立憲政治の道しるべ

憲法によって国家を縛り、その憲法に基づいて政治を行う。
民主主義国家の基盤ともいえるその原則が、近年、大きく揺らぎつつあります。
憲法違反の発言を繰り返す政治家、憲法を無視して暴走する国会…。
「日本の立憲政治は、崩壊の危機にある!」
そう警鐘を鳴らす南部義典さんが、現在進行形のさまざまな具体的事例を、
「憲法」の観点から検証していきます。

「一票の較差是正」――国会がやっと腰を上げた

 熊本地震の発災から2週間が経ちました。亡くなられた方々に対し、衷心よりご冥福を祈ります。被災されたすべての方々に対し、謹んでお見舞いを申し上げますとともに、いまだに行方不明中の方の捜索が進捗することを願っております。現在、政治・行政による取組みは無論のこと、何より、市民ボランティアによる復旧支援が力を発揮し始めたことは心強い限りです。被災者、避難者のニーズとのマッチングが奏功することを祈るばかりです。

 通常国会は、会期が残り1カ月あまりとなる中、衆議院では、一票の較差の是正と議員定数の削減を目的とする衆議院選挙制度改革の「自公案」と「民進案」、これら2法案の審査が佳境に入りました。きょう27日も、衆議院倫理選挙特別委員会で審査が行われています。早ければ、あす28日の衆議院本会議で、与党案が原案どおり可決し、参議院に送られ、5月中旬にも成立する見通しとなっています。次回の総選挙に間に合わないことはほぼ確実ですが、1~2年後には、自公案に基づく新しい選挙制度(区割り)がスタートする可能性が高くなっています。
 一票の較差是正に関しては、報道がかなり食傷気味になり、一般の関心も乏しくなっています。政治・行政が熊本地震への対応にエネルギーを集中しなければならない状況で、こんな生活感に欠ける議論をやっている場合かという空気もあります。しかし、自公案の成立で、ある意味地域によって差別的、恣意的な区割りが顕著になるばかりか、制度の歪み(一票の不平等)が半ば恒久化してしまうおそれがあるのです。自公案“0増6減”は間違いなく、連続4度目の違憲状態判決(最高裁)を招くと、私は懸念しています。自公案が参議院で可決し、成立するまでは、まだ時間が残されています。国会論議が適当に済まされないよう、主権者・国民の側からしっかりと注文を付ける必要があります。

自公案で、区割りはどうなるか

 自公案は、衆議院小選挙区の選出議員(選挙区)の数を6減らします。選挙区から選出される議員の数は、現行の295から、289に減ります。巷でいう「0増6減」とは、具体的に、選挙区の数が増える都道府県が「0(無し)」であり、減る都道府県が「6」であることを意味します。もともと、どの都道府県から選挙区の数を減らすのか、削減方法の選択一つとってみても、政治的な裁量が大きく働きます。この点がいつも、憲法が要請する一票の価値の平等との関係で、悩ましい問題をもたらすわけです。
 区割り見直しのスケジュールでいうと、自公案は、二段構えになっています。まず、①2015(平成27)年の簡易国勢調査の結果のデータに基づいて、独自の較差是正策(0増6減)を敷いた後で、②2020(平成32)年の大規模国勢調査の結果のデータに基づいて、アダムズ方式と呼ばれる計算式を用いて「○○増○○減」の改革を行うものです。本稿は少し長くなりますが、①と②は妥当な内容なのかどうか、検証していきます。まずは、(図)をご覧いただき、今後のスケジュールをイメージしてください。

 この連載でもしばしば採り上げてきましたが、最高裁の違憲状態判決が3回連続で確定しています。現在もなお、区割りは違憲状態下にあります。国会は何ら、一票の較差を是正する措置を講じていないからです。しかも、較差は、前回の総選挙からじわじわと拡がっています。
 国会の立法不作為がこのまま続いて、解散総選挙が行われた場合、後に選挙無効訴訟が提起されたときには、裁判所はより厳しい判断を下すことは避けられません。議員の身分にも関わることであり、このタイミングで与野党の腰が上がったことには理由があります。それは、民間有識者から成る「衆議院選挙制度に関する調査会」がことし1月14日、大島議長に答申を行ったことです。答申は、選挙区から選出される議員の数を「6」減らすことと、区割りは、いわゆるアダムズ方式と呼ばれる方法で行うこと、を内容としています。区割りの方法は数多に存在するところ、答申は、都道府県間の一票の較差をできるだけ小さくする効果がある等の理由で、アダムズ方式の採用を一押ししています。全政党は答申の内容を尊重する立場であり、自公案も民進案も、この点は納得しています。もっとも、現在審査中の自公案、民進案は、前者については一致しているところ、後者については、アダムズ方式の導入時期について答申が何ら言及していないために、過去に遡って適用するか(民進案)、将来導入するか(自公案)で意見が対立しているのです。

アダムズ方式とは

 まず、アダムズ方式の解説が避けて通れません。こちら、NHK解説委員のページでも紹介されているので参考にしてください。都道府県ごとの現在の配分数をできるだけ変えないで配分できる整数「N」(除数)を決め、各都道府県の人口を実際に割って配分していくわけですが、その際に小数以下を四捨五入ではなく、必ず「1」に切り上げるのがポイントです。割り算の結果、都道府県に配分されるべき選挙区の数が「15.1」であれば「16」が、「8.4」であれば「9」が、「0.4」であれば「1」という具合になるわけです。小数の値がどんなに小さくても、整数「1」に必ず切り上げられるので、実際上、人口の少ない県にとって有利な配分が確保されます。小数を切り上げた結果を単純に足し算すると、もともとの選挙区の数(選挙区選出議員の数)を超えてしまうので、割る数について一定の工夫をして、総計(和)を調整するのがアダムズ方式の基本的な発想といえます。
 自公案は、アダムズ方式の導入を、2020(平成32)年の大規模国勢調査の結果が明らかになってからとしています。いまは、この結果を先取りする計算はできないわけですが、直近の2015(平成27)年簡易国勢調査の結果(人口127,110,047人)をあてはめてみると、次のような計算結果が得られます。
 まず、人口127,110,047人を選挙区の数289で割ります。すると、一選挙区当たりの人口は、439,827.152人となります。北海道から沖縄まで、各都道府県の人口を整数部分の439,827で機械的に割っていくと、それぞれの選挙区の配分数が決まりますが、アダムズ方式は、その割った値(商)の整数部分をそのままに、小数以下を「1」に切り上げていくので、結果として選挙区の総数が289をはるかに超えてしまいます。
 そこで、選挙区の数がピッタリと289になるように、割るべき整数Nを探していくと、478,402から478,771までが、この条件を満たすことがわかります。この間の任意の整数を以て、北海道から沖縄までの各人口を割って、商を求め、小数以下を「1」に切り上げていく作業を行うと、5つの都県で「9」の選挙区を増やし、「15」の県で選挙区を一つずつ減らす、「9増15減」(最大較差1.89倍)という結果が得られるわけです。

アダムズ方式をいったん見送る、自公案

 自公案は、2020(平成32)年大規模国勢調査の結果が明らかになるまでの間、アダムズ方式の採用を見送り、その代わりに、何とも形容しようがない、じつに怪奇な計算方法によって、0増6減を実現するとしています。条文上はわかりづらいのですが、端的にいえば、現在の各都道府県の選挙区の数から「1」を引いた数で各人口を割って、商の値の小さな下位6県の選挙区の数をそれぞれ一ずつ減らすものです。次表をご覧ください。

 下位6県については、これだけの少ない人口で選挙区を形成している、という意味に解されることから、該当人口を増やすために選挙区の数を一ずつ減らす、という判断が自公案の根底にあります。
 しかし、そもそも問題にしなければならないのは、都道府県人口を、(選挙区の数―1)で割ることの意味です。全都道府県について、一の選挙区は当然に与えられるべきであるという発想から出発するのであれば、法律上はいったん姿を消した「一人別枠方式」の、形を変えた復活ではないでしょうか。
除数に関する「マイナス1」の根拠は、はっきりしています。「マイナス1」としないと、鳥取県の選挙区の数が「2」から「1」に減ってしまい、現職の自民党議員が困ることになるからです。
 自公案の提出者は、「政治決断による、緊急是正措置」と豪語しつつ、「アダムズ方式に準ずる方式」と述べていますが、まったく関係ありません。確かに、最大較差は1.89倍に抑えられますが、本音は鳥取県の2選挙区制を死守するためであり、アダムズ方式導入までのただの「モラトリアム」にすぎません。旧民主党は、自公案の基本的考え方が明らかになった当初、「(自公案は)党利党略に基づき、調査会答申をつまみ食いして“換骨奪胎”する主張」であるとして、厳しく批判しました。私も、自公案は人口比例の原理・原則を狡猾にねじ曲げるものだと思います。それ故、自公案は、4度連続となる最高裁・違憲状態判決を誘発しているとしか言いようがないわけです。

与党案の修正を視野に

 ここまで、自公案“0増6減”の問題点をみてきました。他方、アダムズ方式の導入を、2010(平成22)年大規模国勢調査の結果(人口128,057,352人)のデータに基づいて行うという、民進党案を採用することはどうでしょうか。同案は、自公案よりも早くアダムズ方式を導入し、「7増13減」という改革を導きます。しかし、次のような問題があります。
 第一に、2015(平成27)年簡易国勢調査の結果が公表されているのに、わざわざこれよりも古いデータに依拠することの正当性が疑わしい点です。確かに、都道府県ごとの区割りの見直しを10年に一回の大規模調査に限ることが、選挙制度の安定化にもつながり(⇔区割りの頻繁な見直しは、有権者にとっても好ましくない)、直近の大規模国勢調査である2010(平成22)年の結果のデータに従うことは自然な判断ともいえますが、東日本大震災・福島原発事故(2011年3月)が発生する前の人口データを用いることには、私も法律論を説く前に、心情的な抵抗を覚えます。仮に、2010年調査の結果に基づいて新しい区割りを画定したとしても、4年後の2020(平成32)年には、次の大規模国勢調査が予定されているわけですから、その結果に基づいて、区割りを再び改定しなければならなくなってしまいます。
 第二に、民進案の「13減」には、滋賀県(現行4→改定3)と沖縄県(現行4→改定3)が含まれていますが、2020(平成32)年の将来見込人口によると、両県は人口が増える可能性が指摘されており、その結果、選挙区の数が増えてしまいます。いったん「3」に減った選挙区の数が、数年後に「4」に増えるという、いわゆる「出戻り」という現象が起きて、有権者が混乱するのではないかという点が指摘されています。
 そこで、考えられるのは、2015(平成27)年簡易国勢調査の結果のデータに基づいて、アダムズ方式を導入するという案です。この場合、「9増15減」という改革を導きます。民進案の問題点を克服しつつ、この通常国会中に成案を得ることを視野に入れて、衆議院では最後の最後まで、自公案の修正を模索すべきです。

 「投票価値の平等」の確認、徹底を

 自公案は、「不断の見直し」と題する検討条項を置いています。「この法律の施行後においても、全国民を代表する国会議員を選出するための望ましい選挙制度の在り方については、民意の集約と反映を基本としその間の適正なバランスに配慮しつつ、公正かつ効果的な代表という目的が実現されるよう、不断の見直しが行われるものとする」という規定です。
 この規定は、選挙制度改革の議論は今後も続けていく、という意思表明ではありますが、「投票価値の平等」の意義を再確認し、徹底していくという決意までは明確に読み取れません。アダムズ方式に拠って、較差を2倍以内に抑えることはできても、最大較差が自動的に1(完全な人口平等)に近づいていくわけではありません。アダムズ方式を維持するのであれば、せめて、5年ごとの国勢調査に基づく区割り改定も含めて、最大較差を2倍未満とするのではなく、1.5倍未満と、さらに厳しい枠をはめることが必要です。人口比例は憲法の要請です。人口を基準に全国を「289等分」する目標をいつまでも見失ってはいけないということです。

選挙区の人口を「日本国民に限る」とした点

 最後に、枝葉末節な論点ではありますが、これまで国勢調査が対象とする人口には、日本国民のほか、外国人居住者も含めてきたところ、自公案は今回新たに、日本国民に限って各選挙区の人口を考えるという立場を採用しています。国民の権利としての一票の価値を考えるならば、国民に限定するのが当然という発想は分からなくもないですが、他の法令との関係を整理する必要が生じます。たとえば、政党助成法7条1項は、政党交付金の総額算定について「毎年分として各政党に対して交付すべき政党交付金の算定の基礎となる政党交付金の総額は、基準日における人口(基準日の直近において官報で公示された国勢調査の結果による確定数をいう。)に250円を乗じて得た額を基準として予算で定める。」と規定しているところ、較差是正の場面では外国人居住者を排し、政党交付金の算定に関しては含めるというのは、単なるご都合主義ではないか、立法理念の上で矛盾が生じます。自公案はこの点も、説明を尽くす必要があります。

通常国会の会期は「300日」とすべき

 本題とは直接関係ありませんが、通常国会の会期を、現行の「150日」(国会法10条本文)から、「300日」へと大幅延長すべきではないか(⇔3年に一度、参議院議員の通常選挙が行われる年を除く)と、いまさらながら感じています。
 いまの通常国会(第190回国会)は、例年になく早く、1月4日に召集されましたが、閣僚数名の言動が物議を醸した挙句、甘利大臣(事務所)の口利き問題が決定的となって、国会の運営は今や、エンスト寸前の車のような状態です。会期末まで間もないにもかかわらず、最高裁の違憲判決(2015年12月16日)を受けての、女性の再婚禁止期間を100日に短縮する法律案(民法改正案)など、絶対必須の案件がまったくの手つかずで、耳目を疑いたくなります。TPP承認議案の審査も、賛否はともかく、議論が煮え切らない感じです。東日本大震災の発生後とは異なり、熊本地震は、国会運営には直接の影響を及ぼしていません。各党の国会対策の拙劣を言う前に、会期制度そのものに手を付けなければならないでしょう。

 

  

※コメントは承認制です。
第93回 自公案“0増6減”は必ず、
4度目の違憲状態判決を招く
」 に3件のコメント

  1. magazine9 より:

    私たちの意思を示す「選挙」。その意思がなるべく正確に反映されるためには、選挙制度の見直しはとても大事なものです。正直、計算方法などとっつきにくい印象があるのですが、議論を深めるためにも私たちも勉強していかなくては…、と思いました。「憲法カフェ」みたいに、「政治」や「選挙」についても気軽に学んで話せる場があるといいですね。

  2. ひつじ より:

    一票の格差が問題視されているが、一票の格差を仮にきちんと是正したとしたら人口の少ない過疎地域・地方都市の議員が少なくなり、今以上に政治に大都市住民の意見ばかりが反映されることになるのではないだろうか

  3. 7.1 より:

     定数削減そのものや小選挙区制を前提にした論議への批判も必要でしょ?党利党略の批判だけでは瑣末で矮小化された話で寂しいなあ。仮に野党案がとおったところで、大勢に影響はないでしょう?
     46年人口0.76億で衆院定数468、14年人口1.25億で衆院定数を470に減らすなんて実に如何わしい話。
     もちろん、定数削減と小選挙区制に賛成でもいいのだけど、それなら、「定数削減批判」批判や「小選挙区制批判」批判は論議を進める上で重要であって、繰り返し語るべき。ネット記事でもあるし、そのくらいは書けるはず。

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南部義典

なんぶ よしのり:1971年岐阜県岐阜市生まれ、京都大学文学部卒業。衆議院議員政策担当秘書、慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)を歴任。専門は、国民投票法制、国会法制、立法過程。国民投票法に関し、衆議院憲法審査会、衆議院及び参議院の日本国憲法に関する調査特別委員会で、参考人、公述人として発言。著書に『[図解]超早わかり 国民投票法入門』(C&R研究所)、『18歳選挙権と市民教育ハンドブック』(共著・開発教育協会)、『動態的憲法研究』(共著・PHPパブリッシング)、『Q&A解説・憲法改正国民投票法』(現代人文社)がある。(2017年1月現在) →Twitter →Facebook

写真:吉崎貴幸

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