女性と政治と社会のリアルな関係

 前回のコラムでご紹介した女性と男性の思考・行動の傾向の違いについて、日本ではどう考えられているのだろう? と思っていたら、ちょうど先週、三浦まりさん・上智大学法学部教授の「なぜ女性議員を増やすべきか」(主催:(財)市川房枝記念会 女性と政治センター)というお話をうかがうことができたので、紹介しておこう。

 日本では従来、政治家に性差はないという考え方が主流で、性差の社会科学や、性差が政治家としての行動にどう影響するかという研究はほとんどなかったという。そのため、男女によってものの見方が異なることを前提として女性議員を増やすべきという考え方はまだ広がっていない。

 昨年、三浦さんを代表とする「政治家と政策研究会」が日本の国会議員を対象とする「国会議員の政治意識と政策志向調査」と題したアンケートを行った(回答者数:76人、うち男性55人、女性21人)。その結果は今年3月に発表されたが、興味深い内容だ。

 それによると、「あなたは政治家としての資質や能力に関して、男女で異なるところがあると感じますか?」という質問に対する回答で、男女差が顕著で男性のほうが強いと考えられているのが、「権力志向」(男性の方が強い:41人 女性の方が強い:1人)、次いで「集金力」(35人:1人)、「組織への忠誠」(28人:4人)、「調整能力」(24人:0人)。逆に女性の方が強いと考えられているのは、「他者への共感」(女性のほうが強い:28人、男性のほうが強い:3人)、「倫理観」(21人:1人)、「ネットワークづくり」(22人:4人)、「正義感」(18人:5人)と、男女それぞれの傾向が現れている。

 この結果をみると、日本でも国会の場でジェンダーバランスが良くなれば、男女それぞれの強みがミックスされてバランスのよい政治が期待できそうだ。福島第一原発事故のあとドイツでは「倫理」の観点からも原発を論じ、メルケル首相がリーダーシップを発揮して脱原発を決めたことを彷彿とさせる(ドイツ国会に占める女性議員の割合は32.8%)。

ジェンダーバランスのための鍵は?

 さて、スウェーデンの話に戻ろう。スウェーデンの女性たちは、どのようにしてジェンダーバランスを確保するようになったのだろうか?

 話を聞いたとき、多くの女性がそろって口にしていたのが、「女性のネットワークがとても重要」ということ。それなくしては何もできないと言いきる人もいるほど。そして「女性の連帯(Our solidarity)」という言葉がよく使われる。

 たとえば各政党の女性組織は、それぞれ自分の所属する政党の選挙候補者名簿の順位が男女交互になるように求め、実現している。これにより国会での女性議員の割合は45%に。

 そして女性議員たちは、自分の所属する党を超えて、与党野党も超えて連帯する。共同で平等省大臣との会合を持ち、選挙前には何十ものジェンダー関連のNGOとともにジェンダー平等を実現するための会合をもつのだそう。

 連立与党である自由党の女性組織Liberala kvinnor(リベララ クビンノナ、自由な女性という意味)の代表、ボニー・ベルンストン(Bonnie Bernström)さんは、「まず自分が所属する組織の中でネットワークをつくること、そのうえで組織を超えたネットワークをつくることが鍵」と強調する。自由党の女性組織は育児休暇制度など具体的なジェンダー平等政策について、野党である社会民主党の女性組織と共同声明を出したりもするという。

 国会議事堂の中には、女性議員が立ち寄るサロンのような部屋があり、そこにはジェンダー平等に貢献した歴代のさまざまな政党の女性議員たちの写真やメッセージが壁一面に飾られていた。ここを見せてくれた環境緑の党でジェンダー問題担当の国会議員グンボ・エリクソン(Gunvor G Ericson)さんは、「この部屋は、Our solidarity(わたしたち女性の連帯)の象徴なのです」と言う。

ジェンダーバランスに貢献した歴代のさまざまな政党の女性議員について説明をする環境緑の党 国会議員 グンボ・エリクソンさん。スウェーデン国会議事堂内にて

 また、大学のジェンダー研究所は、女性政治家やロビイストだけでなくジェンダーに関心ある人たち、地方自治や会社などのジェンダー担当者を対象としてリサーチの結果を提供し続ける。ヨーテボリ大学のジェンダー研究所所長ケルスティン・アルネブラト(Kerstin Alnebratt)さんは、ジャーナリストや教師をはじめジェンダー問題に興味のある人たちが毎年集まる書籍フェステイバルや、政治家や政治に興味のある人が集まる大きなイベントなどでセミナーを行い、交流を広げているという。

 私がインタビューさせていただいた折も、「ヨーテボリに来たのだから、●●の△△さんに会ったほうがよい」と、すぐに携帯電話で本人に連絡をとって紹介してくれたり、この件ならこの人に聞いたらいいとさまざまな方を紹介してくれ、まさにネットワークの力を発揮してくれた(ケルスティンさんだけではなく、ほとんどすべての女性が同じように自分のネットワークから次々と紹介をしてくれた)。

ヨーテボリ大学のジェンダー研究所所長ケルスティン・アルネブラトさん

ヨーテボリ大学のジェンダー研究所

 このようにスウェーデンの女性たちは、まず自分のいる組織やコミュニティーの中でネットワークを築き、その上で組織を超えて連携する。さらにEUでの連携という国境を超えたネットワークを構築し、最近では中東やアジアなどのジェンダー平等実現にむけての支援も行っている。

 しかしスウェーデンのジェンダー平等は、なにも政治家が始めて獲得したものではない。政治家たちを動かしている一人ひとりの市民が始め、そして維持しているものなのだ。

 現地に滞在中、「国政選挙の投票率が『85%しかない』のが残念だ、民主主義の国として恥ずかしい」という言葉を、複数の市民から聞いた(日本の2012年12月衆議院選挙の投票率は59・32%)。

 次回は、スウェーデンにおける市民と政治のかかわりと、ジェンダー平等が生活の中で具体的にどう実現されているかをご紹介したい。

 

  

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金繁典子(かなしげ・のりこ): 1963年愛媛県生まれ。生態系豊かな自然のもとで、昔ながらの無農薬農業を営む地域に生まれ育っていたが、農薬や合成洗剤が使用されはじめて川や森の生態系が急速に失われていくのを目の当たりに。同時に農業と家事・子育てに大変な農家の「嫁」たちから、女性が自立する大切さを伝授される。男女平等にもっとも近く、高福祉社会のひとつであるスウェーデンで、それを達成した市民の意識を知るため2012年夏に滞在。NGOや市民にインタビュー。国際NGO職員。

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