三上智恵の沖縄〈辺野古・高江〉撮影日記

沖縄・普天間基地へのオスプレイ配備をめぐる抵抗運動の様子や、新たな米軍基地建設計画が進む沖縄本島北部・東村高江の住民たちの闘いを描いたドキュメンタリー映画『標的の村』を撮影した三上智恵さん。辺野古や高江の 現状を引き続き記録するべく、今も現場でカメラを回し続けています。
その三上さんが、本土メディアが伝えない「今、何が沖縄で起こっているのか」をレポー トしてくれる連載コラムがスタートです。毎週連載でお届けします。

第1回

この国の「戦争を許さない闘い」の最前線は、今、辺野古にある

 これほどの物量、人員、年月で地域に襲い掛かってくる国家事業があっただろうか。
 それに対し民衆が抗い続け、18年も建設を許していない。ここまで人々の抵抗が権力を食い止めてきた事例はほかにあるだろうか。

 今、着々と進められている沖縄県名護市辺野古の基地建設。
 これから整備する滑走路の建設費用は3000億円とされるが、1996年の日米合意で普天間基地を東海岸に移すことになってから18年、2年に及ぶ海の上の反対運動で着工できなかった当初の沖合計画を含めれば、海兵隊が移転して使用を開始するまでには軽く2兆円を超える税金が投入される。
 工事関係だけではない。前回の海上闘争も、後半は海上保安庁の船団が、毎日辺野古崎周辺に展開された。あろうことか海上自衛隊の掃海艇「ぶんご」まで、国内初の治安維持活動として投入された。
 今、埋め立て作業が迫るこのひと月、ゲート前に毎日ずらりと整列している機動隊、警察官、ガードマン…。その人件費はいったい今後どこまで膨れ上がるのだろうか。

 物量、人員、年月、どれをとっても、なりふり構わず牙をむく日本政府。なんとしてでも辺野古の海に、軍港を備えた新しい基地を造りたいのだ。その、沖縄にだけ見せる政府の恐ろしい顔を、全国のみなさんはどこまで知っているのだろうか。
 そんな「辺野古の基地建設」の実態と「それを止めてきた力の正体」。それはいずれも全国に伝えられていないと思う。

 19年間、私は毎日沖縄のローカルニュースを読んできた。そのうちたぶん7割以上、トップニュースは基地問題だった。
 毎日の1分ニュースでは伝わらない。だから5分企画を作る。取材してみるととても5分では表現できない。だからドキュメンタリーにする。しかしそれはなかなか全国ネットにならない。
 そのジレンマの連鎖を何とか打破したいと、去年TVドキュメンタリー番組だった『標的の村』を映画という形に持って行った。

 上映会の現場を50か所以上回った。
 私は今年の春に放送局をやめるまで28年間、「視聴者」という顔の見えない集団に向き合ってきた。
 しかし会場でお会いする方々は、アンテナを張り、上映会の情報を聞きつけて足を運ぶ「意識を持って行動する」ひとびとだった。
 当然、偶然にチャンネルをあわせた「視聴者」とは違う。目を見開いて、心で受け止めようとする熱気に会場の空気が前のめりになっていく。番組の作り手としては実感することのなかった場の振動を味わった。

 そして、何が人の心に届き、また届いていなかったのか。それを思い知らされた。
 ローカルニュースのキャスターとして警鐘を鳴らし、ドキュメンタリーをこれまで通りに作っていては間に合わない。これまで通りでは限界を打破できないという結論に至った。
 カメラ機材も、車両も、製作費どころか賃金さえ失うが、まだ体力があるうちに「放送」という枠を出なくてはいけない。

 名護市東海岸には、1997年の名護の住民投票のころから通っている。
 この過疎と基地の町が同居する地域と、彼らを先祖からずっと潤し続けてきた大浦湾の海が、私は大好きだ。ここから伝えないといけないことがいっぱいある。
 この地域の自然の豊かさも、共同体の素晴らしさも、もっと多くの人に知ってもらい、その結果、窮地にある人々の生活や自然環境を救うことができるなら、私は何でもできる。なんでもしたい。
 だから来年夏に公開する次のドキュメンタリー映画もここが舞台になる。

 撮影はまだ始まったばかり。主人公やストーリーもまだこれからだが、これだけの国策に抗い続け地域の力、揺らぎ続けながらも消されることを拒んできた信念の灯とはどういうものなのか。
 たとえ、今後は基地が造られていくことになったとしても、それでも踏みにじられることを拒み続ける人間の尊厳とはなんなのか。

 「たとえ結果がどうあろうとも。闘った事実が子孫に手渡せる唯一の財産だ」

 そういい続けた沖縄のおじいおばあたちの言葉を北極星に、描いていけたらと思う。

 昨日とおととい、映画の主人公の一人である島袋文子さん(85)が、悪い足をかばいながら、ついにコンクリートミキサーの前に立ちはだかった。
 毎日炎天下、キャンプシュワブの前で抗議の声を上げ、工事車両に向かって「建設に協力しないで!」と訴え続ける人たちを、そばのテントから身を乗り出して見守り続けた文子さん。反戦おばあの文子さんについて、詳しいことは次回に譲りたい。

 巨大な政府の計画を止め続けた力。
 その一つは、確実に、彼女のような沖縄戦を体験した方々の尋常ではない精神力である。彼女は、私を轢き殺してから行け、と啖呵を切る。
 それだけではない。

 「見ててごらん。また海が荒れるよ。風も波も起こしてくださいと私は神さまに言ったんだ」

 彼女の言葉通り、今朝二つの台風がくっきりと天気図に載った。先週大攻防の末設置された桟橋は、今朝から撤去作業に入っている。

三上智恵監督新作製作のための
製作協力金カンパのお願い

沖縄の基地問題を描く、三上智恵監督新作の製作を来年の2015 年完成を目標に開始します。製作費確保のため、皆様のお力を貸してください。

◎製作協力金10,000円以上、ご協力いただいた方(もしくは団体)は、映画HPにお名前を掲載させていただきます。
◎製作協力金30,000円以上、ご協力いただいた方(もしくは団体)は、映画エンドロール及び、映画HPにお名前を掲載させていただきます。
※掲載を希望されない方はお申し込みの際にお知らせ下さい。

■振込先
郵便振替口座 00190-8-513577
名義:三上智恵監督・沖縄記録映画を応援する会

 

  

※コメントは承認制です。
第1回 この国の「戦争を許さない闘い」の最前線は、今、辺野古にある」 に8件のコメント

  1. magazine9 より:

    先週の予告でもたくさんの反響をいただいた、三上智恵さんのコラムがスタートします。以前、映画『標的の村』を見たときに、そこで描かれる状況の過酷さとともに、それを沖縄県外にいる私たちがまったく「知らされないでいる」ことに大きな衝撃を受けました。メディアまでもが機動隊によって排除されるというような、どこの国なんだろうこれは、と思ってしまうような光景。そして、その背景にあるのは、米軍基地の大半を沖縄に「押しつけている」という現実…。三上さんからのレポートや動画を通じて、少しでも「自分自身の問題」として捉えることができればと思っています。

  2. 宮坂亨 より:

    僕もこの現場にいます。ここで1首 機動隊にごぼう抜きされ肉の厚さ知る体臭匂うゲート前

  3. 島憲治 より:

    「たとえ結果がどうであろうとも、闘った事実が子孫に手渡せる唯一の財産だ」。私もこの考え方を採る。これと対峙するのが「自分一人が反対したって世の中変わるわけではないし」というもっともらしい言葉だ。これは関心を装った無関心層の人たちの常套語だ。今日本は、考える人、そうでない人、とが二分されているようだ。その割合が拮抗していると視る。だとすれば、とても危険なことだ。民主主義は一人一人が「考える」ことが前提で成り立つ制度だからだ。
    私には三上智恵さんのようなことはできない。しかし、三上さんの挑戦していることに強い関心を寄せることはできる。 人間は組織の中では変ってしまうのかも知れない。それを権力が支えればしっかり盲目になってしまってもおかしくはない。安倍政権の政治運営は、内容にもウソがあるが、手続きが姑息過ぎるのだ。。国民に説得するのではなく、外国に出かけて理解を求める手法はあまりにも幼稚過ぎる。私の小学時代を思いだす。「皆さん賛成しているのよ」「反対しているのはあなただけよ」。そのような観点から安倍政権は信用できない

  4. 田北十生 より:

    標的の村で目が覚めました!!

  5. 藤田のりえ より:

    「標的の村」ショックでした、いまもまだこのようなことが・・・私たちはあまりにも知らされず、知ろうとしていない・・・人を軽んじる政府は必ず崩壊すると思います。現場からの情報を期待しています。

  6. みかみちえ より:

    一部の変な人たちが反対しているだけでしょう?
    まだ、大部分の人がそうたかをくくって動こうとしない。目を背ける口実に「プロ市民でしょー」「補償目的?」「イデオロギー」と揶揄します。本当のことは現場に来ればわかるのに。反対運動批判の人は現場に来ない。

    • 島 憲治 より:

      みかみさんの指摘した言葉は「関心を装う無関心層」の常套語です。「思考停止」が進んでいることを人に見破られたくない保身術なのでしょう。ところが、この人達が政権を支える大きなエレルギーになっていると視ています。先日「憲法の団扇」を購入いたしました。扇いでいるととても爽やか、心地が良いのです。私も頑張ります。

  7. 青沼俊文 より:

    あなた方の闘いに敬意を表し、ささやかながらカンパを送ります。

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三上智恵

三上智恵(みかみ・ちえ): ジャーナリスト、映画監督/東京生まれ。大学卒業後の1987年、毎日放送にアナウンサーとして入社。95年、琉球朝日放送(QAB)の開局と共に沖縄に移り住む。夕方のローカルワイドニュース「ステーションQ」のメインキャスターを務めながら、「海にすわる〜沖縄・辺野古 反基地600日の闘い」「1945〜島は戦場だった オキナワ365日」「英霊か犬死か〜沖縄から問う靖国裁判」など多数の番組を制作。2010年には、女性放送者懇談会 放送ウーマン賞を受賞。初監督映画『標的の村~国に訴えられた沖縄・高江の住民たち~』は、ギャラクシー賞テレビ部門優秀賞、キネマ旬報文化映画部門1位、山形国際ドキュメンタリー映画祭監督協会賞・市民賞ダブル受賞など17の賞を獲得。現在も全国での自主上映会が続く。15年には辺野古新基地建設に反対する人々の闘いを追った映画『戦場ぬ止み』を公開。ジャーナリスト、映画監督として活動するほか、沖縄国際大学で非常勤講師として沖縄民俗学を講じる。『戦場ぬ止み 辺野古・高江からの祈り』(大月書店)を上梓。
(プロフィール写真/吉崎貴幸)

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