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2013-06-26up

佐藤潤一の「カエルの公式」

第28回

ミツバチを救え!
—国家間での規制の違いを利用する—

 こんにちは。
 突然ですが、ミツバチが激減しているのをご存知ですか?

 2007年春までに、北半球の4分の1のミツバチが消えてしまったという報告があります(注1)。

 日本でも各地で、ミツバチの大量死や、ミツバチの巣に異変が見られています。さまざまな原因が複合的に影響を与えていると言えますが、その中でももっとも直接的な原因とされているのが、ネオニコチノイド系農薬です。

 今回は、このネオニコチノイド系農薬の規制を例に、国際的な規制の違いを利用することでキャンペーンを進める方法についてお知らせします。

ミツバチはとっても大事

 「ミツバチぐらいいいじゃない?」なんて思ってはいけません。

 なぜならミツバチはトマト、ナス、キュウリ、カボチャ、レタス、ナタネなどの野菜やイチゴ、メロン、スイカ、モモ、ナシ、リンゴなどのフルーツなどの受粉を担っているからです。ミツバチがいなくなれば、このような食物の受粉を別の手段で行わなくてはならなくなります。ミツバチがいなくなることでの経済的損失は2650億ユーロ(約32兆円)と言われるぐらいです(注2)。

 ミツバチは、私たちの生態系にとってとても重要な存在なのです。

ニコチン作用に似ているネオニコチノイド系農薬

 ネオニコチノイド系農薬は、タバコの有害成分ニコチンに似ているのでネオニコチノイドという名前を付けられた殺虫剤です。日本でも稲作をはじめとしてさまざまな用途に広く使用されており、この10年間で出荷量は約3倍に増えています。 

 ネオニコチノイドは、水溶性で植物の内部に浸透していくことから浸透性農薬とも呼ばれています。ネオニコチノイドを生産している企業は、世界でも大手の農薬関連会社で、バイエル、住友化学、シンジェンタなどです。

 この農薬は水溶性かつ浸透性なので、環境に広がりやすく、さらに作用が長期間にわたってつづきます。そして、虫の神経に作用する毒性をもち、これがミツバチ減少の原因とされます。

EUが「予防原則」に則って、
ネオニコチノイド系農薬を規制

 ネオニコチノイド系農薬ですが、いよいよEUレベルで規制が始まります。

 EUは今年5月24日、ネオニコチノイド系農薬3物質(クロチアニジン、イミダクロプリド、チアメトキサム)について、ハチを誘引する植物および穀物への種子処理、土壌散布、および葉面散布について、一部の例外を除き2013年12月から禁止することを決定したのです。

 この決定にすぐに反応したのが、農薬会社。その中には、日本の住友化学も含まれます。

こちらが住友化学の反応↓
住友化学「EUのネオニコチノイド剤規制に対する住友化学の見解」(2013年5月27日)

 「決定的な証拠がないから規制はおかしい」という趣旨の反論ですが、「そもそもEUの規制なのに、なぜ住友化学が?」と思われた方もいるかもしれません。

 住友化学はネオニコチノイド農薬の一つであるクロチアニジン系農薬「ダントツ」を製造し、世界中で販売しているため、EUで規制が始まることはとっても大きな影響があるのです。

 以前から有害化学物質や遺伝子組み換えなどの分野で、EUは他の国々よりも早い段階で先進的な規制を導入してきました。

 これは、EUが「環境に重大かつ不可逆的な影響を及ぼす仮説上の恐れがある場合、科学的に因果関係が十分証明されない状況でも、規制措置を可能にする制度や考え方」である「予防原則」に基づいた決定を行ってきたからです。

 つまり、住友化学の言い分でも、EUではすでに十分に規制に値するわけです。

 このように「予防原則」を重視しているEUは、環境問題分野でより先進的な取り組みする傾向があります。一方で、日本政府は、前例がないことをやることに非常に消極的ですが、同時に海外が取り組みはじめた規制について取り残されることも嫌います。そこで、このようなEUの先進的な規制を根拠に、日本国内でさらなる規制を迫ることが効果的になるのです。

 過去に、有害化学物質規制や、廃棄物の海洋投棄など、EUとの規制の差を利用して日本でも取り組みが進んだ事例はいくつもあります。

科学的証拠も集まってきた

 住友化学は「ネオニコチノイドの使用とハチの減少について証拠がない」と言います。

 しかし、最近になって国内でもミツバチ減少の原因がネオニコチノイドであるという研究が発表され報道されるようになりました。その一つが金沢大学の山田敏郎教授らの研究です。

 ネオニコチノイドのミツバチへの影響を調べた研究で山田教授は「ハチが即死しないような濃度でも、農薬を含んだ餌を食べたハチの帰巣本能がだめになり、群れが崩壊すると考えられる」と指摘して、養蜂への影響を避けるためネオニコチノイド系農薬の使用削減を求めています(注3)。

このように、私たちの知らないところで進む生態系の破壊。

 レイチェル・カーソンさんが、『沈黙の春』で農薬の危険性を指摘してからすでに半世紀が過ぎますが、着実に「沈黙の春」が近づいてしまっています。

 今後、ネオニコチノイドがハチなどの減少の決定的な原因だと証明されたら、住友化学はその責任を負うのでしょうか?

有機農業こそが21世紀の農業

 現在進行形で、国内でも大量に利用されているネオニコチノイド系農薬がミツバチなどの生態を脅かしています。

 農薬に依存しない有機農業こそが環境も健康も脅かさない21世紀にふさわしい農業です。食品などを選ぶ際には、有機農家を応援する意味でも、ぜひ有機農業で生産されたものを選んでいきましょう。

 またグリーンピースは、6月24日、中国国内で漢方薬草(クコ、ハニーサックル、菊、サンシチニンジンなど)の残留農薬を調査した結果を北京で発表しました。

 健康に良いはずの漢方が、残留農薬にまみれてしまっています。農薬をたくさん使う工業的な農業の問題を知ってください。

 詳しくは以下のブログでどうぞ。

(注1) Jacobson, Rowan “Fruitless Fall: The Collapse of the Honey Bee and the Coming Agricultural Crisis” 2009
(注2) Lautenbach, S. et al., 'Spatial and temporal trends of global pollination benefit', PLoS One, 7(4): e35954, 2012. doi:10.1371/journal.pone.0035954
(注3) 東京新聞「ミツバチの群れ 農薬で消滅 ネオニコチノイド系 金沢大確認」(2013年6月18日)

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農薬の大量使用は、作物を食べる人の健康のみならず、
ときに散布作業をする農家の人の健康をも脅かします。
農薬に頼らない有機農業、もちろんコスト面などの困難もあるけれど、
消費者の立場からも応援することで、もっと広げていければと思います。

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佐藤潤一さんプロフィール

さとう じゅんいち グリーンピース・ジャパン事務局長。1977年生まれ。アメリカのコロラド州フォート・ルイス大学在学中に、NGO「リザルツ」の活動に参加し、貧困問題に取り組む。また、メキシコ・チワワ州で1年間先住民族のタラウマラ人と生活をともにし、貧困問題と環境問題の関係を研究。帰国後の2001年、NGO「グリーンピース・ジャパン」のスタッフに。2010年より現職。twitter はこちら→@gpjSato