていただきました」と学校案内で書いている。

 一体、大麻と反原発とエコと国粋主義が矛盾なく共存する昭恵氏の脳内はどうなっているのだろう…。私でなくとも不安な思いに駆られるはずだが、石井氏の原稿には、そんな昭恵氏の脳内をうまく言い当てた一文がある。

 「反原発、反防潮堤、大麻、神社、農業、天皇、神、宇宙、夢、平和…といった彼女のキーワードは、彼女のなかでは矛盾なく、すべてつながっている。そして、そのベースにあるものは日本を神聖化する、危うさを含んだ、少し幼い思考ではないだろうか」

 スピリチュアルやエコと同列にある、ゆるふわな愛国。

 なんだか昭恵氏の脳内では、「ラッセンの絵(あのイルカのやつ)」を音楽にしたみたいな曲がかかってそうな気がする。

 さて、そんな「ゆるふわ系」愛国者は、安倍昭恵氏だけではない。

 南スーダンの「日報」が発見され、「戦闘」と書かれていても「法的な戦闘ではない」と言い張る稲田氏も、私には「ゆるふわ系」愛国者に見える。

 ちなみに私は常々、安保法制の運用が始まり、南スーダンに「駆けつけ警護」という任務を背負った自衛隊員が派遣され始めたこのタイミングで稲田氏が防衛大臣であるという事実の重さというか軽さについて考えている。そうして今回の「戦闘」についての答弁。どう考えても破綻しているのだが、そこは稲田氏、一部メディアは野党による追及を「稲田いじめ」などと書いている。

 ある意味、ここまで来れば「才能」かもしれない。野党の当然の追及が、「いじめられている」ように見えて一部の同情を買ってしまうのだ。しかも、稲田防衛大臣というキャラは、追及する方にも国会中継を見ている方にも、「あの人に言ってもしょうがない」という諦めを抱かせる。詰めすぎると、泣いちゃうかもしれないし。実際、過去の核武装論を辻元清美議員に問いただされたら泣いちゃったし。で、泣かせたら泣かせた方が悪者になるに決まってるし。「話にならない大臣」。これは安倍政権にとって、どれほど都合がいい存在だろう。

 例えばこれが「石破防衛大臣」だったら、と想像してみてほしい。南スーダンの戦闘状況について、もっと大変な騒ぎになり、大激論が繰り広げられている上に世間の関心も高まっているのではないだろうか。が、彼女に対しては、彼女が防衛大臣であるという事実からして、あまりにもアニメちっくで「本気で怒ろう」という気持ちが無意識に削がれてしまう。そのような作用をもたらす防衛大臣のもと、現在、危険極まりない場所に自衛隊が派遣されているのである。

 そんな稲田氏は、非常に右翼的な考えの持ち主である。が、彼女がどれほど愛国的なことを言おうとも、なぜかまったく心に響いてこないというのも特徴である。「絶対本気で思ってないんだろうな」とバレバレなのだ。だからこそ、自衛官募集のチラシにも、「少々頼りない」などと書かれてしまうのだろう。

 さて、そんな稲田氏は過去に「ゴスロリ」を着たとかでも話題だ。が、自らゴスロリ・ロリータを着用していた私が声を大にして言いたいのは、稲田氏のアレはゴスロリでもなんでもない、ということだ。似て非なるどころか、似ても似つかないものである。稲田氏のアレと本当のゴスロリは、もう、「戦闘」と「衝突」くらい違うということは、強調しておきたい。

 さて、ここまで2人の「ゆるふわ系愛国女子」について書いてきた。2人とも50代だが、なぜか「女子」とつけたくなるというのも共通点だ。別にこういう人が一般人ならいいのだが、首相夫人と防衛大臣で、影響力も絶大なのである。

 現在、森友学園の問題で安倍首相は連日、追及を受けているわけだが、森友学園にかかわっているのは安倍夫妻だけではない。しんぶん赤旗2月27日によると、昨年10月、森友学園の籠池氏は、稲田氏から「防衛大臣感謝状」をもらっているという。そういえば、籠池氏って「日本会議」だもんな。

 森友学園と政権との繋がりは、随分と深いようである。

 

  

※コメントは承認制です。
第406回「ゆるふわ系愛国」のゆくえ〜安倍昭恵氏と稲田朋美氏、そして森友学園〜の巻」 に5件のコメント

  1. magazine9 より:

    現役自衛官の母親に会う機会があったのですが、家族の命がかかっている立場で、あの稲田さんの答弁を聞いたらどう感じるのか、想像するだけで心が痛みます。雨宮さんが最後に書かれているように、一個人としてであれば何を信じていても、どんな格好をしていてもいいのですが、権力や影響力をもつ立場にある以上、責任と自覚が必要だと思うのです。にわかに注目を集めている安倍昭恵さんの存在。先週の「風塵だより」でも触れています。あわせてご覧ください。

  2. James Hopkins「反戦ネットワーク(2002/08)」賛同 より:

    ところでいささか唐突ではあるが、文中くだりに、”稲田氏のアレと本当のゴスロリは、もう、「戦闘」と「衝突」くらい違う”とあるが、これはむしろ”「戦闘」と「お遊戯」くらいに違う”としたほうが精確なのではないだろうか。むろん”稲田氏のアレ”は”お遊戯”のほうだろふ。
    体幹に防弾チョッキを着たうえにかなり重い戦闘歩兵銃を携えて”凄惨な内戦状態”にある紛争現地に身をおく自衛隊員からしてみれば、そのたたずまいと言動ありさまのいかにむなしく、痛ましいまでに侮蔑的であるかは推して知るべしであろふ。
    ”戦闘”であろふと”衝突”であろふと、銃弾ないし砲弾炸裂を身にうければ、重傷を負い致命的な状態になることになんら変わりはない。ときに共和国シリアにあって残虐なテロリスト武装勢力と戦う祖国防衛隊志願民兵には多数の女性兵士もいる。
    無神経かつ無責任でもある危険な”ことばあそび”はやめてもらいたいものである。
    南スーダン現地への駐留派遣部隊は、青森駐屯の連隊のつぎは十勝帯広の連隊と聞く。吾が心胸はおだやかならぬ。帯広駐屯連隊は特科工兵部隊が主ときく、東北震災下では岩手県内の救援活動を担ったと伝聞した。いわゆる工兵部隊とは破壊された橋や道路などの公共インフラ建造物を修復回復することを主任務とする。昨秋北海道を襲った連続台風大雨による被害は甚大であった。南スーダンは諸君らが往くところではない。

  3. そりゃ70年代に、ポストマルクス系の新左翼の一部の人たちが、マルクス以外に何か無いかと探してたら、ニューエイジ系つきぬけて、日本にもこんなすごいスピリシュアルな文化があったんだ〜と、古神道に行き着いちゃったからでしょ。鎌田東二さんとか武田崇元さんとか。80年代前半のそのミソもクソも一緒の時代を経て、後期太田龍の軌跡たどると非常にわかりやすいんだけど、急激に右旋回する結構な数いたわけですよ。単にその延長線上ってことで、何ら不思議はない。
    ただ、左のスピリチュアル系の反原発となえてる連中も含めて、ここ20年ぐらい目新しいものは生まれてないし、そこに最早希望はないわな。

  4. 匿名 より:

    稲田防衛大臣は、かつて森友学園の顧問弁護士をされていたとかですし、「安倍総理夫人の昭恵」が名誉園長を勤める「御影インターナショナルこども園」も経営する「加計学園」へ「37億円の土地の無償譲渡」など、「猫を被っている」様に見せながら、そこかしこで国民の財産を「ネコババ」しているのには昭恵?果てます。

  5. 時の河 より:

    (週刊女性)『家庭教育支援法』提出、安倍政権の真の狙いは憲法24条の改正か

    朝日新聞、毎日新聞、中日新聞などの新聞や、上記のように雑誌で問題が指摘されています。詳しくは、下記サイトを!

    「24条変えさせないキャンペーン」
    https://article24campaign.wordpress.com/

    「共謀罪」が「憲法9条改正」の流れにあるように、
    「家庭教育支援法案」が戦前の教育や家庭に戻そうと意図していることを、国民の多くが知るべきではないでしょうか。

    森園学園にしろ、「家庭教育基本法」にしろ、いずれの問題でも「日本会議」というキーワードが出てきているのが恐ろしい。いつのまにか戦前に戻っていた、ということにならなければよいのだが。。。

←「マガジン9」トップページへ   このページのアタマへ↑

マガジン9

雨宮処凛

あまみや・かりん: 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮日記」

最新10title : 雨宮処凛がゆく!

Featuring Top 10/277 of 雨宮処凛がゆく!

マガ9のコンテンツ

カテゴリー