風塵だより

 12月24日、今年最後の市民ネットテレビ「デモクラTV本会議」に出た。番組冒頭で、出演者が考える「今年の漢字一文字」というコーナーが設けられた。人それぞれで、面白かった。

◎横田一さん(ジャーナリスト)は「金」
 今年の漢字に認定された「金」と同じだが、国会最終盤で強行採決された「カジノ法」を念頭に、もちろん「きん」ではなく「カネ」と読む、というもの。なんともひどい国会での強行採決の繰り返しの、最後を飾る汚い法案だった、との解説。

◎田岡俊次さん(軍事ジャーナリスト)は「乱」
 トランプ氏の米大統領選の当選で、世界は「乱」に陥る。その結果、TPPをめぐって日本政府も大混乱。アレッポの惨状、北朝鮮の水爆やミサイル…。世界は来年も「乱」が続くだろう、と。

◎伊田浩之さん(「週刊金曜日」副編集長)は「頑」
 とにかく頑な(かたくな)に自分の思い通りに物事を運ぼうとする安倍手法が目立った年。しかし、それに抵抗して「頑張らなきゃ」という意味で、この字を選んだという。

◎横尾和博さん(文芸評論家)が選んだのは「落」
 一億総中流といわれた日本国民が、雪崩を打って「落ちて」いる。いまや、格差社会の様相はどんどん広がっている。また「保育園落ちた日本死ね」でも分かるように、さまざまな分野で「落」が目立ったし、最後にはついにあのオスプレイも「墜落」したというオチまで。

◎山岡淳一郎さん(ノンフィクション作家)は、ずばり「猿」
 今年の政治状況は、すべて「猿芝居」というしかなかった。ことに、下手な役者勢揃いの国会議員たちの「猿」ぶりには、あきれ返ったから。

◎ぼくは、このコラム(99回)で書いたように「卑」
 繰り返すことになるけれど、今年ほど「卑しさ」の目立った年はなかったと思う。横田さんと同じだが、卑しさの極みは、バクチの上がりを「成長戦略の柱」にしようという「カジノ(バクチ場)法」だろう。「IR法」などとごまかしたって、リゾートの儲けの8割をカジノに頼るのだ。アベノミクス失敗のツケを、バクチで取り返そうという卑しさ。そして、沖縄でのオスプレイ墜落事故や、高江のヘリパッド工事強行に見る卑劣、米軍の言いなりになる安倍政権の卑屈。原発再稼働の卑怯…。

 まあ、どれをとっても、あまり気分のいい漢字は出てこなかった。それだけ、2016年という年は、政権近くの一部の人たちを除けば、厳しく辛い年だったのではないだろうか。
 年の瀬も押し詰まったころには、大火災という強烈な厄災が新潟県糸魚川市を襲った。辛い年の駄目押しみたいなものだ。死者が出なかったのがせめてもの救いだが、この寒空に家や財産を失った人たちのことを考えると、ほんとうに胸が痛む。

 沖縄では、最高裁による沖縄県側敗訴の判決を受けて、ついに翁長雄志県知事が「埋め立て承認の取り消し」を「取り消す」という事態に至った。沖縄タイムス電子号外(12月26日配信)は、次のように伝える。

 名護市辺野古の新基地建設を巡り、沖縄県の翁長雄志知事は26日午後、埋め立て承認取り消し処分を取り消したと発表した。(略)
 辺野古違法確認訴訟上告審での敗訴判決を受けたもので、沖縄防衛局に文書が届き次第、効力が発生し、2015年10月以来、約1年2カ月ぶりに埋め立て承認が復活する。新基地建設工事を進める法的根拠が整うことを受け、国は年明けに本格工事に着手する考えで、早ければ27日にも資機材をキャンプ・シュワブ内へ搬入する方針だ。
 翁長知事は「原点に戻り、辺野古新基地は造らせないとの新たなスタートへ改めて決意を固めた」と記者団に述べた。(略)
 知事は「あらゆる手法で新基地建設阻止に取り組む」としており、岩礁破砕許可などの知事権限を行使して工事を進めさせない考えだ。今後、埋め立て承認の「撤回」も視野に、国の工事や手続きの検証を本格化する。(略)
 県は、埋め立て承認時に留意事項として付した本体工事前の事前協議に応じるよう国に求める方針だ。このほか(1)来年3月末に許可期限を迎える岩礁破砕許可(2)埋め立て予定区域に生息するサンゴを移植するための「特別採捕」許可(3)工事を進める上で必要な複数の設計概要の変更申請―などの権限を使い、工事阻止を狙う。

 正直に言って、かなり厳しい闘いになるだろうが、県と名護市が持つ許可権限はかなりの分野に及ぶ。それらすべてを「不許可」とすれば、ひとつひとつの工事が、その都度遅延するのは間違いない。
 確かにそう簡単に工事が進展するとは思えないが、これまでの安倍政権のやり方を見れば、高江と同じように、全国各地から機動隊員を総動員してでも反対運動を押し潰しにかかることは目に見えている。
 反対運動のリーダー山城博治さんを狙い撃ちにしたように、逮捕拘留が増えるだろうし、場合によっては流血の惨事も起きかねない。
 オスプレイ墜落の一部始終を見れば、米軍も安倍政権も、沖縄県民のことなど歯牙にもかけない暴圧ぶりだ。多くの人たちが感じているように、沖縄はアメリカの植民地扱いだし、それに唯々諾々と従う安倍政権は、植民地の醜い傀儡政府としか思えない。

 日本国憲法第95条は、次のように定めている。

 第九十五条 一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。

 ただし、これに関しては「米軍基地は日本各地に存在するのだから、第95条が言うように『一の地方公共団体のみに適用』されるわけではない。したがって、沖縄だけの『特別法』はこの条文にはそぐわない」という批判が必ず出てくる。
 だが、米軍専用基地の70.6%は、日本の総面積のたった0.6%しかない沖縄に集中している(注・12月22日に日本に返還されたと日米両政府がお祭り騒ぎの返還式を行った約4000ヘクタールの北部訓練場を入れても、74.5%から70.6%に減ったに過ぎない)。
 つまり、この辺野古の米軍新基地建設がいかに沖縄にとって過重な負担になるかは、他の日本各地の比ではないのだ。
 これ以上の新たな米軍新基地建設は、明らかに沖縄県という「一の地方公共団体のみ」の問題である。だとすれば、国は「沖縄県における辺野古新基地建設に関する特別法」をきちんと提起して、95条にあるように「その地方公共団体の住民の投票」にその意志を委ねるべきだ。住民投票を行って、その結果が「辺野古新基地建設容認」というのであれば、堂々と工事着工すればいい。それが正しい手続きというものだろう。そうでない限り、この対立は延々と続くことになる。
 多分、この意見に対しては、日米安保条約の条文を持ち出して反論する人も出てくるだろう。日米安保条約第6条が次のようになっているからだ。

 第六条 日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍および海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。(以下略)

 つまり、米軍は日本国内の施設や区域を(自由に?)使用できる、と定められているのだ。もし条文を厳しく適用するなら「海兵隊はこの条文に含まれていないから、海兵隊が使用する辺野古の新基地は違反だ」ということもできるはずだが、そんなことが日米政府に通用するわけもない。
 もはや、日本政府においては、自国の憲法よりも日米安保条約や日米地位協定のほうが上位法であり大切なものだと思い込んでいるかのようだ。
 しかし、何度でも声を大にして叫びたいけれど、沖縄は日本なのだっ! ならば、日本国憲法を第一に適用すべきではないか。誰が何といおうが、沖縄は日本なのだから。

 もうひとつ。
 このように書くと、いわゆるネット右翼らしき人たちの攻撃にさらされる。それは「沖縄から米軍基地をなくして、中国にどう対処するのか。抑止力はどうなるんだ」というもの。きちんと沖縄県の主張を確認していないから、こんな批判が出てくる。
 沖縄県がいま訴えているのは、翁長知事が繰り返しているように「辺野古に米軍新基地を造らせない」ということであって、「沖縄の全米軍基地の撤去」ではない。「これ以上の負担押しつけに反対」と言っているだけだ。
 例えば、沖縄の嘉手納米軍基地(弾薬庫を含む)だけでも、日本本土の横田・三沢・厚木・岩国・横須賀・佐世保の米軍基地をすべて合わせたよりも広いのだ。その嘉手納基地などが存在する限り、抑止力(そんなものがあると仮定して)がなくなるという批判など、まったく当たらない。
 だが、安倍政権のゴリ押しが続けば、いずれ「全米軍基地撤去を」という叫びが、沖縄から起きてくるに違いない。
 強圧は抵抗を生む。

 考えていると、なんだかとても腹立たしくなる。いつの間にこの国は、いい加減なリクツがまかり通る国になってしまったのだろう。いつから、日本国憲法よりも外国との取り決めが上位になってしまったのだろう。

 今年は、もう数日で終わる。
 最初に書いたように、デモクラTV出演者たちが選んだ「今年の漢字」は、あまり嬉しくないものばかりだった。
 せめて来年は、「優」しくて、「柔」らかで、「静」かで、「穏」やかで、そして「楽」しい漢字で締めくくれるような年になってほしいものだと思いつつ…。

 

  

※コメントは承認制です。
102「沖縄特別法」を考える…」 に1件のコメント

  1. L より:

    気持ちは同じですが、つまらないことを言えば。
     海兵隊は海軍省傘下なので、6条の範囲です。
    ”海兵隊は海軍省下の部局であり、装備の調達などは海軍省が行う。軍令面では法律によって単独の軍としての独立性が保障されていることから、指揮系統において海軍省内では海軍と並列になっている”
    ”将校の養成も海軍と共通で、海軍兵学校卒業生の16%までが海兵隊の将校として登用される。”

     また、憲法と条約の関係ですが、降伏や講和などの条約は憲法に優先すると政府は説明しています。98条の書きぶりもその表れです。受諾したポツダム宣言や降伏文書調印の結果として憲法を改正したのですから、これらの条約より憲法が偉いわけがありません。で、安保条約は、サ条約による占領終結(安倍のじいちゃんを含む戦前からの特権階級の解放)とのバーターとして結んだ真の講和条約なわけであり、憲法の上位にある本当のの憲法でしょ(この上に影の憲法たる地位協定が)。よって、日米安保条約が日本国憲法より上位なのは明らかにして当然というべき。だから、砂川事件で米大使風情の跳躍上告要求を政権は呑み、三権の長(総理と同格)たる最高裁長官が膝まづいて米大使風情のXXを舐めたわけです。

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すずき こう

すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)など。マガジン9では「風塵だより」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。

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