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ドームを青空に開放せよ

 東京ドームでの試合終了後、大勢のファンがぎゅうぎゅう詰めになりながら球場の出口に近づくと、強い突風に晒される。気圧を外より高くして屋根を膨らませているから、内部の空気がそこから一気に外へ出ようとするのだろう。ドーム内には隅々まで空調が行き届いている。初めて「ビッグエッグ」に入ったとき、空気が軽い感じがして、「なるほどここならばホームランがよく出るはずだ」と思ったものだ。

 空調の稼働に加えてドームは昼間も照明を使う。そのために必要な電力は5万~6万キロワット時。東京電力によると、標準家庭の6千世帯分の使用量に相当するという。東日本大震災の被災者の方々、そして福島原子力発電所の事故により首都圏で計画停電が実施されている折、日本プロ野球機構(NPB)のセントラル・リーグの開幕を遅らせるべき(同リーグの開幕を予定の3月25日からパシフィック・リーグと同様、4月12日に延期する)ではないか――NPBの選手会会長である阪神タイガース・新井貴浩選手の主張したことは真っ当であった。しかし、選手会の要望を受けたセ・リーグ・コミッショナー、新(あたらし)理事長の当初の回答は「予定通り」であった。

 この発表の前日の3月16日、読売ジャイアンツの激励会が東京で開かれ、渡邉恒雄・球団会長が有力財界人ら約200人の出席者を前に、セ・リーグは予定通り3月25日に開幕すべきと述べた。野球人は一生懸命野球をやって、被災者の方々に元気を与えるべきだ、というのである。選手会の申し入れについては、「馬鹿馬鹿しい」と一蹴した。

 もし私が被災者の立場だったら、震災からわずか2週間後、ドーム球場の煌々と光るライトの下でプロ野球が開催されたことで、元気をもらえるだろうか? 前選手会会長であるヤクルト・スワローズの宮本慎也選手は「野球で力を、と今言うのは、思い上がりだと思う。時期がある」と言った。宮本選手に100%同意する。

 こうした選手の意見に対し、渡邉氏は「たかが選手が(オーナーに口を出すな)」と思っているかもしれない。2004年、近鉄バファローズのオリックス・ブルーウェーブとの合併に端を発した1リーグ化構想に選手会が強く反発したとき、同氏はこう吐き捨てたのだ。

 今回の「馬鹿馬鹿しい」発言には、選手に対する蔑みだけでなく、「開幕すれば客は喜んで集まってくる」という高見に立った姿勢も感じられる。しかし、選手を、そしてファンを甘く見てはいけない。2004年に選手会は、当時の古田敦也選手会長の下、プロ野球史上初のストライキを打ち、ファンの多くはそれを支持した。野球ファンは、開幕を予定通りにしたいセ・リーグ球団オーナーがどこを向いているのか、延期を望む選手がどこを向いているのかをしっかり見ている。

 その後、文部科学省から東京電力、東北電力管内でのナイター試合の開催自粛などの要請があり、セ・リーグは開幕を4日遅れの3月29日に変更。そして開幕から4月3日までは、東京電力管内で予定していたナイター全6試合をデーゲームに変更すると発表した。

 この判断のタイミングはどうなのだろうか? これでは「行政から言われたから、仕方なしに4日延ばし、ナイターもやめた」との印象を否めないからだ。本来であれば、NPBの総意としてセパ両リーグを同時開幕にすることが被災者へのメッセージとなるはずなのに。

 最終決断を下すべきコミッショナーの加藤良三氏は「自分は判断する立場にない」と言った。だとすればコミッショナーの職務とは何なのか? 球団オーナーたちの意向に従うために用意された天下りポストといわれても仕方がないのではないか?

 今回も2004年の時と同様、選手会のがんばりに期待するしかないが、これ機にぜひNPBの球場をすべて、空調設備のいらない、空に開かれたフィールドにしてほしい。

 野球は、各球場とも広さが違うアバウトな環境で行うスポーツである。箱庭のようなドームのなかで自然のいたずらのないプレーは、野球にはふさわしくないのではないか。

 ただ、セ・リーグの「電力の節約のため今季のレギュラーシーズンは延長戦を行わず、9回打ち切りにする」という判断はいいことだと思う。野球の試合時間は長すぎることは以前のコラムで書いた。終盤に入っての細かい継投は、監督の手腕の見せ所ともいえるだろうが、私にはときに選手が監督の駒のように見えてしまい、野球のもつ大らかさが削がれてしまうように思えるのである。
 無駄な電力を使わない、開放的な球場でスピーディな試合を展開する。プロ野球が今回の大震災を機に変わったことを多くのファンに示せたとき、被災者の方々に元気を与えられると私は思う。

(芳地隆之)

 

  

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