マガ9対談

taidan130220


解釈改憲が重ねられ、9条を骨抜きにする法律の制定を国会の多数派が目指す…。憲法改正は主権者である国民が「国民投票」で決める、そう信じてこれまで来ましたが、それさえも危うい状況になってきました。
「9条」は政治問題だから、そこには与したくないという声も巷にはあるようですが、憲法をどうするかは私たちの問題。ましてや日本国憲法の理念の根幹である「平和主義」に関わる大テーマです。これを敬遠するのではなく、当たり前にみんなが話し、自分の意見を持ち、言い合える社会を目指したいと思います。ということで今回のマガ9対談は、イラク派兵差止訴訟の川口創弁護士と、防衛省と自衛隊の活動に詳しい東京新聞論説委員の半田滋さんに、憲法9条と安全保障をとりまく現状について、お話しいただきました。

川口 創(かわぐち・はじめ)1972年埼玉県生まれ。2004年2月にイラク派兵差止訴訟を提訴。2008年4月17日に、名古屋高裁において、「航空自衛隊のイラクでの活動は憲法9条1項に違反」との画期的違憲判決を得る。2006年1月『季刊刑事弁護』誌上において、第3回刑事弁護最優秀新人賞受賞。現在は「一人一票実現訴訟」にも積極的に参加。公式HP、ツイッターでも日々発信中。 著書に『「自衛隊のイラク派兵差止訴訟」判決文を読む』(大塚英志との共著・角川グループパブリッシング)がある。マガジン9では、<川口創弁護士の「憲法はこう使え!」>を連載中。

半田 滋(はんだ・しげる)1955年栃木県生まれ。東京新聞論説委員兼編集委員。1993年、防衛庁防衛研究所特別課程修了。1992年より防衛庁(省)取材を担当。米国、ロシア、韓国、カンボジア、イラクなど自衛隊の活動にまつわる海外取材の経験も豊富。2007年、東京新聞・中日新聞連載の「新防人考」で第13回平和・協同ジャーナリスト基金賞(大賞)を受賞。著書に『自衛隊VS.北朝鮮』(新潮新書)、『闘えない軍隊~ 肥大化する自衛隊の苦悶』(講談社+α新書)、『「戦地派遣」 変わる自衛隊』(岩波新書)=2009年度日本ジャーナリスト会議(JCJ)賞受賞、『ドキュメント 防衛融解 指針なき日本の安全保障』(旬報社)などがある。

●駆けつけ警護は、9条が禁じている海外での
武力行使にあたる

編集部
 前回(その1)では、集団的自衛権の4類型のうち、1)と2)は、ありえもしないシチュエーションを作り出し世論をミスリードするような、「悪意」のある設問だとの説明がありましたが、3)と4)については、どう考えたら良いでしょうか?

4類型
 1)公海上での米艦艇への攻撃への応戦
 2)米国に向かう弾道ミサイルの迎撃
 3)国際平和活動をともにする他国部隊への「駆けつけ警護」
 4)国際平和活動に参加する他国への後方支援

半田
 先日出された、安倍首相の私的諮問機関である「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(座長・柳井俊二元駐米大使、以下安保法制懇)の報告書によると、3番目の国際平和活動での「駆けつけ警護」については、自衛隊がPKOで活動している間、他国の軍隊がやられた場合に出向いて、他国の軍隊と共同で警備・応戦する行為は、憲法9条で禁止されない、とするべきだとしています。
 「駆けつけ警護」という言葉は、2004年自衛隊のイラク派遣第一次復興業務支援隊長を務め、現在自民党議員であるヒゲの隊長こと、佐藤正久氏が2007年マスコミに答えた「もしオランダ軍が攻撃を受ければ、『情報収集の名目で現場に駆けつけ、あえて巻き込まれる』という状況を作り出すことで、憲法に違反しない形で警護するつもりだった」との発言が話題になり、広まったものです。(*1)
 自民党政権の時だけではなく民主党政権の時にも、PKOに従事中の自衛隊が、宿営地外で襲われた国際機関職員らを助けに行く「駆けつけ警護」を認めるPKO協力法改正案について、検討していましたけど、結局最後まで国会には出せませんでした。憲法9条が禁じる海外での武力行使にあたる恐れがあるということで、内閣法制局が抵抗をし、法案が通らなかったという経緯があります。

*1)現在の駆けつけ警護に関する政府見解については、次の答弁がある。→他国の軍隊と共同で警備・応戦する行為について、イラク特措法は規定していない。そのような行為は「武力の行使にあたり日本国憲法第9条違反」とされる(2008年10月28日、参議院外交防衛委員会にて河村建夫官房長官)。

川口
 今、自衛隊が海外派遣されても、駆けつけ警護はできないわけですね。
 海外に行くと武器使用については、警察よりも活動が規制されると。そういう意味じゃ9条の縛りが今は働いているわけですね。それを取っ払って安全確保活動と警護活動の名の下に、武器の使用も原則OKにする、イラクでアメリカやイギリス、オランダが行ったことを、日本の自衛隊もできるようにするというのが、国家安全保障基本法案であり、国際平和協力法案ということですね。武器使用とぼかしていますが、これはもう明確な武力行使です。

●領土問題と集団的自衛権行使の容認

編集部
 しかしなぜ安倍政権は、これほどまでに集団的自衛権の行使容認や海外での自衛隊の武器使用について、こだわっているんでしょうか? まさか本当に戦争をしたいと思ってはいないでしょう。

半田
 今でこそアメリカは、尖閣問題も日米安保条約の適用範囲だと明言しているけれど、去年の暮れになるまではしばらく、くすぶっているようなところがありましたよ。安倍政権は、領土問題を解決するためにぜひともアメリカに協力して欲しいと思っていることは間違いなくて、そのためにアメリカが望むことをこちらもギブ・アンド・テイクで出していく必要があるということを考えているんでしょう。つまり、尖閣は日本の主権として守るんだけど、アメリカに応援してもらうための取引材料として、アメリカが期待するようなものを差し出して行くと。それが集団的自衛権の行使であると。

川口
 2004年当時のイラク派遣が現実化するときの議論もそのような構図でした。派遣のための理屈は二つあって、一つは北朝鮮脅威論。あと日本にはエネルギー資源がないから、イラクの石油を守ることが国益だということ。当時も今も、同じですね。

編集部
 この頃から「国益」という言葉を、政治家が頻繁に使うようになった気がします。そもそも自国の利益のために自衛隊を出すということが、憲法前文に違反しているのでは、という議論もありました。

●「基盤的防衛力」から「動的防衛力」へと舵を切った民主党

半田
 余談かもしれませんが、かつて自民党は、これほどタカ派ではなかったでしょう? 間に民主党政権が挟まったことによって、タカ派色が強まったとみています。民主党は自民党が積み上げてきた「基盤的防衛力構想」(*2)は意味がないと全否定し、「動的防衛力」を基本戦略に据え、アメリカが期待するような「南西諸島防衛」(*3)を打ち出し、リベラルからタカ派に変身しました。また、武器輸出三原則も閣議決定であっさりと緩和してしまった。自民党が半世紀かかってできなかったことを、民主党がたった3年3ヶ月でやっちゃったので、元祖タカ派の自民党としては黙っていられない、というところも相当ありそうだなと思っています。

*2)1976年の最初の防衛大綱以来、ベースとなってきた考え方。脅威を前提とせず、力の空白となって不安定要因とならないよう必要最小限の基盤的防衛力を持つ。「専守防衛」理念に即した側面を持つ一方、低成長下での予算確保の方便という面も持っていた。実際には、自衛隊は同構想下で世界有数の軍隊へと膨張してきた。

*3)「ジョイント・エア・シー・バトル(JASB)構想」(統合空海戦闘構想)の直輸入。海・空軍力の 一体的運用により効果を引き出すもので、中国を念頭に置いている。米国が言う中国の「接近阻止戦略」を否定するために、自衛隊が「南西諸島防衛」を名目に前方で重い役割を担う。

川口
 基盤的防衛力は、基本は専守防衛で最小限の防衛力を持つということだったんですが、それを動的防衛にするというのは、まさに前方に出て重い任務を負うというか、積極的な方向に行くということですね。自民党政権の時にもそういう議論は出てはいたけれども、実際にとっとと突破しちゃったのは民主党でした。野党の時は、反対していたはずなのに。

半田
 今回、防衛大綱の見直しをすると安倍さんが明言しているけれど、今自民党の議論の中でも、動的防衛力でいいじゃないというようなことになっています。見直すのなら、これまで自民党が積み上げてきた基盤的防衛力に戻すというのが普通なんですが、何ふり構わずより好戦的な立場でいこう、もう平和主義の顔をする必要はないんだという感じがするんですね。

 もともとは、自民党に対抗してリベラルだったはずの民主党がタカ派に変わったことによって、元祖タカ派の人たちが目を覚ました。しかもたまたま尖閣問題があって、そしてたまたま北朝鮮がミサイルを撃つ、核実験をするというテーマもある。しかも、首相は安倍晋三さん。

編集部
 2010年に民主党政権下で閣議決定された大綱が、政権が変わったからといってまた見直される。しかも「専守防衛」という基本的なスタンスが、変わりつつあることについて、自衛隊の方たちはどのように思っているんでしょうか?

半田
 現場は大綱によってドクトリンが変わったら、それに応じて動くだけです。民主党政権が作った時点の大綱は、予算と人員という面から言えば、軍事力を引き続き縮小させる方向でした。例えば、陸上自衛隊は人員数の削減、海上自衛隊は潜水艦と護衛艦は増やすとしていましたが、全体からするとこれじゃ不満だとする人達もいるわけです。その中で自民党は「自衛隊の人員、装備、予算を拡充」と防衛費の増加を明言しましたので、それについて現場は歓迎していますよ。

川口
 1万8千人ほどの増員要求が出ているそうですね。

半田
 しかし僕がよく理解できないのは、ドクトリンが変わったというのは政策判断の一つだと思うけれど、防衛費を増やすというのはどうするつもりなのか、ということです。来年度予算で復活してくる項目は、優先順位が低かったものが、またゾンビのように蘇ってきているだけなのです。艦船が一隻増えるわけでもないんです。たしかに人員は少し増えますが…これも長い目で見ると、防衛予算の中でも人件費が一番多くかかっているわけですから、将来的には自分の手足を食うようなことになる。だから、ほんとにちゃんと考えてやってるの? と聞きたくなります。

 しかも、尖閣については冷静に対処する、というのが、引き続き安倍政権の基本方針なので、自衛隊が正面に出ることはないわけですよ。となると、予算だけ増やしてどうするのでしょうか。それは外に向けての姿勢、つまり中国に対しての一種のデモンストレーションなのか。もしくは、国内にいる安倍さんの支持層で、勇ましいことを言うのが好きな人たち向けての「説明」なんじゃないかと思います。

編集部
 そういうことなら、まさに税金の無駄遣いですよね。結局、生活保護費のカットなど、社会保障にしわ寄せが来ているわけですから。

●1945年の戦争体験からイラク戦争の体験を語る世代へ

半田
 先ほども言いましたが、自民党が変わったのは、政権交代した民主党が安全保障の面でタカ派になったからということと、やはり戦争を知っている世代の自民党政治家が、次々といなくなっているということが大きいと感じています。宮澤喜一さん、後藤田正晴さん、梶山静六さん、野中広務さん…。戦争を体験しているから、「(軍事にかかわるこの件が)ダメなのは、理屈じゃないんだよ」ということを、ある説得力を持って主張することができた。その人たちがいなくなったことで、自民党のカラーが、前のようないい意味での「バラエティに富んだ」ものじゃなくなってきている。

編集部
 戦争を知る世代の方々がいなくなる、というのは仕方のないことですが、だから後の世代が引き継ぐ、そして今の戦争を何度も検証する、ということの大切さを感じますね。

川口
 前日、弁護士会で国家安全保障基本法の勉強会を行ったとき、弁護士になってまだ2ヶ月ぐらいの若い人が参加していたのですが、彼がまず自分の意見ではないですよ、と前置きをしながら「先日の選挙の結果について、国際社会から〈日本が右傾化している〉と批判されたけれど、世界最強の軍隊を持っていて核兵器も世界でもっとも多く持っているアメリカになんで言われなくっちゃいけないんですか? また中国だってあれだけ強大な軍隊を持っていて、北朝鮮もテポドン打ったり、核実験したりと挑発してくる。なのになぜ、日本はやっちゃいけないんですか? 言われっぱなしで、やられっぱなしで、何か不公平じゃないでしょうか? アジアの国に対しての戦争責任について、なぜ日本だけがいつまでも詫びないといけないのか、こちらが謝り続けている間に、相手はやりたい放題だ」という論理がかなり若い世代には浸透していると、紹介してくれました。

 もう単純に昔の歴史について学びましょう、というだけでは、太刀打ちできなくなっているという危機感もあり、そこが結構難題だと思っています。そのあたりの理解がないと「集団的自衛権の行使、別にいいんじゃないの?」ということで、9条を骨抜きにする「国家安全保障基本法」みたいな法律も、世論の反対もなく、すっと通ってしまうでしょうね。

編集部
 そういう若い世代に届く言葉って何でしょうか?

川口
 今の若い人に1945年の話をするよりは、イラク戦争が起こってからのこの10年間のことを語ったほうが、まだわかりやすい部分があるのではと思っています。イラク戦争では、現地の子供たちが大勢殺されたという現実を知らせることと同時に、日本で集団的自衛権行使が、もし10年前に認められていたら、自衛隊は正面からこの戦争に参戦したでしょうから、その時、どうなったのかを想像してもらうことが大事です。実際にアメリカ兵の死者は、4400人ですし、2万人近くが障害を抱えています。自殺者もかなりいます。そして65万人のイラク人がこの戦争によって命を落としています。そういう現実をしっかりと受け止めて、自分自身が戦争に行く、もしくは自分の身内や友達を、戦地へと送り出す覚悟をちゃんとした上で、集団的自衛権の行使を認めるのか、どうするのか、その議論をする必要があると思います。

●今からでもイラク戦争を検証するべきではないか

編集部
 それに関連してお聞きしたいのですが、石破茂さんなどは「それはあくまでも日本国が主体的に判断すればいい、アメリカが言ったから付いて行くということじゃないんですよ」と必ずおっしゃる。だからアメリカが間違えたイラク戦争みたいなものには、日本は参加しないという選択をとっただろう、ということを暗に示しているんでしょうが、これまでの日本政府とアメリカの関係を見てきた限りはそうはならないと思いますね。

半田
 この国の政治が悪いのか、日本人の弱点なのかわからないけれども、過去に行ったことに関しての検証というのが非常に弱い。太平洋戦争の時何をやったかというのも、しっかり検証しないから歴史認識がぶれるんです。少なくともイラク戦争はたった10年前のことだし、派遣が終わったのは2008年。つい5年前の話です。民主党のマニフェストには付帯事項があって、イラク戦争の検証をする、とそこにはちゃんと書いてあってあったのですが、政権をとった後もやらなかった。

 アメリカはイラクの大量破壊兵器について「なかった」との結論を出しており、この戦争に巻き込まれた形のイギリスなどでは独立調査委員会が作られ、ブレア元首相ら政府関係者を参考人として議会に呼んで公開で証人喚問をやり、あの戦争が果たして正しかったかどうかという検証を未だに続けているんです。日本は、そういうことを一切やらないで、イラク戦争についての歴史評価がないまま、自衛隊の派兵についても、何ら検証をすることなく「次行ってみよう」という国なんですね。僕はこんな国は、国際社会からも信用されないと思う。

編集部
 政権交代があった時、私はてっきり小泉純一郎元首相は、国会で証人喚問されると思ってました。

半田
 イラク戦争に派遣された隊員がどんな待遇を受けてきたかさえもよくわからない。防衛省の中でPTSDになった人が何人いるんですかと聞いても、わからない、調べていませんという返事です。そんな状態で自衛隊員を「戦場」に派遣しているんですか? とこちらは驚くわけですが。実際に陸上自衛隊では、イラクに行った隊員は一般の隊員と比べ自殺者の割合が10倍も高いということが、取材でわかっているのに、防衛省がそれを責任を持って調べない。ましてや国会の中では、なんの検証も行われてこなかった。そんな国に、集団的自衛権行使について、語る資格があるのかと正直思います。しかも今度は、ステージが変わるわけですから。いよいよ我々の自衛隊が、「戦場」で武力衝突によって死ぬ場面に突入していくという時に、過去のケースは知りません、というのではダメでしょう。今からでも遅くないから、イラク戦争について国のレベルであの戦争は正しかったのか、どうなのか、という検証をきちんとするべきです。

編集部
 それにイラク戦争の時は、後方支援としての参加でしたが、次、イラク戦争のようなものが起きた時に、アメリカの要求というのはまったく位相が変わってくるんでしょうね。

半田
 それはもう当然そうです。イラク戦争の後に米軍再編の動きがありましたね。日米は世界レベルで連携しており、さらに連携を深めていく必要がある、ということを、2005年10月の段階で謳っているわけです。当然アメリカとしては、日本は今できる範囲で戦争の初期段階からやれることはやるんだろうなと思っているはずです。米軍再編の中で航空自衛隊の航空総隊司令部を在日米軍のある横田に移し、今年の3月には陸上自衛隊の海外派遣司令部の中央即応集団司令部をアメリカの在日米軍陸軍司令部のあるキャンプ座間に移すことになっている。司令部の形としてはもう日米が一体化できているわけですから、前回のイラク派遣の時とは、一体化の密度が違ってきています。但し、憲法による制約があるため、自衛隊を戦闘正面で運用できる法律がありませんというのが現状なのです。

 さらに過去を思い出して欲しいのは、米国などによるアフガン攻撃が始まった時の洋上補給だって、日本の国会は1ヶ月足らずの審議だけでテロ特措法を通した。あの戦争も支援したし、イラク戦争も支援した。特にイラクの方は大量破壊兵器があるかどうか、隠し持っているからどうかの査察中だったわけで、それに対して世界が反対しているのに、小泉首相が世界に先駆けて、一番バッターでアメリカ支持表明をしました。そうしたら「boots on the ground(陸上自衛隊を派遣せよ)」ってアメリカから言われて、陸上自衛隊を派遣しちゃった。アメリカの無理な要求に対して、「ちょっと待って」じゃないんだね。すべてイエッサーなんだよ。

 結局、政治が頼りない分を憲法9条が補っていたんじゃないのかと。二度と戦争はしないという誓いを、政治家は破りかけていたけど、憲法が守ってくれたんじゃないか、と思うわけです。石破さんが「日本は自分で判断する」と言うのは、あまりにもご自分のことがよくわかっていないんじゃないの、という気がします。現に石破さんは、防衛大臣として自衛隊をイラクに派遣しているんだから。それで自身は一度もイラクへ行っていない。3回行く機会があったのにドタキャンしたんですよ。シビリアン・コントロールって何なんでしょうね。担当大臣なのに、やるべきことをやってこなかったじゃないの、と。

●それでもまだ9条は歯止めである

編集部
 最後になりましたが、4類型の4)については、どのように考えたら良いでしょうか? 安保法制懇の報告によると、「国際平和活動に参加する他国の後方支援については、「他国の武力行使と一体化」論を止めて、政策的妥協制の問題として決定するべきだ」とありましたが。

川口
 「後方支援」をどう考えるかという問題ですが、これはイラク自衛隊派兵違憲判決文から考えてみたいと思います。その話の前に、判決後に自民党の憲法改正草案が出ていますから、これを現憲法と読み比べてみてください。9条1項が現憲法では、

 日本国民は正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

 これが自民党の改正案だと、

 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動としての戦争を放棄し、武力による威嚇及び武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては用いない。

 第二章の標題が「戦争の放棄」から「安全保障」に変わるわけですが、同時にここで、放棄するのは戦争だけで、武力の威嚇と武力行使は「手段としては用いない」だけだ、と宣言するわけです。

 5年前に名古屋高裁で出されたイラク自衛隊派兵違憲判決(判決文はこちらから読めます)は、「航空自衛隊のイラクにおける多国籍軍武装兵士の空輸活動は、他国による武力行使と一体化した行動であり、憲法9条1項に違反する」ことが明確に示されたものでした。要するに、イラク訴訟は後方支援として自衛隊がやったこと、武装した米兵を最前線であるバグダッドにどんどん運び込んでいたことは、武力行使だと判断した、というわけです。
 実際、航空自衛隊が輸送活動開始した直後くらいから、バグダッドを中心に掃討作戦が激化しています。一年間で1447回と前年の6倍に増え、飛躍的にイラクの戦死者の数も増えました。日本国内では、陸上自衛隊が撤退して、イラク派兵はもう終わったと思わせておいて、実はその後航空自衛隊によって、本格的に軍事活動に踏み込んだわけです。そこを我々国民は知らされなかった。

編集部
 たしかにそうでした。

川口
 イラク訴訟の名古屋高裁違憲判決は、イラクでの自衛隊の活動を厳密に検証した上で、航空自衛隊が行った活動は、アメリカと一体化した「武力行使」であり、「武力行使」を禁止した9条1項に違反する、と判断したわけです。

 自民党が一番したいのは、アメリカの要求に応じて、自衛隊を海外に出し、アメリカと一緒に軍事活動をすることです。しかしこのイラク派兵訴訟違憲判決によれば、今後自衛隊が海外で米軍と一体的に軍事活動をすることが、「武力行使」にあたるとして禁止されてしまう、ということになります。

 そうなると、9条改憲の目的が達成できないことに気づいた。そこで、2012年につくられた「憲法草案」では、それまで手を入れていなかった9条1項にも手を入れざるを得なくなった。それが、この9条1項の「改正」の目的です。さらに、2項で「自衛権の発動を妨げるものではない」といれて、個別自衛権のみならず「集団的自衛権行使」も可能だということを強調しようとしたのです。かなりイラク訴訟違憲判決を意識し、この判決を突破しようとしていることがわかります。それは、2011年以前の自民党憲法草案と比べれば一目瞭然です。

 ですから逆に言えば、イラク訴訟の判決は、9条のこの部分が、これほどにも縛りになっているということを私たちに気づかせたということでもあります。

編集部
 なるほど。4類型の4)というのは、イラク派兵訴訟で「9条違憲」と判断されたパターンなのですね。

川口
 集団的自衛権の問題とかいろいろあるけれども、9条があることによってかなりの部分が歯止めになっているという現実がある、ということを、改めて理解するべきでしょう。言ってみれば国家安全保障基本法が出来たとしても、9条がある限りは、違憲訴訟を起こされたら国側は、負ける可能性を持っているわけです。だから9条を変えたがるわけです。

編集部
 そうですね。イラク戦争から10年、名古屋高裁の判決から5年経ったわけですが、今こそ様々な角度からの検証が必要ですね。9条があるからできたこと、できなかったこと、イラクの人々は日本の自衛隊による平和活動をどう受け止めているのか、効果的な国際支援とは何かなど、さらに考えていきたいと思います。長時間、ありがとうございました!

(構成/塚田壽子 写真/マガジン9)

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