立憲政治の道しるべ

憲法によって国家を縛り、その憲法に基づいて政治を行う。
民主主義国家の基盤ともいえるその原則が、近年、大きく揺らぎつつあります。
憲法違反の発言を繰り返す政治家、憲法を無視して暴走する国会…。
「日本の立憲政治は、崩壊の危機にある!」
そう警鐘を鳴らす南部義典さんが、現在進行形のさまざまな具体的事例を、
「憲法」の観点から検証していきます。

国会議員が内容を理解し尽くせないおそれ

 10月25日、特定秘密の保護に関する法律案(第185回国会閣法第9号)が閣議決定されました。
 法律案は9月3日から2週間、パブリックコメントに付された後、自民党と公明党の間で、原案の修正をめぐってボールを何度も投げ合って、現在の条文に調整されました。そして、10月15日、臨時国会が召集され、最終的な党内調整を行い、法律案の閣議決定に至ったという経緯をたどっています。

 私は、参院選後、特定秘密保護法制をめぐる政治の動きを見て、直接、立案を担当している議員、政策決定に関与する議員はともかく、他の与党議員はほとんど法案の内容、問題点を十分認識しないまま(侃々諤々の議論がないまま)、修正協議の経緯と内容を知らないまま、党内了承に至ってしまったのではないか、という懸念をずっと抱いてきました。原案がパブコメに付され、最終的に閣議決定に至るまで、重要なプロセスの大半が国会閉会中に済まされてしまったからです。与党内調整のプロセスは、野党議員には判らないのは当然のことですが、与党議員にとってもいつの間にか決まってしまっていた(修正が進んでしまっていた)、というのが実感ではないでしょうか。党内了承の最後の手続である自民党総務会(10月22日)の席上で、村上誠一郎・元行革担当相が退席をしたのも、「異例の抗議」とはいえないでしょう。

 また、9月頃まで公明党の幹部は、「臨時国会の冒頭で特定秘密保護法案を提出する可能性はない」とまで断言していました。日程上、国家安全保障会議(日本版NSC)設置法案の審議で精いっぱいで、プラスアルファの法案審議を行う日程的な余裕がないのではないかとも言われていました。法の制定にはかなり消極的な方針だったはずが、徐々に懐柔され、現在のような流れになった次第です。もし、特定秘密保護法案が連立与党の議員立法で発議されるのであれば、自民党の法案提出者、公明党の法案提出者に対する質疑が可能で、なぜそのような修正を行ったのか等、事後的に検証することができます。しかし実際、衆議院の特別委員会で法案審査が始まると、答弁席に座るのは、法案を所管する森まさこ担当相、政府参考人(官僚)だけです。修正協議の内容・意義が政府内でどれだけ反映されることになるのか、正面から検証することができません。

政令事項だらけ

 内容的な問題点については、多くの先行論評がありますのでそちらに譲りますが、私が法律案の条文を見た限り、政令事項がやたらと多いという実感を抱きました。「政令で定めるところにより…」という文が多用され、「政令」という語が法文全体で30回以上出てきます。
 確かに、法律の規定を実施するため、又は法律の委任に基づいて、「政令」を制定することは、憲法73条6号に基づく内閣の権限です。内閣が制定する「命令」の一種で、執行政令、委任政令などと呼ばれます。法律にすべてのルールを書き込みきれるわけではないので、その必要性を全面否定するわけではありません。
 しかし、政令(命令)は、いつ、どのような内容で制定(公布)されるのか、国民も、国会議員も、外側からはまったく分かりません。よく、法律案に内容が伴っていない場合、「骨抜きの法案」というような批判がされることがありますが、法律案の条文の中に政令事項が多く潜んでいるということは、その逆で、「肉付けができていない法案」ということになります。肝心の内容(実質部分)が政令に委ねられていると、法律案の条文だけを見ても、中身はよく分からないのです(かつて私は、同様の趣旨で、法律事項をやたらと並べる自民党憲法改正草案を批判したことがあります。⇒第8回「憲法改正を選挙の争点にする愚」
 したがって、多くの国会議員は、特定秘密保護法案の内容を理解し尽くせないのではないか、理解し尽くせないまま法案採決に臨むことになるのではないでしょうか。立法府に籍を置く者としての矜持が問われると思います。

出口のないトンネルは認められない

 情報がトンネルに入ったとたん、それは「秘密(情報)」ということになります。もし、それが出口のないトンネルだとしたら、「永久秘密」になってしまいます。ずっと秘密のまま、出口のないトンネルの内部で、管理下におかれることもあれば、いつの時点か、トンネル内部の、外側から分からない地点で廃棄され、埋められてしまうということもあるでしょう。

 現在、国には省庁ごとに、長さ、高さの構造が違うトンネルが存在していると考えていただいて構いません。時々の都合と裁量で、トンネルの長さが変わることもあります。過去、トンネルをうまく管理できず、しばしば情報が外に抜けることもあったので、トンネルに入る情報(秘密)について、“特別扱い”する秘密の概念を設定し、政府共通の基準で定めようというのが今回のねらいです。

 出口のないトンネルは、まさに闇の世界です。“一般扱い”“特別扱い”いずれの秘密情報も、民主政治を進める中での国民共有の財産です。情報財産の価値を享受できないような社会では、有意な政治選択はできません。

 トンネルの途中でも秘密を引き出すことができること、トンネルには必ず出口を設け最終的には出られるようにすることが、制度設計上の最低基準であることを再確認しなければなりません。また、トンネル内部で、秘密情報の管理にあたる個人(国家公務員)の保護も必要な観点です。

情報公開法、公文書管理法、公益通報者保護法の改正が優先されるべき

 トンネルの途中でも秘密を引き出すことができるよう、情報公開法の改正が必要です。現在、民主党が単独で衆議院に提出した改正案があります。情報公開に係る不開示決定のみなし規定に基づき、速やかに情報公開訴訟に移行できるような当事者の利益を図ること、そして裁判所が行政機関に対し、ヴォーン・インデックス(文書記録情報を分類整理した資料)の提出を求め、証拠調べ段階におけるインカメラ審理を導入することが急務です。

 トンネルには必ず出口を設けるべく、公文書管理法の改正が必要です。一定の期間が経過した後は、公開の対象とする(特定秘密の有効期間内であれば、期限の到来をもって自動的に指定解除される)というスキームです。先日の代表質問で、安倍首相はリップサービス的に法改正の検討を示唆しましたが、この点の方針も明確にする必要があります。

 今回、適性評価を受けた国家公務員等が特定秘密を扱うことが許されるということになっていますが、当該公務員が、指定手続上の瑕疵・不当を知り、違法な特定秘密、疑似的な特定秘密であることをどこかの機関に「通報」しようとしても、法制度上、その通報窓口が想定されていません。想定されていないのは、特定秘密の指定の手続に瑕疵はない、特定秘密を扱う公務員は情報を漏らしてはならないという前提条件があるからです。何が特定秘密であるかを漏えいすることがそもそも許されない(=漏えいすれば刑事制裁のおそれがあり、懲戒処分だけではすみません)となると、このようなケースが闇に放置されたまま幕引きということになりかねません。良心の呵責に苛まれる国家公務員を救済するため、公益通報者保護法の改正が必要です(もっとも、通報窓口をどこに置くべきかは、慎重な検討を要します)。

 11月、特定秘密保護法案の審議が佳境に入っていきます。内閣全体を覆う、巨大な、出口なしのトンネルが着工されてしまうのではないか、多くの国民が不安を覚えています。両院のねじれ解消を受けて、拙速、手抜きの法案審議にならないよう、主権者国民としてしっかり監視することが必要です。

 

  

※コメントは承認制です。
第31回 特定秘密保護法制は、やはり出口のないトンネルか?」 に2件のコメント

  1. magazine9 より:

    今朝の東京新聞に、憲法や刑法の研究者ら265人が、秘密保護法案に反対する声明を出した、との報道がありました(こちらで読めます)。こんな異例の声明が出されてしまうほど、いろんなところに大きな影響を及ぼす法律だということだと思うのですが、その内容を「国会議員が理解しきれていない」のでは、という南部さんの指摘、あまりにリアルで怖い。仮に法律そのものは成立してしまったとしても、それを「出口のないトンネル」にしないために、他の法律による「出口」の確保にも、厳しく目を光らせておく必要がありそうです。

  2. いぶし丼 より:

    暗闇は人を不安にさせる。
    秘密とは情報の暗闇だ。

    ある記事を見て俺の背筋は凍り付いた。
    タレントが特定秘密保護法に関する懸念を自分のブログに書いただけで国家機関に背後関係を調査されたというのだ。
    「法案にいろんな団体が反対しており、その中には監視対象の団体もある。心配だから念のために調べさせて貰った」というのが言い分だそうだ。
    本当のところは分からないが、その記事を見た者は例外なく心に闇を持ったはずだ。
    「これは本当の事なのか?じゃあ俺の言葉は大丈夫なのか?」
    「国家機関に調査されるほど一体どんな悪い事をしたのか?」
    もし俺がそのタレントと同じことをされたら、きっと心に消えない傷を負うだろう。もし俺の家族に疑いの目が向けられたら、きっと生涯人の世を恨むだろう。
    不安の芽は治安を悪化させる。治安を維持することが目的ならばこれほどの失策はない。

    だがたまたま見たニュースが不安を少しだけ解消してくれた。
    「首相の警護車が立て続けに接触事故を起こした」
    ただそれだけのものだ。勿論純粋な事故だった。
    それでも疑心暗鬼に陥った俺が「ああ、きっと治安維持の上では大変な事もたくさんあるんだな」と思うには十分な情報量だ。
    同じ記事を読んだ人々の心の闇が少しでも晴れればと思う。

    憲法を少しでも知っているなら日本でテロじみた行為はしない。
    政策に不満があるなら言論や行動で示すことが出来るからだ。
    憲法が表現の自由を奪わないのはそのためだ。
    逆に言うなら表現の自由を奪えば確実に治安は悪くなる。

    特定秘密保護法だって同じことだ。
    人が闇を怖れて疑心暗鬼に陥り指一本も動かせなくなってしまえば社会に未来はないのだし、それを打破するために狂暴な力が必要になるなら犠牲になるのはやはり「人」だ。
    断言しても良いが、この法案は「孫の世代にも胸を張れる法律」にはなり得ない。

    日本は恐らく世界で最も秘密の少ない国だろう。
    日本にはこれからもずっと世界で最もあかりに満ちた国でいてほしい。
    闇を持たない安全を常に目指してほしい。
    他国の秘密を受け取らない覚悟をしてほしい。
    何も秘密がなければスパイなど存在価値がないのだ。

    隠したい秘密とは弱味の事だろう?誰にも弱味を握られたくないなら、はじめから秘密に値札をつけておけばいい。

    日本に秘密はありません。
    国家情報はどれもお金で買えます。
    ○○の防犯情報は××円です。これは老朽化した防犯体制を刷新するのに十分な金額です。
    お金で買えないのは国民個人の情報だけです。

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南部義典

なんぶ よしのり:1971年岐阜県岐阜市生まれ、京都大学文学部卒業。衆議院議員政策担当秘書、慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)を歴任。専門は、国民投票法制、国会法制、立法過程。国民投票法に関し、衆議院憲法審査会、衆議院及び参議院の日本国憲法に関する調査特別委員会で、参考人、公述人として発言。著書に『[図解]超早わかり 国民投票法入門』(C&R研究所)、『18歳選挙権と市民教育ハンドブック』(共著・開発教育協会)、『動態的憲法研究』(共著・PHPパブリッシング)、『Q&A解説・憲法改正国民投票法』(現代人文社)がある。(2017年1月現在) →Twitter →Facebook

写真:吉崎貴幸

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