この人に聞きたい

他人のために働いて、
満足できる価値観をもてるか

編集部 雑誌『自遊人』も3・11の影響を大きく受けたそうですね。

岩佐 実は雑誌については、魚沼に移住した後も、ずっとリニューアルしたくてもできなくて、悩んでいたというか、僕たちの考えているものと一番違うところにあったのです。変に売れてしまったものだから、中高年ライフスタイル誌というカテゴリーが勝手にできてしまった。その枠の中で脱落してはいけない部数競争のゲームがあったし、東京の広告部の人間がリニューアルを許してくれないとか、そういう葛藤があったのです。だからそこの部分だけは、ずっと東京の生活を続けていたんです。でも、3・11でそれもすっぱりと断ち切ることができました。これまでの、営業戦略上のコンセプトや企画は一切捨てて、自分たちの主張を全面に出していこうと。僕たちの価値観、提案するものに共感してくれる人が買ってくれればそれでいい、と考えたんです。

編集部 2011年7月号の『自遊人』では、〈「FUKUSHIMA」が復活するために。日本が復活するために。環境都市「水俣」に学ぶ。〉という8ページの特集を組んで、岩佐さん自らが水俣に取材し書かれていますね。また、2012年7月に出された別冊温泉図鑑には、「闘う宿」として、福島のある温泉旅館が紹介されています。22ページの大特集には、素晴らしいしつらえのお部屋やお風呂、料理などの美しい写真がふんだんに掲載されています。それだけだと、これまでの「本物の温泉宿」紹介本と変わらないのかもしれませんが、そこには岩佐さんのメッセージがはっきりと書かれています。ここに一部紹介します。
〈今回の企画では、単純に「食べて応援」「行って応援」と言うつもりはありません。正直、ちらほら見かける、なんの裏付けや根拠もない「福島の宿に行こう」的な記事は非常に無責任だと思っています。なぜなら、それは命の尊厳を無視しているばかりでなく、結果的には「原発再稼働を応援」になってしまうから。巨大な力による報道操作やマインドコントロールは非常に巧みで、知らず知らずのうちに原発容認の素地ができつつあるのです。とはいえ、事故が起きてしまったのも事実で、その現実を受け入れなければいけないのも、また現実です。〉
 読者からの反応はいかがでしたか?

岩佐 おかげさまでびっくりするぐらいたくさんの反響がありました。『自遊人』を創刊した時にも、お葉書、ファックス、メールをいただいたんですが、今回はその時と同じぐらいですね。読者層は、年代は広がり、男女も関係なくなり、大幅に変わりましたね。
 とは言え、会社全体としては売り上げは相当にダウンしています。ショッピングモールのほうは、とにかく商品がないのです。というのも、事故後「僕たちが確認できた安全なものしか売りません」と決めたので、ガイガーカウンターが到着し商品を検査し、その結果が出るまで販売しなかった。また検査の結果、1ベクレルでも検出されたら販売しないことにしたので、売ることのできる商品が減ったのです。現在も、十分に供給ができない状態です。そして当然のことですが、準備を進めてきた輸出の方はアウトですね。風評被害ということではなく、日本の対応に関して不信感をもたれていますから、しばらくこの状態は続くと思います。

編集部 次の展開は何か考えてらっしゃいますか?

岩佐 自遊人ファーム「晴耕雨読の里」という構想があります。

 今、農業の問題というだけでなく、日本社会においてある程度の経済を維持することも重要だけれど、3・11が日本人に投げかけたものは、これから我々は価値観をどこに求めるのか、生きる満足感をどこに求めるのか、これをどう定義していくのか? ということだと思うのです。

 でも僕は、「これまでみたいに経済活動でお金ばかり追いかけてきたから、日本人はダメになったんだ」というロジックには反対なんです。もちろん、僕も会社も、最初にお話ししたような経緯で、魚沼に引っ越して、大自然の中で人間らしい生活を取り戻そう、ということをやってきたわけなので、お金で買えないものの大切さもまたわかっているのですが。
 ただむしろこれからの方が、みんな一生懸命に働かなくてはならないと思うのです。福島や被災地を支えていくために、すでに財政破綻しかかっていた日本だけど、だから経済も正しく回していかなくてはならない。原発の事故や震災で、壊滅的な被害を受けた場所や人々に、必要なお金が流れていかなくてはならないから。
 だから、これまでのように、いやこれまで以上に働いていても、自分自身の使えるお金が増え好きな物が買える、というわけでもなくなるでしょう。となるとこれまでの「働くこと」の価値観は、日本全体で変わらないといけない。そこを再定義して納得しないと本当に荒んだ社会になると思うのです。
 僕が一番怖いなと思っているのは、自分たちが稼いだお金が、被災地や福島の人たちのために使われていることに対して、嫌悪感を持つ人が出てくることです。例えば、今もうすでに起きている現象として、仮設住宅に入っている人たちに対して、補償金や一時金でパチンコをやっていてけしからん、っていうバッシング。震災や原発事故で、家も仕事も家族も失って、絶望感のまっただ中にある人たちに対しての、そういうバッシング。パチンコぐらいさせてあげて何でダメなの、と思うんだけれど…。

編集部 今弱っている状態にある他人を支えていることで、自分自身も満足感や喜びを得る、それが自分自身の自信になる、というように多くの日本人が思えるかどうかですね。口で言うのは簡単ですが、やはり一人ひとりに余裕がないと生まれてこない感情かもしれません。

岩佐 僕自身、気持ちをニュートラルにして「何をしたいのか」を考える日々です。原発事故以降、魚沼のお米はさっぱり売れません。収入もさらに減りました。でも人生は一度きり、負けてはいられません。

(構成・塚田壽子 写真・小城崇史)

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