雨宮処凛がゆく!

20日の駅前トークショー。左から「だめ連」の
ペペ長谷川さん、私、松本さん、イレギュラーの成田さん。

 4月20日、21日と、高円寺一揆に参加してきた。
「貧乏人大反乱集団」「高円寺ニート組合」「素人の乱」などで世の中を乱しまくっている松本哉氏が、なんと杉並区議選に出馬。「選挙活動」と称して毎日路上で酒を飲んだり踊ったり、サウンドシステムとDJを載せたサウンドカーで大音量で音楽を流したり、とにかく路上解放区を作って大変な騒ぎを起こしているという。名付けて「高円寺一揆〜金のないヒマ人が騒ぎ始めるための作戦会議」。これは行かなければ!
 ここで彼を知らない人のために少し説明すると、松本さんは97年、法政大学で「法政の貧乏くささを守る会」を結成。学食が20円値上がりしたことに怒って貧乏学生たちと学食に突入したり、大学の一画にこたつや冷蔵庫を持ち込んで「家」にして毎日鍋や焼肉をしたり、学長の銅像をブッ壊したり、大学のシンポジウムでは偉い人たちにペンキぶちまけて逮捕されたりという人である。そんな彼の活動は「全日本貧乏学生総連合」(全貧連)として全国の大学に広がり、大学卒業後は「貧乏すぎてもう暴れるしかない!」を合い言葉に「貧乏人大反乱集団」を結成。文字どおり暴れてきた。その後「高円寺ニート組合」を結成して「俺の自転車を返せデモ」や「家賃をタダにしろ一揆」などを開催。数百人の貧乏人が「俺の自転車を返せ!」「取りにいく金ねぇぞ!」「もう家賃払えねぇ!」「 タダにしろ!」と暴れる革命前夜の盛り上がりとなった(彼の詳しい活動については「生きさせろ! 難民化する若者たち」でインタビューをしているので読んで欲しい)。

松本さんの選挙ポスター。中央には「杉並に貧乏人の一揆を!」。

 そんな松本さんが今回仕掛けたのは「選挙」という名の路上解放だ。一揆初日の15日、高円寺南口にはサウンドカーが横づけされ、ECDも登場。大量の若者が酔っぱらい、踊り狂うという大変な盛り上がりになったそうだ。
 そして20日、松本さんに召集された私は高円寺へと向かった。「応援演説」という名目で駅前でトークショーをするのだ。「選挙活動」ということにすれば、夜8時までは音楽もかけ放題、踊り放題、駅前を占拠してのトークショーなんかもやり放題だ。駅前に行くと、既にサウンドカーでDJが音楽を流し、若者たちが酔っぱらって踊っている。松本さん、私、だめ連のペペ長谷川さん、イレギュラーの成田さんというメンバーで「路上お茶の間」で語ったのは、やはり「いかにワケのわからない貧乏人がのさばり、世の中を乱していくか」というテーマだ。
 そんな松本さんの公約は、「放置自転車撤去反対」「路上喫煙解禁」「無料の区営住宅建設」(全部屋三帖間、トイレ・台所共同、風呂なしの六本木ヒルズ級のビルをブッ建てるらしい)。他にもあったが忘れた。トークショーは中盤から駅前に集まった貧乏人も乱入する無法地帯となり、月収2万のフリーターが「月2万でどうやって生きていけるんだー! 」と叫び、ピンハネでボロ儲けする派遣会社を杉並から追い出せ、という声も上がった。ちなみに月収2万のフリーターは日給450円でチラシ配りをしているのだが(時給は900円。しかし、頑張ってチラシをまくので30分で終わってしまい、結果日給450円になっている。「頑張っている人が報われる社会」ってどこの国の話だ? )、「月給2万じゃやってけない」と会社に訴えると、「やりくりの仕方が悪い」と言われたそうだ。29歳の男がどうやったら月2万で暮らしていけるというのだろう。

最終日、飛ぶ候補者。※これは選挙活動です。

 午後8時、選挙活動で音を出せる時間も終わりに近付くと、そんな状況にブチ切れた若者たちが突然狂ったように踊り出し、「貧乏人の恐ろしさを思い知らせてやれ! 」と松本さんがアジりまくる大騒動となったのだった。
 そして翌日。この日は選挙活動の最後の日。4年に一度、選挙に出れば作ることができる解放区もこの日で終わりだ。午後7時頃駆け付けると、高円寺南口はまさに「革命後の世界」になっていた。数百人の若者が踊り狂い、ダイブし、叫びまくり、「マツモト」コールが辺りを包む。あと1時間で終わってしまう「祭り」を惜しむ人達と、どてら姿で「先に革命後の世界を作れ!」「ワケのわからない奴らをもっとのさばらせろ!」とアジる松本さん。そのすぐ後ろには自民党、公明党の選挙カー。バカでアナーキーで死ぬほど面白い貧乏人の生の祝祭・「高円寺一揆」はそうして21日午後8時、終わったのであった。

ダイブ! タイブ! ダイブ! ※これは選挙活動です。

 あー面白かった。松本さんに聞いたら、区議選は30万で出られるという。30人が一万ずつ出せば、路上解放区を合法的に作り出すことができるのだ。今、世の中はどんどん息苦しくなっている。デモしてただけで逮捕されたり、路上で酒を飲んだり踊ったりしているだけでも警察が来る。なんだか非常に窮屈だ。でも、それを「選挙活動」にしてしまえば取り締まることはできない。松本さんはこれまでも「すっぽかしデモ」「3人デモ」など数々の裏技を打ち出してきた。さて、今度はどんな裏技を見つけるのか。ちなみに選挙結果だが、落選したものの、1061票を取り、供託金30万も無事奪還したという。とりあえず私は高円寺一揆を全面的に支持する。

 

  

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雨宮処凛

あまみや・かりん: 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮日記」

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