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この人に聞きたい
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石坂啓さんに聞いた

私たちはもっと想像して疑ってみなければならない
漫画やエッセイのほか、全国各地の講演会などで、
「9条や平和」についてのメッセージを精力的に発し続けている石坂さん。
子どもを持つ母親としても、現在はとても心配な状況にあると語っています。
石坂啓さん

いしざか けい  1956年愛知県生まれ。
故手塚治虫氏に師事し、漫画家デビュー。漫画、エッセイの他、
著書に『学校に行かなければ死なずにすんだ子ども』(幻冬舎)など。
山中恒氏とのコンビでの児童文学作品も多い。『週刊金曜日』編集委員。
『マガジン9条』発起人の一人。

戦場に送られるかもしれない子どもの未来
編集部  石坂さんにはお子さんがいらっしゃるとか。ひとりの母親として、いまの9条改悪の動きをどうお考えですか?
石坂

 14歳の男の子がいます。彼が選挙権を持つようになるまで後6年ですが、その前に9条を変えられてしまうのではと、とても心配しています。
 9条を改悪するということは、子どもの未来をいまの大人が勝手に作った枠組みに押し込んでしまうということ。この国が正規の軍隊を持つようになった時、戦地に送りこまれるのは若い人たちです。徴兵制が現実のものになる危惧もあります。なのに、子どもには未来の当事者でありながら、参政権のない現在は異議を申し立てることもできない。ひとりの母親として、とても憂うつですね。もし、自分の子どもが戦場に行くことになったらと、夢にうなされることもあります。

編集部  イラク戦争に幾度となく、反対を表明していますね。
石坂  小泉首相はアメリカの戦争に追随し、サマワに自衛隊を派遣してしまった。それまでは「日本は戦争を放棄するという、世界に誇れる憲法を持っている」と、子どもに胸を張ることができました。ところが、いまはそれができない。何とか、この状況を子どもにわかりやすく理解してもらいたいと、最近はもっぱら、『ドラえもん』を持ち出して説明しています。 
編集部  『ドラえもん』ですか?
石坂  アメリカはジャイアンです。体が大きくてケンカっ早く、すぐにパンチをふるいたがる。悪いやつじゃないかもしれないけど、単細胞なんですね(笑)。その伝でいけば、日本はスネ夫になる。小利口で金持ちだけど、腕っぷしはからっきしなので、強いアメリカの周りをウロチョロして身を防いでいる。自分ではジャイアンを利用しているつもりだけど、じつはいわゆるパシリにすぎません。その証拠によくジャイアンに大切なマンガ本やオモチャを取り上げられます。 しかも、そんなスネ夫(=日本)を学校の友人(=アジアの国々)は冷ややかに見ていて、尊敬していない。
 改憲を振りかざす人たちはよく「国益のため」ということばを叫びますが、そんな小泉スネ夫の考えている国益なんてしょせんタカが知れている。それほど立派なものじゃありません。サマワへの自衛隊派遣も同様です。国連の常任理事国入りは、自衛隊派遣の見返りとして後押ししてもらえると思ったアメリカに反対され、見送られることが濃厚でしょう。 
戦後でも戦前でもなく戦時下にいる
編集部  いずれは日本も戦争をするような国になりかねない?
石坂  なりかねない、じゃなく、すでに日本は戦争を始めているというのが私の考えです。イラクに自衛隊が出かけた昨年が戦争元年。いまは前の戦争の戦後でもないし、次の戦争の戦前でもない。日本はまさに戦争中なのです。
編集部  しかし、国内はまったく平和です。
石坂  たしかに、私たちの日常は平和そのものです。建物が破壊されたり、人が無残に殺されているわけではない。ただ、先の戦争も初めはそんなものでした。遠くの戦場でだれかが静かに死んだり、戦争反対のビラをまいた市民が逮捕されるくらいで、いきなり、自分の頭の上に爆弾が落ちてきたわけじゃない。でも、それもまさしく戦争の一部だったんです。
編集部  私たちは戦争を実感する能力を失いつつあるのかもしれません。
石坂  人々の想像力が弱体化しているように思えてなりません。一枚の絵や短い文章から想像力を膨らませる力がなくなっている。イラクで殺された香田証生さんのケースがその典型です。
 香田さんは明らかに戦争の被害者です。なのに、国内世論はそれを認めず、「自己責任」ということばで片付けてしまった。香田さんはなぜ、テロ犯人たちに捕まったのですか? 政府の警告を無視して、危険な地域に入ったからじゃない。日本がイラクに自衛隊を派遣したからでしょう。「自己責任」というフレーズは国民の命を守らなかった政治が責任逃れをするための口実にすぎません。香田さんは戦争によって殺されたんです。でも、その事実をイラクから遠く離れた私たちはきちんと想像できなかった。
 胸が痛かったのはご遺族のコメントです。香田さんの死が確認された時、香田さんのお兄さんは「多くの人に大変なご心労をかけたことにお詫び申し上げるとともに、お礼と感謝の気持ちでいっぱいです」と記者会見の席で語らざるを得ませんでした。
 本来なら、肉親が殺されて悔しいとか、憤りのことばを口にするのが当然でしょう。まして、小泉首相は「テロに屈しない」と早々に発言し、香田さんを助けるための時間稼ぎすらしなかった。あれは「殺してもらってけっこう」と、テログループにシグナルを送っているようなもの。なのに、ご遺族は「自己責任」の大合唱の前に、泣き叫ぶこともできず、逆にお詫びと感謝を表明しなくてはならなかった。
権力はたくみに世論を誘導する
編集部  イラクにいる自衛隊員に死者が出るような最悪の事態になって、私たちは初めて戦争を実感できるのかもしれませんね。
石坂  いや、おそらく一人二人の死者ではみんなの目は覚めないでしょう。小狡い小泉首相のことですから、自衛隊に人的被害が生じた時のシナリオくらい、想定しているはずです。
 おそらく、戦争に反対、自衛隊をすぐにでもイラクから撤退させるべきだという声があがらないよう、巧みに世論を誘導することでしょう。むしろ、自衛隊員の死をむだにするな、自衛隊をもっと重武装させろ、武力行使がきちんとできるよう、憲法や法律を変えるべきだという大声がまかり通る可能性が強い。当然、靖国神社も持ち出されることになるでしょうね。
 つまり、一人、二人の死者ではむしろ、戦争のできる国家体制の構築へとベクトルは働く。人々が本当に戦争を実感し、反対へと立ち上がるには、一度に数十、数百人の自衛隊員が犠牲になるくらいのショッキングな事態に追いこまれないと、だめでしょうね。それくらい、私たちの想像力は弱くなっているのです。

編集部  そんな国民の想像力の欠如につけこんで、権力は戦争のできる体制作りを進めているというわけですね。
石坂  歴史上、人々の目の届かないところで政治権力が巧妙に物事を進めていくというケースはよくあることです。
 ただ、改憲の動きにしてもイラクへの自衛隊派遣にしても、それらは巧妙どころか、だれの目にもストレートなほどわかりやすい形で進められています。国民を何とかして丸めこめようとかいうレベルじゃない。あまりにもあからさまです。政治が国民を警戒していない。わたしたちは権力になめられているのではないか。

編集部  今の国民は国家や政府におどろくほど従順です。
石坂  マンガを描いていると、段々、性格が悪くなってくるんです。いい人だけじゃストーリーが転がらないから、かならず嫌な人物、悪賢い人物をマンガに登場させなくちゃいけない。そんな悪役の内面世界やセリフを日がな考えていると、いつの間にか、作者自身の性格もひねくれちゃうんですね(笑)。だから他人の悪意や裏面についても敏感になる。
 その点、人のいい人は悪意がないから、他人の悪意にも気づかない。いくらなんでも小泉さん、そこまでやらないだろう、日本は戦争なんてしないだろうって、たやすくだまされてしまう。
 私はひねくれて何ぼのマンガ家ですから、どうしてもいい人にはなれない。底意地悪く、まずは何でも疑ってかかる。とくに国家や政治家のすることは額面通りに受けとれない。 9 条をめぐるいまの政治家の言説を考えるにつけ、国民もマンガ家のようにもっと底意地悪く、用心深くいてほしいと思います。

つづく・・・

「想像力が弱くなった国民につけこんで、
政治権力はたくみに世論を誘導する」。
インタビューを行ったのは、6月の終わりでしたが、
石坂さんの言葉は、まさしく今の状況を
鋭く言い表しているのではないでしょうか。
次回は、これからの日本の行方について、さらに伺っていきます。

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