B級記者どん・わんたろうが「ちょっと吠えてみました」

 「大きな事故が起きれば、半島を入口で封鎖する。人も情報も行き来できないように切り離して、都合の悪いことをすべて半島に閉じ込めてしまうのが狙いなのでしょう」

 遠い都会に住んでいると普段は意識することもないが、青森県の下北半島には原子力発電所や核燃料再処理工場が集まっている。先日、マガジン9の「下北半島プロジェクト」で現地を訪れ、なぜなのかが話題になった時、地元の方が解説してくれたのが冒頭の言葉だった。マサカリのような形をした半島を地図で見ていただけば、その説明を実感できるに違いない。

 さらに下北半島では、福島第一原発の事故が起きる前に、大間原発と東通原発で各1基を新・増設する工事が始まっていた。とくに大間原発は、3.11の段階で4割が完成。「半島に閉じ込める」のが狙いなのかどうかは別にして、「原発銀座」への道は着々と進んでいた。

 しかし、3.11後に両原発の工事はストップし、再開されていない。これが今、地元の経済に深刻な影響を与えているという。年末には越年資金が確保できずに、倒産や廃業に追い込まれる業者が相次ぐのではないか、という予測もあるらしい。

 原発への賛否は措くとして、原発建設がもたらす地元経済への波及効果は大きい。道路をはじめとする関連工事やそれに伴う雇用、よそから来る工事関係者の宿泊、食事、買い物等々、裾野の広い特需である。だから最近、下北半島の原発関連工事に携わってきた地元の関係者の間では「実際に原発が稼働するかどうかは別問題にしてもらって、とにかく施設を完成させるまで工事だけはやらせてほしい」なんて声が聞かれるそうだ。

 下北半島に限らないことだが、原発の建設候補地として浮上するのは、農業や漁業のほかに目ぼしい産業がなく、企業が見向きもしないような不便なところが多い。雇用や経済波及効果を謳ってやって来る原発は、地元にとっては新しい工場が立地するのと同じで、地域活性化の千載一遇のチャンスだった。オブラートにくるまれた「危険」を除けば…。逆に言えば、国や電力会社はそうした場所をあえて選んで原発を押しつけ、都会の住民もそれを黙認してきた。

 だから、下北半島で脱原発を主張する数少ない人たちも、原発推進・容認派から現状を突きつけられ、「じゃあ働く場をどうするんだ?」と問われると、なかなか返す言葉がないようである。実際、安定した就職先として地元の高校生に人気なのは、公務員、自衛隊、そして原発だった、なんて話も聞いた。それが崩れるとなると…。今さら「自給自足の生活に戻れ」と言ったところで、現実には無理に決まっているのだから、とても難しい問題である。

 で、「下北半島プロジェクト」の帰りに青森労働局に立ち寄り、青森県内や下北地区の雇用情勢について尋ねてみた。

 青森県の有効求人倍率は0.43倍(8月の季節調整値)で、全国平均の0.66倍を大きく下回り、都道府県別では沖縄に次ぐワースト2位。リーマン・ショックから立ち直りかけていたところを震災に見舞われ、3月の有効求人倍率の下落率(前月比)は、岩手、宮城、福島など被害が大きかった県より高く、全国ワースト1だったそうだ。昨年12月の新幹線開業で盛り上がっていた観光産業が、自粛ムードに遭って春のシーズン目前で失速。下北地区では原発工事が再開する見通しが立たず、建設業を中心に従業員を減らさなければならなくなった、などが原因という。

 来春卒業する高校生の就職も厳しい。震災の影響もあって、県内への就職希望者が1割近く増えているのに対して、県内企業からの求人数はほぼ昨年並みで、求人倍率は0.57倍(9月末時点)。さらに、県外の就職先の7割以上を占める東京の企業からの求人が、昨年より1割以上落ち込んでおり、県内外を合わせた求人倍率の0.7倍は昨年同期よりやや低い。高校の先生は「県外にも目を向けるように指導しても、県外からの求人が減っていては思うに任せない」と困った様子だった。進学に変更する生徒も目立つらしい。

 下北半島では、東京電力の新卒採用中止など原発関連企業の採用抑制の影響を心配して、むつ公共職業安定所は例年より1か月ほど早く求人の開拓を始めたそうだ。

 そもそも、どうして青森県の雇用情勢は厳しいのか。基本的な質問をすると、「産業構造の問題です」という答えが返ってきた。工業地帯や消費地から遠いので輸送コストの問題もあって製造業の比率が低く、一方で農・漁業は個人で仕事をするケースがほとんどで人を雇わないからだそうだ。雪深い冬場は観光客が減ったり屋外の仕事ができなかったりで、通年で働ける場が他県より少ないことも一因に挙げていた。

 おまけに、青森県の平均賃金は全国平均より2割近く低く、最低賃金も時給647円と東京より200円近く低いという事情がある。いったん県外に出てしまった若者は、なかなか戻ってこない。結果として、地域の担い手がいなくなり、高齢化も進んで衰退する、といった悪循環なのだ。

 脱原発を目指していくとするのならば、原発に代わる雇用を、どうやって創出すればいいのだろうか。

 反原発派からは「風力・地熱発電など自然エネルギーの施設を原発の代わりに造って雇用の場にする」「原発の稼働を止めても、廃炉にするまでには相当の時間がかかり、その間は仕事があるから大丈夫」といった意見や提案を聞く。一考に値はするだろうけれど、今までと同じことの繰り返しになるだけで、根本的な解決策にはならない気がする。

 当たり前の結論でしかないが、「下北半島プロジェクト」で上映した映画「ミツバチの羽音と地球の回転」が描いていたように、たとえば地元の特産品を活用するとか、その土地でしかできないことを見つけ出し、いかにうまく産業化していくかに尽きるのではないか。主体となるのは地元の人たちであることは言うまでもない。だが、そこに行政が手厚い支援をするのはもちろんだし、何より都会の人たちが出資や商品購入、労力の提供、地元との交流など物心両面で深く関わり、盛り上げていく仕組みの構築が不可欠だろう。

 原発の地元と都会が対立するのではなく、まずはよく話し合い、互いに理解しあい、一緒に知恵を絞りたい。「いまここにある原発をどうするか」という極めて重い問いが向けられている先は、地元でもあり、都会でもあるのだから。

 

  

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第66回 原発の地元と雇用
~下北半島から考える
」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    “原発を抱擁し続ける地域が見ているのが「夕張化」なら
    脱原発などに何の希望も見出せない”とは、
    『「フクシマ」論』の著者開沼博さんの言葉です。
    「経済よりも安全が優先だろう」とは正論だし、
    離れた場所から口にするのは簡単なこと。
    でも、「原発に頼るしかない」経済構造の中で暮らさざるを得なかった人たちの、
    「原発がなくなったらどうするのか」という不安を共有することなしに、
    「脱原発」の実現はあり得ないのでは? とも思うのです。
    皆さんは、どう考えますか?

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どん・わんたろう

どん・わんたろう:約20年間、現場一筋で幅広いジャンルを地道に取材し、「B級記者」を自認する。 派手なスクープや社内の出世には縁がないが、どんな原稿にも、きっちり気持ちを込めるのを身上にしている。関心のあるテーマは、憲法を中心に、基地問題や地方自治、冤罪など。 「犬になること」にあこがれ、ペンネームは仲良しだった犬の名にちなむ。「しごと」募集中。

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