立憲政治の道しるべ

憲法によって国家を縛り、その憲法に基づいて政治を行う。
民主主義国家の基盤ともいえるその原則が、近年、大きく揺らぎつつあります。
憲法違反の発言を繰り返す政治家、憲法を無視して暴走する国会…。
「日本の立憲政治は、崩壊の危機にある!」
そう警鐘を鳴らす南部義典さんが、現在進行形のさまざまな具体的事例を、
「憲法」の観点から検証していきます。

“既定方針”報道への違和感

 先週10日から11日にかけて、天皇退位問題に関する政府筋の情報として、①平成31年1月1日より、新しい元号を用いる、②新しい元号は、社会的影響や対応のことを考えて、できるだけ早い時期に決定し、発表する、③天皇は退位の後、上皇の称号は使わないこととし、前天皇、元天皇とする、④皇太子が不在となるなか、秋篠宮殿下を皇太子待遇とする、との方針が、矢継ぎ早に報じられました。天皇退位を、皇室典範(昭和22年1月16日法律第3号)の改正による永続的な制度とするか、特例法の整備による今回(一代)限りの措置とするかという問題についても、政府の有識者会議(天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議)は、後者の特例措置とすることを軸に、来週23日、論点整理を公表する段取りになっています。
 20日に召集される通常国会では、政府が提出する「天皇の退位に関する特別措置法案」は当然、重要法案の一つとなります。しかし、法案を閣議決定する、はるか前であるにもかかわらず、なぜ、その骨格部分が“既定方針”のごとく報道されるのか、私は甚だ疑問に、不思議に思っています。何より当事者である、天皇、皇族の方々は、一連の報道に唖然としていらっしゃるのではないでしょうか。

後手に回りすぎている国会

 天皇退位は、憲法2条の規定(皇位は世襲のものであって、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。)を根拠として、新たな法整備が必要となります。あえて言えば、このルールの決め方こそ肝心、要です。退位のルールづくりは、憲法70年の歴史の中で経験がないわけですから、悪しき先例を残さないよう、国民主権主義、民主主義とうまく整合させていかなければなりません。このルールづくりに最大の責任を負っているのは、言うまでもなく、国民の代表者が集う国会です。
 天皇自ら立法の提案ないし誘導をすることは、憲法4条1項の規定(天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない。)に違反し、許されません。憲法に抵触する問題を発生させないよう、国会が昨年8月に表明された「お気持ち」を上手く忖度し、全会派一致の下で新たな法整備を行うことがまず、必要です。そして最後は、憲法第1条にいう「国民の総意」による立法として、「国民が納得してくれたルールだから、安心して退位できる」と天皇に受けとめていただくプロセスが理想的で、望ましいと、私は考えます。
 この意味で、国会が昨年8月以後、政府の後手に回りすぎていることは大きな問題です。思い返せば、9月26日に臨時国会が召集されたわけですが、与党も野党も、問題の整理と意見の集約を政府に丸投げしてしまい、公式な協議の場を設けることさえ、ずっと怠ってきています。
 国会は本来、天皇退位の法整備を議員立法で行うことを前提に、衆議院でも参議院でも、内閣委員会と憲法審査会による連合審査会を設けるべきでした。その連合審査会に、宮内庁の担当官職はもちろん、各界の有識者を招致して、質疑を繰り返し、論点をあぶり出しつつ、静かな政治環境のなかで知恵を出し合い、意見を一つにまとめていく作業が必要だったはずです(政府の有識者会議が重ねてきた議論は本来、国会側が預かるべき案件でした)。いまのままでは、安倍内閣の手による法整備として、政治色が濃く、将来にも付いて回ってしまいます。それに、国会以外の機関が参与することなく、国会が法律の制定、改正又は廃止を行うという原則(国会単独立法の原則といいます)を自損し続けていることに、国会はもっと危機感を抱くべきです。国会が合意形成の中心にあってこそ、天皇退位立法の正統な決め方(=政治主導)だといえるのです。
 しかし、内閣委員会は、臨時国会の会期後半では、日程に余裕があるからといって、カジノを含むIR法案のスピード審査にうつつを抜かしていました。また、憲法審査会は、憲法に密接に関連する法制度の調査を行う権限が法律(国会法)で認められているにもかかわらず、天皇退位という重大な憲法問題を目の前にしながら、議題に上げることさえしない(できない)という、何とも情けない有り様でした。

国会は、先手に先手を重ねるべき

 16日午後、衆議院と参議院の議長、副議長が集まり、天皇退位立法のあり方に関して協議を行いました。協議は非公開で、報道の内容以上のことは分かりませんが、今後の日程等を確認しつつ、あす19日、与党、野党の各会派から、議論の進め方について意見を聴くことでまとまったようです。しかし、これでは、天皇退位立法の主導権を国会に取り戻すことにはなりません。むしろ、国会でも一応議論しますという「アリバイ作り」の第一歩、時間潰しの始まりに他なりません。
 内閣委員会と憲法審査会による連合審査会の設置は、意見集約する枠組みの一例にすぎませんが、通常国会からでも間に合います。会期は150日間と長いので(会期は一回、延長することができます)、議論を積み重ねる時間は十分に確保できます。しかも、衆議院、参議院にそれぞれ設けられれば、カバーできる論点もかなり広がり、深化するでしょう。あとは、国会(与党、野党各会派)の矜持、やる気と責任感の問題です。
 「お気持ち表明」はすでに、憲法的意味を持つ先例になっています。今後、皇位の継承が続いていき、同じような「お気持ち表明」がなされることも否定できません。
 そのとき、国会が相変わらず、政府に下駄を預けるようでは、天皇制を民主的に維持することさえ難しくなる事態(⇔具体例を示すことは憚れますが…)を招きかねません。立憲政治を進める上で、天皇制は最も扱いづらく、神経を使う問題です。国会はもっと、先手に先手を重ねて、国民に対し諸課題を提起すべきです。

 恐縮ですが、新刊のお知らせです。何卒よろしくお願いいたします。

『[図解] 超早わかり 国民投票法入門』
南部義典(著)
2017.1.26 発売
B6判ソフトカバー・215頁
1,630円+税
C&R研究所
ISBN 978-4863542129

 

  

※コメントは承認制です。
第110回疑問だらけの、天皇退位立法の“決め方”」 に2件のコメント

  1. magazine9 より:

    目先の利益(になりそうな)ことは、びっくりするくらいのスピードで国会で取り上げられるのに、それに比べると…。市民の間でも、もっとオープンに議論が交わされてもいいテーマではないかと思います。そう思うと、国会が政府に下駄を預けるのと同じく、私たちも下駄を預けてしまっているのかも…と反省しました。

  2. 東條健司 より:

    私は新元号の必要性を感じません。
    年賀状も西暦だし、日常に元号を使う事はありません。
    ただ役所の言葉だけは、無理をして、西暦から翻訳をして、それも明治、大正、昭和、平成ごとに違えて約して述べるのはもう御免です。役所も西暦記述にすればどんなに良いでしょう。この機会に年号を西暦に戻しましょう。

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南部義典

なんぶ よしのり:1971年岐阜県岐阜市生まれ、京都大学文学部卒業。衆議院議員政策担当秘書、慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)を歴任。専門は、国民投票法制、国会法制、立法過程。国民投票法に関し、衆議院憲法審査会、衆議院及び参議院の日本国憲法に関する調査特別委員会で、参考人、公述人として発言。著書に『[図解]超早わかり 国民投票法入門』(C&R研究所)、『18歳選挙権と市民教育ハンドブック』(共著・開発教育協会)、『動態的憲法研究』(共著・PHPパブリッシング)、『Q&A解説・憲法改正国民投票法』(現代人文社)がある。(2017年1月現在) →Twitter →Facebook

写真:吉崎貴幸

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