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この人に聞きたい
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鈴木聡さんに聞いた その2

日本としてのかっこいい胸の張り方を考えてみよう
自衛隊がイラクに派遣されてから2年。
今なおイラクから撤兵されることのない自衛隊ですが、
この2年間何をしてきたのか、派遣の真の目的は何だったのか。
自衛隊の内実に詳しい、半田滋さんにお伺いしました。
すずきさん
はんだ しげる 1955年栃木生まれ。
東京新聞編集局社会部勤務。1992年より現在にいたるまで防衛庁取材を担当。業界においても異例なほどの長期にわたり、自衛隊を見続けてきた。
米国、ロシア、韓国、カンボジア、イラクなど海外における自衛隊の活動も、現地にて豊富に取材。
著書に『自衛隊VS北朝鮮』(新潮新書)、『闘えない軍隊』(講談社+α新書)がある。
最初から護憲や改憲ありきではない議論の場を
編集部 2003年3月にイラク戦争が勃発してから3年が過ぎました。その間、日本は同年6月に「武力攻撃事態法など有事関連三法」、7月に「イラク特措法」が成立、2004年1月に自衛隊がイラクへと派遣されました。そして今、イラクにおける自衛隊の撤退が検討されています。改めてイラクで自衛隊は何をやってきたのか、この派遣は日本やイラクにとってどんな意味があったのか、ということをお聞きしたいと思います。
半田 イラク特措法にもとづいて、実際にサマワにいる自衛隊約600人の活動は、「人道復興支援」をやっています。具体的には、給水、医療指導、施設復旧の3項目です。 実際の状況を言うと、まず給水については、2005年、外務省のODAで大型の浄水機が提供されたのを機にやめました。医療指導は毎日ではなく、週に1、2回なので、現在の主な活動は施設復旧となります。施設復旧は直接自衛隊がやるわけではなく、現地の人たちを雇用します。つまり、こちらがお金を出してイラクの人たちを雇用し、予定通りに工事が行なわれるように指導監督をするわけです
編集部 現地で雇用して施設復旧をやらせるというのは、いままでの自衛隊のやり方とは少し違っていますよね。
半田 そうですね。厳密に言えば、2002年の東チモールPKOの派遣のとき、半分だけやっています。自衛隊は施設復旧を直接やったし、現地で雇用もした。技術者を養成して、重機のオペレーターを教育することもやっていたので、そのとき実験的にやってみたことを今回イラクで本格化させたということですね。
しかし、イラク特措法に書かれてある「イラク特別事態」、つまりイラク戦争で壊された建物や道路を復旧しているかというと、それは違います。つまり、実際に復旧している設備は、もともとインフラ整備が立ち遅れたものを、イラク政府に代わって自衛隊がやっている形です。
編集部 その辺は法律の趣旨とは違うから否定すべきか、あるいはイラクの人たちのためになっているという点では評価すべきでしょうか?
「恐怖」は報道によってつくられている
半田 僕は、「もともと今回のイラク派遣の目的は何か」というところから考えなくてはいけないと思います。今回の派遣は、「イラクの人たちを何とかしなきゃいけない」というところから始まったわけではなく、アメリカからの「自分たちの始めたイラク戦争の後始末を、手伝ってもらいたいという強い要望と圧力」が日本に対してあって、それで日本政府は、自衛隊を派遣せざるを得なくなったわけです。それには、まず自衛隊を出す名目が必要でしたがその内容については、「出すことさえできるのならば、何でも良かった」というのが本音だと思います。
最初に自衛隊が検討したのは、米軍に対する燃料の補給や給水でした。そういう意味では「人道復興支援」ではなく、「安全確保支援活動」、いわゆる米軍の兵站活動だったのです。
編集部 しかし「人道復興支援」にあたっている人数は、今イラクには自衛隊が約600人いるということですが、実際に給水活動などで動いている隊員はごく一部のようですね。
半田 それは、最初に自衛隊員の頭数を決められたからです。首相官邸と防衛庁の背広組(いわゆるキャリア組)との間で人数をバナナの叩き売りのように、1千人と言ったら500人、じゃあ700人と言ったら600人…という決め方をして、上限の人数が600人になったのです。
その枠の中で、まずは治安情勢を調べて、警備の要員が何人いるか考えました。これはいま100人以上です。自衛隊は自己完結性を旨とする組織ですから、さらに管理部隊が必要になってきます。つまり給料を払う人、勤務表をつける人、食事をつくる人、本部と連絡を取る人、幕僚などでできあがっているわけです。この管理部隊だけも、100人ぐらい。
そういう形でどんどん削っていって、残ったのが人道復興支援をやる人数となった。それが100人足らずの活動要員であって、その枠の中でさらに給水・医療・施設普及の各活動に3等分するわけです。
編集部 そういったイラクでの自衛隊のあり方は、他国と比較して大きな違いがあるのでは?
半田 自衛隊と同じような活動をやっている国は、1カ国もありません。よその国は、原則として「治安維持」を担っている。これはイラクの警察・軍隊・国境警備隊などを教育して、イラクに治安維持機能を持たせるための訓練が中心です。日本のように「人道復興支援」だけをやっている国というのは、他にない。北部にいる韓国軍も施設復旧はやっているけれど、それは自分たちの活動を円滑にするための手段としてやっているわけなので。
編集部 自衛隊はオランダなど他国に守られて人道復興支援をしていたわけですが、もし他国が攻撃されている場に出くわした場合、自衛隊には何ができるんですか?
半田 そういう場に出くわせば、イラク特措法にある武器使用基準の「自己の管理化に入ったもの」という解釈ができます。自分を守るということを大義名分にして、相手を守ることが、自衛隊に許された武器使用の基準ですから。
「自己の管理下に入ったもの」、つまり、「自分もいずれ攻撃される危険性を感じました」と言って、武器を使うことはできます。でも、その解釈がカンボジアのPKOから始まって、どんどん広がってきていますよね
編集部 ところで気になる撤退の時期ですが、各国の軍隊はどんどん撤退しているのに、なぜまだ自衛隊は駐留しているのでしょうか? そして撤退時期はいつ頃になりそうですか?
半田 これはサマワにいるイギリス、日本、オーストラリアの参加国でどんなに議論しても結論は出ないでしょう。つまり、アメリカからの許可が出なければ駄目なわけですから。今、イラクに残っているのは、アメリカとの関係が深い国だけです。「宗主国」であるアメリカがウンといわなければ引けないのです(笑)。
アメリカは、日本を完全にハンドリングしています。日本は、アジアでアメリカの最大のパートナーだと見ている世界の目があり、影響力が大きいことをよく知っていますからね。
でも、アメリカも中間選挙を前に少しでも数を減らしたいから、スンニ派とシーア派との対立の収まり具合を見ながら、秋の中間選挙までには撤退を始めるでしょう。日本もその頃には撤退を始められると思いますよ。
「恐怖」は報道によってつくられている
編集部 ところで、イラクから帰国した自衛隊員がこれまで5人、自殺しているという報告がありますが、7000人弱派遣された中の5人というのは、多い方だと思うのですが、今回のイラク派遣によって、精神的に病んだりした人が多い、というデータはありますか?
半田 そういったデータはありません。確かにイラクに行った隊員の中に自殺者が5人いることが分かっていますが、イラクに行ったことが原因かというと、遺書にそれを匂わせるものがないので分かりませんね。
実は、陸上自衛隊ではイラクに行った隊員全員に対してアンケート調査をやっています。でも、「イラクで精神的疲労を覚えたか?」「帰国後体調が悪いか?」などという直接的な聞き方はしていないようです。僕もその結果を出してくれと頼みましたけど、「隊員個人の上官に対する評価が含まれるから」という理由で出してくれませんでした。要するに、このやり方で組織はいいのかという統率に使うための資料であって、隊員個人の心身の健康をフォローするという趣旨ではないのです。

ただし、最初にイラクに行った旭川の部隊が、帰国してすぐに一般市民と乱闘騒ぎを起こした事件がありましたね。これは、すごく異常です。というのは、普通自衛官というのは、「国民に絶対に手を出してはいけない」ということを教えられます。一対一の喧嘩ならまだ個人的な感情の爆発として分かるけれども、双方とも5、6人いての乱闘というのはこれまでになかったので、すごく異質な事件だと感じました。
編集部 非常に大きなストレスがイラクでの任務中にあったのでしょうか?
半田 私自身も1カ月間サマワにいたから分かりますけど、ストレスがたまるとすると、それは「襲撃されるかもしれない」という不安から来るものではなく、ずっと閉鎖された空間の中に閉じこもったままでいなきゃいけないという、刑務所の囚人と同じストレスではないでしょうか。自衛隊員の3分の2は一歩も外に出ないまま、日本に帰ってくるわけです。帰国してから「イラクの食事はおいしかった?」と聞かれても、「駐屯地と同じだよ、外なんか見えないよ」と答えるしかない(笑)。

ただ幹部たちからよく聞くのは、「自分たちはイラクで大変な苦労をして辛い想いをしてきたのに、帰ってみると世間のみんながのほほんとして馬鹿に見えてくる」と。でも、いざというときに命を投げ出して国民を守るために、自衛隊は訓練したり給料をもらったりしているわけでしょう。にもかかわらず、彼らはそういうふうに感じるようになってしまっている。
編集部 基本的に自衛隊員の多くは、イラクでの任務に本心で納得しているのでしょうか?
半田 それは分かりませんね。ただし、自衛隊員、特に幹部クラスになるとよく分かっているのは、何よりも「トラブルを起こさないことが任務」だと。要するに、政治家に、「イラクの自衛隊が襲撃されたので引き返した方がいいのでは?」などと質問されないために、「揉め事を起こさないで無事に帰るのが最大の任務である」ということを、彼らは繰り返し言っていますね。
編集部 半田さん自身は、今回のイラクにおける自衛隊の活動をどう総括していますか。
半田 「日米同盟が強化された」ことが、最大の意味だったのではないでしょうか。その活動が実際にイラクの人たちに喜ばれたというのは、それに付随しただけのものです。
米軍とともに世界で活動できるような体制づくりに貢献し、今回初めて多国籍軍の一員として参加したことで、「憲法を改正して、他国並みに武力行使と集団的自衛権の行使ができなければいけない」という国内の気運を高めてしまったと思いますね。
つづく・・・
「イラクの復興支援」という名前のもとに行われた自衛隊のイラク派遣が、
イラク市民のためではなく、日米同盟やアメリカ軍のためのものだった、
という話には、国際貢献になっているのか、という疑問が残ります。
引き続き、「米軍再編」の真意やそれに伴う自衛隊の変貌、
そして半田さんが考える自衛隊の進むべき方向性や、
憲法9条についてお聞きしていきます。
ご意見募集!

ぜひ、ご意見、ご感想をお寄せください。
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