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教えて!山田先生
第1回 第2回 第3回 第4回 第4回 番外編
連載中より読者のみなさんからいくつかのご意見、ご指摘、質問が寄せられました。
ありがとうございました。そこでこれらの中から代表的なものを選び、
山田先生の方にお送りしたところ、回答が届きましたのでここに紹介します。
みなさんからの投稿は、長文のものはこちらで要点をまとめさせていただきました。
複数の方からの同じ内容の質問も、こちらでまとめました。ご了承ください。

◎第1回コラムに関する質問と回答
◆兵器の改修期間と航続距離について

Q:山田先生は、第1回目のコラムで「現在の日本に敵基地攻撃能力はありませんが、現状の武器を少し改良するだけで北朝鮮のミサイル基地の攻撃が可能になります」としています。その根拠として、「手っ取り早くその能力を持とうとするならば、F15に対地攻撃用のミサイルを積むだけで済みます。北朝鮮が日本向けに配備しているノドンの射程は1,300km。これに対してF15の航続距離は前述のように5,000kmですから、日本から北朝鮮のミサイル基地まで2往復近くできるわけです。」と言っていますが、私は二つの理由から不可能だと考えます。

 一つは、対地攻撃用ミサイル(ASM)を運用するためには、専用の火器管制装置などの装備が必要になります。F-15にはこれが搭載されていないため、新しくシステムを開発し、実際にF-15に搭載しての適合試験を行う必要があり一機ずつ改修しなければなりません。また改修するためには、予算申請を行い、開発する会社を選定し…… と数年の時間が必要となり、とても「手っ取り早く搭載するだけで」では済まないと思うのですが?

 二つ目の理由は、単純にF-15航続距離が足りません。上記のように、5000kmとは、機体を空輸する際の数値であり、ASMなどの攻撃兵装を施した場合、航続距離は大幅に低下すると考えられますが、どうでしょうか?空中給油機が配備されれば、北朝鮮全土への攻撃は理論上可能となりますが、軍事上は難しいと思います。ミサイルサイトに対する爆撃を行う場合、普通、その直前に敵の防空網を無力化する必要があります。具体的には、レーダーサイト、飛行場、地対空ミサイルを制圧するということです。そのために爆装した攻撃機や援護戦闘機など、百機以上の航空機が必要となります。自衛隊が納入を考えている、8〜12機程度の空中給油機では、百機以上の飛行機に、迅速に給油することができません。従って、軍事上は難しいと考えられます。(片道特攻でよいのなら攻撃は可能ですが…… それは問題外でしょう)
A:兵器の改修に時間がかかるのは当然のことですが、一般に新機種の導入(選定)あるいは機種の開発そのものよりはずっと短期間でできるわけで、別にあっという間に新しい兵器を搭載できるということではありません。
 また、航続距離と実際に戦闘行動の際の航続距離とは当然のことながら大きく異なります。どのような作戦飛行をするかで航続距離は大きく変わってきます。上記の発言は、単純にF15戦闘機の計算上の航続能力を示したもので、給油なしに2往復の作戦行動ができるとしたものではありません。
◆ミサイルへの改良・改修について

Q:「護衛艦から発射する対艦ミサイルも使い方や改良の仕方によっては地上攻撃用に使えます。だから、ほんの少しの改良・工夫をすれば、日本の現状の兵器でも敵基地攻撃が可能になります。」とありますが、先生が対艦ミサイルがほんの少しの改良で対地ミサイルになるとおっしゃる理由は何でしょうか?(まさかH2Aロケットがほんの少しの改良で大陸間弾道弾になる、なんて思ってらっしゃら無いでしょうね)
A:宇宙ロケットが改良によって大陸間弾道ミサイルになってしまうというのは、すでに多くの指摘があるところです。軍事技術の微細なところに気を取られていると危険な流れを見落としてしまいますので要注意です。

◎第4回に掲載した第1回コラムについての
訂正文について
◆F−1の航続距離について

Q:F-1の航続距離は2600kmです。600kmって切り捨てられるほど短い距離ですか?
A:『自衛隊装備年鑑』などで記載されていたF1支援戦闘機の航続距離は、確かに2600kmです。
◆「航続距離の制約」という表現について

Q:「航続距離の制約」など聞いたことがございませんが……そのような原則は、防衛年鑑や手持ちの航空機の資料、防衛白書を探しても見当たりませんでした。F-1もF-2も普通に設計して、あの航続距離になっただけではないですか?
A:もちろん、具体的にここまでの航続距離でなければならないという明確な線引きがあるわけではありませんが、国会においてはずいぶん昔から保有できる兵器とできない兵器の線引き論議はおこなわれてきました。1969年4月の政府答弁書において自衛隊が保有できる兵器の性格について、「自衛権の限度内の行動の用にのみ供する意図でありさえすれば、無限に保持することが許されるというものではない」という解釈がなされており、一般的に相手方に脅威を与えることを避けること、兵器の性能・数量にはおのずから歯止めがあるものとされています。支援戦闘機(戦闘爆撃機)についても、いわゆる「攻撃的兵器」と「防御的兵器」の境界線にあるものではないかとの指摘がなされており、上記の解釈にもとづく配慮が必要な兵器とみなされています。
◆F−1支援戦闘機退役時期について

Q:「F−1支援戦闘機は現在でも配備されていますが、次第に退役中です。」と先生の訂正文にありますが、その情報は古いものです。2006年3月9日にF−1支援戦闘機は全機退役しました。
A:最新のデータはご指摘の通りです。私が依拠した資料は『防衛ハンドブック平成18年度版』ですが、それは前年3月31日現在のデータにもとづくものであったため、その時点ではF−1が18機在籍しておりました。

第4回コラムに関する質問と回答
◆飛行機を載せた空母や飛行機を
  四六時中待機させておくことについて


Q:ミサイル基地まで飛行機が行き、発射されたと同時に迎撃することは可能なのか?という編集部の質問に対して、先生は「いつ発射されてもいいように発射基地近海で飛行機を載せた空母を、四六時中待機させておく必要が出てきます」と言っていますが、航空機を四六時中空中待機させておくのは、今日珍しいことではありません。
 日本でも早期警戒機などは、常時数機が空中にあって、領空侵犯や不明機の侵入に備えています。また、冷戦期には「戦略パトロール」と称して、核弾頭を搭載したB52を常に滞空させておく、といったことも行われていました。
A:自国付近で航空機を四六時中空中待機させることはできるでしょうが、いつ発射するかもわからないミサイルに対処するために、相手国に近いところに常時、攻撃用の航空機を空中待機させておくことは、外交上もきわめて危険なことで現実的な選択肢ではないでしょう。
◆レーザー光線に関する質問

Q: レーザー砲が固定機銃と言われていますが、米軍が開発中のAL-1Aは、旋回ターレット方式です。真横だろうと斜め後ろ向きだろうと撃てます。機首先端のターレットは、機体中心線から水平方向に左右各120度まで旋回。90度が真横ですから、更にそこから30度も後方への射撃が可能とあります。つまり左右各120度ですので合計240度をカバー可能なはずです。
A:この点は私が技術的な進歩を十分に考慮していなかったといえますので、「必ずしも飛行機が向かっている方向でなくてもレーザーは発射できる」と訂正します。
◆射程と射高に関する質問

Q: SM3の迎撃可能高度が500kmもあるのですか、それはとても心強いですね。数値が間違っています。米軍が発表しているSM3の「最大射程は500km以上」と勘違いしたのでしょう。射程と射高を間違えています。
A:ご指摘の通りで、500kmというのは射程距離で、射高とは異なります。この場合、500km(以上)という数字が現実に意味をもつのは、高さではなく、SM3ミサイルを搭載するイージス艦がどれだけの範囲を1隻でカバーできるかということです。SM3の射程距離が500kmと仮定すると概ね迎撃範囲が1000kmにも及ぶということです。

第5回コラムに関する質問と回答
◆PAC3の命中率について

Q:「大雑把な言い方になりますが、(PAC3で)迎撃できる確率は高くても50%程度だと思っていいでしょう。」とありますが、実験の通算成功率は約86%です。
(ニューメキシコ州のWhiteSands実験場で、米LockheedMartin社のPAC3 (Patriot AdvancedCapability-3)がTBM(TacticalBallisticMissile)ターゲットの要撃試験を成功裏に実施した。過去22回実施して19回目の成功。飛来するターゲット(旧型Patriotの流用品)に対して2発のSAMをつるべ撃ち(ripple-fired)したもの。今回の試験では、地上側機材のソフトウェアが改良されており、それが試験対象になった。)
A:アメリカ発表の撃墜率をそのまま信じるのは危険です。検証可能な信頼のおけるデータがなく、成功・失敗の母数も限られている以上、命中するかしないかは両者のデータが存在する以上、とりあえず50%程度と仮定しかありません。第4回のコラムでの命中率についても同じ理由です。
◆イラク戦争で弾道ミサイルは発射されたのかどうかにについて

Q: 「91年の湾岸戦争のときイラクはスカッドミサイルを発射しましたが、今回のイラク戦争でスカッドミサイルが使われたという報道を私は聞いたいことがありません」と言っていますが、イラク戦争ではアバビル、アル・サムードという弾道弾が使用されています。米軍の発表ではイラクはアバビルとアル・サムードを14発発射。うち9発はパトリオットPAC3が迎撃成功。うち5発は無害に砂漠やペルシャ湾に落下。3月27日のアバビル1はキャンプ・ドーハを直撃する軌道であったが、PAC3が基地の2マイル先で迎撃に成功。また、イラク軍はシルクワーム対艦ミサイルを無誘導対地ロケット弾としても使用しています。
A:イラク戦争ではやはりスカッド級のミサイルは使用されていないのではないでしょうか。ご指摘のミサイルはスカッド級よりも短射程のものだと思われます。イラクは1991年の国連安保理決議687号によって射程150km以上のミサイルの保有を禁止され、その後に開発されたアバビルミサイルは、その規定の範囲内にあるものとされています。
◆迎撃ミサイルと住民の安全について

Q: (ミサイル防衛システムは)ミサイルをミサイルで撃ち落とすと言いますが、仮に撃ち落とした場合、その下で暮らしている人たちには被害がないのですか? カケラや放射能が降ってきたりすることはないのですか? 沖縄に住んでいる私としては心配です。教えてください。
A:ミサイルの破片や、弾頭が核弾頭であった場合の放射能による被害については、ミサイルが命中した高度にもよりますが、それはあり得ることです。
 大気圏外での弾頭破壊であれば、破片は落下中に焼失し、放射能被害も心配しなくて もよいと思いますが、パトリオットなどの地対空ミサイルで、比較的低い高度で、また 都市周辺でミサイルが撃ち落とされた場合には、ミサイルの破片や破壊された弾頭から 飛散する核物質(プルトニウム)によって地上が被害を被ることも大いに考えられます。
 もっとも、核弾頭が空中で破壊され、放射性物質が飛散したという事例が、今のとこ ろないため、確たることは言えません。こういう場合、“軍事専門家”は、「大気中に拡散されてしまうので大丈夫だ」といった回答をしがちですが、厳密な検討がなされているとも思えません。核弾頭が破壊された場合、その衝撃で核爆発が起こることはないと思われますが、核弾頭に詰められた高濃度のプルトニウムなどが飛散したり、ある程度まとまったものが地上に落下することは考えられることだと想定しておいた方がよいでしょう。
 そうなると、弾道ミサイル防衛構想でもおそらくその対策はほとんどとられていないものと思われますので、これもミサイル防衛の盲点の一つだといえるでしょう。
北朝鮮の核兵器について、このコーナーで取り上げることを予告しておりましたが、
未だ情報が錯綜している状態です。
いずれ機会を見て行いたいと思いますが、現段階での拙速な対応は
避けたいと思いますので、ご理解ください。

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