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編集部が選んだ「今読む小説」の選書

あたりまえのことですが、社会を「ある視点」から描き出す―それが小説というものだと思います。現代を浮かび上がらせる多様な視点からの小説をピックアップしてみました。

『おれのおばさん』佐川光晴著(集英社)突然父親が逮捕され、伯母・恵子が切り回す札幌の児童養護施設で暮らすことになった中学生の陽介。施設の仲間や恵子おばさんのストレートな生き方に影響をうけ、だんだん大人になっていく過程に、じ〜んとくる。“タイガーマスク現象”などによって注目される児童養護施設。もちろん本作はフィクションではあるが、虐待や育児放棄などの増加により、施設で育つ子供たちも増加している。そんな子供たちも、こんなふうに素敵な大人に見守られて大きくなってほしいな、と思わせる快作。 『来福の家』温又柔著(集英社)著者は、台湾生まれ日本育ちの在日台湾人。日本語と中国語と台湾語。日本人と中国人と台湾人。言葉と歴史とアイデンティティの揺らぎの中で、主人公の女性(著者と同じ設定)は家族を思い、しなやかに未来をみすえていく。複雑な過去を越えて一緒に歩いていけたら……と心が前向きになります。言葉のリズム、なんとなく南国のにおい、ゆったりしたアジアが浮かびあがる。 『苦役列車』西村賢太著(新潮社)第144回芥川賞を受賞した本作。もうひとりの受賞者と対象的に「美女と野獣」と評された著者。もちろん、野獣のほうである。中卒で日雇いで働く貫多。生活のための港湾労働で「さわやか」系の日下部と知り合う。つかのまの交流に心を開きかけるのだが……。私小説だとされる本作の現実の厳しさ。人はやはり誰かとつながりたいのだ。
『ネバーランド』藤野千夜著(新潮社)これはもう、イライラする恋愛話なのです。小説家ミサが、年下のイケメン隆文にふりまわされる。前の女とは別れない。ただご飯を食べにやってくる。食費もいれない、何も手伝わない。やめよう、こんな男!とミサは思いつつ、ずるずると続く関係。あんた、いい加減にしたら! と女友達のようにミサに説教したくなる。だけど今の日本って、女性がこのくらい寛容にならないと男をみつけられないのかもと、目からウロコでした。でも、イライラしますよ。 『黒うさぎたちのソウル』木村紅美著(集英社)沖縄2世の麻利、ビジュアル系バンドに夢中。奄美3世の奈保子、奄美の島歌の歌い手。そんな二人は同級生。だけど互いの島への愛情からケンカが勃発! 普通の暮らしの中で、ふとしたことからルーツを意識する。おばあの気持ち、米兵少女暴行事件、島歌の言葉。沖縄、奄美それぞれの痛みを認識しながら、二人は成長していく……。こういう形で沖縄と奄美の歴史を浮き彫りにする著者の手法に感心する。 『人質の朗読会』 小川洋子著(中央公論新社)この本全体に仕掛けられた「人質が語る言葉を盗聴器が記録したもの」という形式がしみじみと沁みる。反政府ゲリラに拉致された日本人旅行客8名は、閉じ込められた小屋でさまざまな切れ端に自らの人生の鮮やかな記憶を書きつけ、それを順番に朗読する。彼らは全員救出されることなく爆死するが、盗聴された声だけが残る。一つ一つの短編(人質の朗読の内容)は、もう小川さんの真骨頂。日常に現れる不思議な出来事、煌く一瞬を静かに切り取ってみせる。一人分の物語の終わりに、その人質のプロフィールが1行添えられている。その1行を読むとき、彼らが語る一場面から爆死するまでの時間に想いをはせざるをえない。お見事! とうなってしまうすばらしい作品。災害に心が痛んだら、ぜひ。

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