立憲政治の道しるべ

憲法によって国家を縛り、その憲法に基づいて政治を行う。
民主主義国家の基盤ともいえるその原則が、近年、大きく揺らぎつつあります。
憲法違反の発言を繰り返す政治家、憲法を無視して暴走する国会…。
「日本の立憲政治は、崩壊の危機にある!」
そう警鐘を鳴らす南部義典さんが、現在進行形のさまざまな具体的事例を、
「憲法」の観点から検証していきます。

慣例破りが続く、衆議院法務委員会

 衆議院法務委員会(鈴木淳司委員長・自民)では、共謀罪法案の審議が進められています。委員会の定例日は、(火)(水)および(金)の週3日です。4月14日(金)は審議の入り口として、金田法務大臣による共謀罪法案の趣旨説明の聴取が行われました。19日(水)、21日(金)の両日は、政府に対する質疑を、25日(火)は、参考人に対する質疑を、それぞれ行ったところです。きょう26日(水)は、政府に対する質疑が行われる予定でしたが、きのうの今村復興相の失言、辞任の影響が及んで、委員会は流会になりました。
 共謀罪法案の内容上の問題点は、すでに多くの論評があり、私が繰り返す余地はありません。しかし、国会の組織、運営をそれなりに長く観察してきた私から見ると、連日の委員会運営は、選ぶべき言葉が見つからないほど、異常、異様なやり方が続いています。「横暴」の一言では言い尽くせないほどの、「無法ぶり」を看過することができません。衆議院の“慣例破り”が慣例化しているかのごとく、常軌を逸した委員会運営(鈴木委員長の采配)の連続です。

第一の慣例破り(4月19日)

 第一の慣例破りは、委員会の場に政府参考人(局長、官房長、部長、審議官などの幹部官僚)を出頭させる要求の議決を、全会一致(異議なし採決)によることなく、通常の起立採決(多数決)に従って行ったことです。
 政府参考人の出頭要求は元々、全会一致によることが慣例です。委員長が「政府参考人として、○○省○○君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、ご異議ありませんか?」と発言し、委員席から「異議なし」との発言が飛び、委員長が「ご異議なしと認めます。よって、このように決しました」と発言し、その後の議事を進めていくのが、日常の委員会光景です。委員の中で異議がないことを確認する採決方法で、「異議なし採決」と言うことがあります。法務委員会だけではなく、予算委員会、厚生労働委員会、憲法審査会など、すべての委員会、審査会で踏襲されてきた議決方法です。
 しかし、19日の法務委員会では、鈴木委員長は「政府参考人として、法務省刑事局長・林真琴君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、これに賛成する諸君の起立を求めます」と起立採決を行い、野党(民進、共産)が抗議するなか、自民、公明、維新の賛成多数によって可決されるという事態となりました。政府参考人の出頭要求を、委員会の起立採決によるという、国会制度史上、初めてとなる議決を行ったのです。
 この点、何が問題になるかというと、野党側が委員会への出頭を求めていない政府参考人を、与党側の意思だけで一方的に出頭させることができることになり、とくに野党委員の質疑の最中、委員長采配によって、大臣らに代わって法案審議で答弁させることが可能となってしまうことです。文末に、衆議院規則の条文を参考までに載せておきますが、政府参考人の出頭は、「細目的、技術的事項」に関し、「必要があると認めるとき」に、限定的、例外的に認められるにすぎません。共謀罪法案でいえば、条文の解釈、運用に関わるものなど細かな論点について質疑を行うときには、政府参考人に答弁させてもよいわけですが、19日のような運用を認めては、政府参考人の出頭を欲せず、大臣らとの政治家どうしの討議を試みる野党側の質疑者も、政府参考人の「なり代わり答弁」に付き合わされることになり、結果として、審議の形骸化をもたらしてしまいます。この先例により、失うものは大きいと言わざるを得ません。

第二の慣例破り(4月21日)

 私は、第一の慣例破りがあった19日以降、法務委員会が開かれるつど、林刑事局長の出頭要求の議決が繰り返されていくのではないかと予想しました。そしてその予想は、一層タチが悪い方向で、第二の慣例破りとつながっていったのでした。
 第二の慣例破りは、委員会の場に政府参考人を出頭させることを、委員会開催のつどではなく、法案審議が行われている期間中ずっと可能とする、“常時招致”の議決を行ったことです。
 政府参考人の出頭要求は、その委員会が行われる日ごとに、その都度行われるのが慣例です。政府参考人を呼ぶ場合、委員長は、「本案審査のため、本日、政府参考人として、○○省○○局長○○君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか」と発言し、与野党委員の異議がないことを確認してから議事に入っていきます。結果として、連日招致される政府参考人も出てくるわけですが、それでも期間を括るようなやり方を採らず、一日(一回)ずつの出頭要求が通常なのです。
 しかし、21日の法務委員会では、鈴木委員長は「本案審査中、政府参考人として法務省刑事局長林真琴君の出席を求め、説明を聴取致したいと存じますが、これに賛成の諸君の起立を求めます」と発言し、採決に入ってしまいました。こちらも、野党(民進、共産)が抗議するなか、自民、公明、維新の賛成多数によって可決されてしまったのです。
 「本案審査のため、本日」と「本案審査中」の違いは、日本語の意味として、すぐにご理解いただけることと思います。後者によれば「審査中」、つまり法務委員会で共謀罪法案の審議を行っている間はずっと、林刑事局長は陪席していい、ということになってしまいます。第一の慣例破りで危惧されることが、まさに常態化してしまうわけです。さらに言えば、鈴木委員長は、林刑事局長を除く政府参考人の出頭要求に関しては、「本案審査のため、本日、政府参考人として、警察庁長官官房審議官○○○○君…の出席を求め、説明を聴取致したいと存じますが、ご異議ありませんか」という具合に、慣例に従った議決をやってのけました。いとも簡単に、ダブルスタンダードを持ち込んだわけです。

(参考記事)毎日新聞 2017年4月21日 21時48分配信
「共謀罪:法務省局長 法務委に常時招致 与党異例の議決」

これから予想される“慣例破り”

 一本の法律案をめぐって、しかもこれだけ短期間に慣例破りが繰り返されるというのは、まさに前代未聞です。以後、共謀罪法案の質疑が終局し、採決が行われるその瞬間まで、慣例破りが続いていくことは想像に難くありません。
 すでに破られている慣例と言えなくもありませんが、重要法案と位置付けている共謀罪法案について、与党側は早々に質疑を打ち切って、採決を行い、参議院に送るという乱暴な挙行に出るかもしれません。
 安倍内閣は、この国会(第193回通常国会)に64本の法律案を提出しています。共謀罪法案はこのうち、とくに内容が重要で、委員会審議においては、必ず一度、内閣総理大臣が出席し、答弁しなければならない重要法案の一つと位置付けられ、相当十分な審議時間を確保することが要請されています。それにもかかわらず、ニュースでちらほら伝えられていますが、与党側は5月の連休明けにも採決する意向であるようです。かくも安易な“出口戦略”が出てくる背景には、その後穏便に、天皇退位特例法案の審議に入りたいという政府・与党の思惑がうかがえますが、同法案を、各委員会の運営を安定化させる手段として使うことは、国民感情からしても許されないでしょう。
 今後、共謀罪法案の審議を中断し、性犯罪処罰強化法案の審議を優先させるなど、野党は筋論を堂々と通してもらいたいものです。参議院法務委員会では、120年ぶりの大改正となる民法改正案の審議が19日に始まったばかりです。民法改正、共謀罪、刑法改正の3本の法律案を、6月18日の会期末までに審議し尽くせるのか、カレンダーを見ていても大いに疑問が湧いてきます。

国会改革の視点を忘れないこと

 昨年秋の臨時国会では、カジノを含むIR法案、TPP承認関連議案、国民年金法改正案の審議、採決で与野党対立が激化し、数の暴力を背景にした委員会運営が深刻化したことから、大島理森衆議院議長が危機感を抱き、2016年12月22日に「議長所感」を表明し、各党各会派に対し自律的解決を促したところです。間違いなく、国会改革の端緒となったエピソードです。
 現在、通常国会が開会中ですが、言うまでもなく「議長所感」後初めて召集された国会です。与野党が真摯に課題に向き合い、与野党の交替可能性を前提とした、改革の一里塚を築かなければならないタイミングであるにもかかわらず、半年も経たないうちに、その機運が見失われているのは大変残念なことです(大島議長のリーダーシップの欠如と、簡単には片づけられません)。
 究極の慣例破りは、野党側に一切質疑時間を与えず、与党側だけで粛々と質疑を進行することだと言えるでしょう。自民党もまさか、立憲民主主義の根底を覆すような、そんな腹黒い方針を固めているとは考えられませんが、この間の慣例破りも、いったいどこまで突き進んでいくのか、歯止めが利いていないことも確かです。もし、自民党が野党に転落したときには、すでに破られた慣例の下で、逆の立場に置かれ、相当な苦労を体感するはずですが、そういったことにならないよう、道を誤る、アンフェアなルールを敷こうとする政党に対しては、野党はもちろん、私たち国民が批判の声を厳しく浴びせる必要があります。衆議院はこのままでは、機能不全、統制不能の状態に陥ってしまいます。「国民こそ、真の国会改革の担い手である」という確認行為が、改めて必要ではないかと考える次第です。

<参照条文>
 衆議院規則45条の2 委員会が審査又は調査を行うときは、政府に対する委員の質疑は、国務大臣又は内閣官房副長官、副大臣若しくは大臣政務官に対して行う。
 同45条の3 委員会は、前条の規定にかかわらず、行政に関する細目的又は技術的事項について審査又は調査を行う場合において、必要があると認めるときは、政府参考人の出頭を求め、その説明を聴く。

 『通販生活2017夏号』(カタログハウス)に、私のインタビューが掲載されました。ぜひご高覧ください。

 

  

※コメントは承認制です。
第117回“慣例破り”が慣例化する、共謀罪法案の横暴審議」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    昨年12月に、衆議院議会制度協議会で示された、大島理森議長の所感については、このコラムの第109回でも紹介しています。「国民の目線を十分に踏まえる」「国民の意見が十分に審議に反映されるよう」など、書かれているのは、ごく当たり前のこと。しかし、それが今おろそかにされているのです。このままだと、後戻りできない事態が起きるのではないか、そんな不安が拭えません。

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南部義典

なんぶ よしのり:1971年岐阜県岐阜市生まれ、京都大学文学部卒業。衆議院議員政策担当秘書、慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)を歴任。専門は、国民投票法制、国会法制、立法過程。国民投票法に関し、衆議院憲法審査会、衆議院及び参議院の日本国憲法に関する調査特別委員会で、参考人、公述人として発言。著書に『[図解]超早わかり 国民投票法入門』(C&R研究所)、『18歳選挙権と市民教育ハンドブック』(共著・開発教育協会)、『動態的憲法研究』(共著・PHPパブリッシング)、『Q&A解説・憲法改正国民投票法』(現代人文社)がある。(2017年1月現在) →Twitter →Facebook

写真:吉崎貴幸

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