立憲政治の道しるべ

憲法によって国家を縛り、その憲法に基づいて政治を行う。
民主主義国家の基盤ともいえるその原則が、近年、大きく揺らぎつつあります。
憲法違反の発言を繰り返す政治家、憲法を無視して暴走する国会…。
「日本の立憲政治は、崩壊の危機にある!」
そう警鐘を鳴らす南部義典さんが、現在進行形のさまざまな具体的事例を、
「憲法」の観点から検証していきます。

あさって未明にも、安保法案は成立

 永田町が急に慌ただしくなってきました。
 決して断言したくはありませんが、早ければあさって18日(金)の未明にも、安保二法案は参議院本会議で可決、成立していると思います。
 参議院の混乱が激化し、収拾がつかなくなるようであれば、18日(金)の深夜にも、安保二法案は衆議院本会議で「みなし否決(いわゆる60日ルール)」とする自民党議員の動議を可決したのち、再議決(出席議員の3分の2以上の賛成要)によって、成立していることでしょう。

きょう、あすの国会はどう動くか

 きょう(16日)、参議院の特別委員会は午後、横浜市内での地方公聴会を終えた後、18時00分から、安倍総理出席の下、院内で最後の法案審議(締めくくり総括質疑)を2時間行います。20時を過ぎた頃(ひょっとすると21時を回っているかもしれませんが)、特別委員会では、自民党議員がまず「採決を求める動議」を提出し、この動議を可決します。
 その直後、委員長席の周りを野党議員が騒然と取り囲む中、法案の採決に入ります。維新の党提出の修正案を否決した後、政府提出の二法案を原案どおり可決し、附帯決議案の案文朗読と採決を終えて、鴻池委員長が散会を宣言します。
 ――今夜、参議院第一委員会室で繰り広げられる光景が、こんな具合に浮かびます。

 法案の採決をめぐって、与野党の対立はきょうから、いっそう激しさを増すでしょう。自民党が、衆議院の再議決という切り札を露骨にちらつかせ始めているので、なおさらです。
 もっとも、常識的に考えれば、参議院側で与野党協議が何らかの形で続いている間は、その動きをまったく無視して、衆議院で再議決をすることはないと思います。もし仮に、衆議院の再議決を強行したならば、与党の数の力だけを国民に印象付けるだけの振舞いになってしまい、あくまで参議院で正規の採決をめざす参議院自民党幹部の面子を潰すことになってしまいます。自民党もそこまで馬鹿で、なりふり構わぬ手段を仕掛けてくるとは思えませんが、もし本当にやってしまったら、自民党が馬鹿だという評価だけでは済みません。立派な憲法問題となるので、このことだけは自民党に覚悟してもらう必要があります。

 あす(17日)、参議院本会議は10時00分開会予定でセットされるでしょう。これは当然、野党の反対を押し切り、参議院議院運営委員会の中川雅治委員長(※2年前、特定秘密保護法案を審議した参議院特別委員会の委員長でした)の職権(独断)で行うものです。参議院本会議をセットするのは、今晩の特別委員会で可決する(であろう)安保法案を可決し、成立させることだけが目的です。

 参議院本会議がセットされれば、ちまたで言われているように、野党・民主党が中心となって、「安倍内閣総理大臣問責決議案」、「議院運営委員長の解任決議案」などを連続して提出することになります。諸々の準備で、参議院本会議が実際に開会されるのは、午後遅い時間帯になるかもしれません。冒頭、あさって18日の未明にも成立、と書きましたが、未明までの間、参議院本会議では延々と議事が進んでいくことになると思います。私の脳裏には、あすの参議院本会議の光景も同時に浮かんでいるわけですが、「衆議院の段階で、野党はもっと強く、インパクトのある抵抗ができなかったのかなぁ」と、考えるだけで気が滅入ってしまいます。

 法案の成立阻止に向けて、法制上採り得る手段ないし方法を、私なりにいろいろ研究してみました。
 しかし、特別委員会で反対討論を行うだけでは効果がありませんし、かといって憲法、先例を無視することは絶対にできません。奇策・秘策といっても、結局、野党ができることは「時間稼ぎ」くらいです。あとは、内閣総辞職に至るような事故が何か起きることくらいですが、そのようなことを妄想していても意味がありません。野党には、体を張って、できることは全部やり尽くしてくださいとお願いするしかないというのが、きょうの段階です。

民主政治の大原則に戻って、選挙で決着をつけるしかない

 衆議院で、安保二法案の実質的な審議が始まったのは5月26日のことでした。衆議院の特別委員会でも、法案の問題点が様々明らかになるとともに、委員会審議における安倍総理の不真面目な答弁態度が問題視されるなど、通常国会の会期を延長する前に、「内閣不信任決議案」を早々に提出するタイミングは何回かあったはずです。

 ところが、「内閣不信任決議案」を提出すべきかどうか、野党第一党(民主党)と野党第二党(維新の党)の足並みがまったく揃わなかったことから、結局、安倍内閣に対する「けじめ」が不十分なまま、参議院に法案が送られてしまいました。これは野党第一党の手抜きであって、その後、野党第二党に政局に勤しむための時間を与えてしまった(大阪系・非大阪系の分党騒ぎ)と、私は思います。
 野党が一致結束して、「野党としての仕事」を果たしてくれるのかどうか、「不信任」の機運が十分に盛り上がっていない現状をみると、国民はまだ、野党にも不信を覚えています。法案に反対する多数世論との心情的な溝がなお、埋まっていない気がします。

 やはり、与野党の形勢逆転は、来年7月の参議院選挙まで待たなければならないでしょう。民主政治の原則どおり、選挙で決着を付けるしかありません。野党にさらなる力を与えることが、どうしても必要です。
 きょう、あすの国会の動きをみて、諦めムードに浸るのではなく、「参議院選挙で与党を過半数割れに追い込み、野党が過半数の議席を獲得し、“安保二法廃止法案”を確実に可決し、衆議院に送ること」だけを頭に思い描いて、これからの毎日を送りたいものです。野党は決して、一つの政党に結集しなくてもいいので、ねじれ国会の実現を少なくとも共通の目標に据え、明確に、国民と約束すべきです。

バタフライ効果を実感する時代へ

 いまから40年ほど前のエピソードですが、米国のエドワード・ローレンツという気象学者が「蝶が一回はばたく程度でも、地球上で遠く離れた場所の気象に影響を与えるか?」という問いかけをしました。蝶が起こす、わずかな風圧を問題視するのです。バタフライ効果といわれ、その真偽に関して、いまでも議論は続いています。これが正しければ、コンピュータをどんなに駆使しても、蝶の動きまではわからないので、長期の天気予報を正確に行うことはできません。

 日本では、『JIN 仁』(TBS、2009年)というドラマで、幕末にタイムスリップした主人公が、自分の行為がその先の歴史に与える影響に悩んで葛藤するシーンを通じて、バタフライ効果という言葉が認知されました。歴史や人の運命を決定する些細な行為や、因果関係が繰り返されていくその終局に、その先の人生や社会に影響を与えることになる「最初のきっかけ」が存在することを、バタフライ効果は暗示しています。読者の皆さんの中にも、このドラマをきっかけに、人生のバタフライ効果を考えたことがあるという方がいるかもしれません。

 国内政治の現状にあてはめてみても、市民一人ひとりがバタフライ効果を実感する時代に入ったのではないかと、最近つくづく思います。手段、方法は様々ですが、組織や既成政党の枠を超えて、政治的な意見表明がこれほど自由闊達の交わされる時代は、過去に経験がないと思います。
 きのう、参議院の特別委員会で公述人として発言した奥田愛基さんは、「国会前の巨大な群像の中の一人」と、己を称しました。この「群像の中の一人」が、いまどれほど大きなエネルギー源となっているか、彼の評価には多言を要しません。

 バタフライ効果は、来年夏までに必ず国民的確信に変わるであろうと、私は思います。そんな思いで、これから48時間の攻防を見守ります。

***

先日の記録的豪雨で被害を受けた方々に対し、衷心よりお見舞いを申し上げます。
一日も早く、復旧の途につき、日常生活が戻ることを祈っております。

 

  

※コメントは承認制です。
第77回 市民一人ひとりが、“安保二法廃止法案”を可決させる、最初のきっかけになる」 に2件のコメント

  1. magazine9 より:

    国会での動きを15日深夜ぎりぎりまで探って、原稿を書いてくれた南部さん。この通りに採決されてしまうのか、最後まで希望は捨てたくない思いながらも、採決された「その後」について考えざるを得ません。まずは、今日、明後日と国会がどう動くのか、一人ひとりの議員の動きに注目して、次の選挙に向けて焼き付けておきたいと思います。バタフライ効果の話が出ましたが、全国各地で安保法制反対をきっかけに多くの人たちが動きだしました。この動きは今後も続いて、大きな変化を生み出すはずです。

  2. 相沢緑 より:

     政治には2004年、自民党新憲法草案が出るまでは、さほど関心なく過ごしてこれました。
     教えてください。先生のお話からは打つ手がないような印象です。本当に打つ手がないのでしょうか?内閣不信任案や、開催中の参議院の議長に内閣問責決議案などもう現在は出せないのですか?
    また、内閣不信任案、とか問責決議案についても教えてください。
     参考人とか、公聴会とかは、同法案審議中のもっと早い時期か、中間などに持ってくることはできないのでしょうか?審議中の委員会、殊に衆議院の委員会の質疑は全くわからない、噛み合っていないと感じましたが、公聴会での話、や参考人の話はよくわかりました。初めにこういうしっかりとわかっている人の話を聞くことのほうが、議員達の殊に与党の議員達のわけのわからない問答を聞くより、よほど為になります。
    現在の与党は、結論ありきで結論しか知らない、考えようともしない、だから説明できないのではないでしょうか?小選挙区制によって、その他の手も使って議員になれたと思われるアベチルドレンは、何も考えてはいない、又いけないアベロボットです。 また、ジャパンハンドラーズの不可思議な影がちらほら見えすぎませんか?

←「マガジン9」トップページへ   このページのアタマへ↑

マガジン9

南部義典

なんぶ よしのり:1971年岐阜県岐阜市生まれ、京都大学文学部卒業。衆議院議員政策担当秘書、慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)を歴任。専門は、国民投票法制、国会法制、立法過程。国民投票法に関し、衆議院憲法審査会、衆議院及び参議院の日本国憲法に関する調査特別委員会で、参考人、公述人として発言。著書に『[図解]超早わかり 国民投票法入門』(C&R研究所)、『18歳選挙権と市民教育ハンドブック』(共著・開発教育協会)、『動態的憲法研究』(共著・PHPパブリッシング)、『Q&A解説・憲法改正国民投票法』(現代人文社)がある。(2017年1月現在) →Twitter →Facebook

写真:吉崎貴幸

最新10title : 立憲政治の道しるべ

Featuring Top 10/117 of 立憲政治の道しるべ

マガ9のコンテンツ

カテゴリー