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雨宮処凛がゆく!

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あまみや・かりん北海道生まれ。愛国パンクバンド「維新赤誠塾」ボーカルなどを経て作家に。自伝『生き地獄天国』(太田出版)のほか、『悪の枢軸を訪ねて』(幻冬舎)、『EXIT』(新潮社)、『すごい生き方』(サンクチュアリ出版)、『バンギャル ア ゴーゴー』(講談社)、『生きさせろ!〜難民化する若者たち〜』(太田出版)など、著書多数。現在は新自由主義の中、生活も職も心も不安定さに晒される人々(プレカリアート)の問題に取り組み、取材、執筆、運動中。非正規雇用を考えるアソシエーション「PAFF」会員、フリーター全般労働組合賛助会員、フリーター問題を考えるNPO「POSSE」会員、心身障害者パフォーマンス集団「こわれ者の祭典」名誉会長、ニート・ひきこもり・不登校のための「小説アカデミー」顧問。雨宮処凛公式サイト

雨宮処凛の闘争ダイアリー
雨宮処凛の「生存革命」日記

※アマゾンにリンクしてます。

“韓国産徴兵奴隷”
大分KCIAの叫び(最終回)。の巻

27日のキャバクラユニオンデモ!

 大分KCIAは日本に来る前の09年2月、「徴兵検査」を受けている。
 郵便で届いた徴兵検査の通知には、「神聖な兵役の義務、おめでとうございます」と書かれていたという。

「腹が立ちましたね。昔の『神聖なる皇軍のために』とかと、論理的にまったく同じじゃないですか」

 しかし、検査に行かないと罰金。罰金も払わないと兵役法違反で逮捕されるので彼も検査を受けた。
 彼が現在日本で「PANDA」に入り、徴兵に行きたくないと思っていることは、両親も知っているという。

「結構リベラルな親なので、拒否して刑務所に行くのは反対してるけど、お前がなんとかできるならやってみろって」

 彼のお父さんは徴兵で空軍に三年間いたという。当時の軍隊では米などを幹部が横取りしていたため、兵士に来る米が少なくて大変だったそうだ。
 しかし、両親の理解はあっても韓国の友達の理解はなかなか得られない。

「夏休みとか冬休みの時に韓国に行ったんですけど、徴兵行きたくないとか言っても全然理解されないですね。しょうがないんじゃないかって。あと、さっきの論理に洗脳された奴もいるし。国のためだとか。ほとんどは話が通じなくて本当にもどかしいんですよ」

 彼が徴兵に行きたくない理由はシンプルだ。

「奴隷じゃないですか。今21世紀ですよ(笑)」

 しかし、韓国ではそんなことを言うだけで「売国奴」と言われてしまうという現実がある。
 そんな大分KCIAはキム君と同様、大分で音楽活動もしている。まだバンドと言えるほどの形ではないが、メンバーは日本人3人と大分KCIA。そんなメンバー編成を彼は「奴隷一人と市民三人で練習してます(笑)」と表現する。
 どうして韓国では徴兵制が続いてるんだと思う? 素朴な質問をぶつけてみると、彼は少し考えてから言った。

「文化だと思うんですよ。ファシストの国ではファシズム的な要素を続けるとそれが文化になっちまって日常生活みたいに当たり前のことになる。子どもの頃から徴兵に行くのが当たり前で、叱られる時も『後で軍隊行ったらどうなる』とか『こんな生活してて軍隊に行ったら大変だぞ』とか言われるんですよ」

同じく。

 先に書いたように、韓国軍は旧日本軍の伝統を色濃く受け継いでいる。そして大分KCIAのお爺さんは戦時中、日本に徴用された人でもある。01年に亡くなったという彼のお爺さんは20代の時徴用され、最初は日本の炭坑で働き、そのあと三菱工場で働いた。そうして43年、横浜から釜山行きの貨物船に隠れて脱出。そんな大分KCIAのお爺さんの記録は、韓国のホンソン郡庁の国家資料室に「徴用された対象者」として残されているという。  
 そんなルーツを持つ大分KCIAを指してキム君は言った。

「その孫が今、日本に逃げたいって来てるんですよ。こういうのも歴史学的に『逆コース』と呼ぶべきでしょう(笑)」

 大分KCIAは、将来、「社会的なことを研究しながら書いたりしたい」という夢があるそうだ。

「徴兵問題だけじゃなく貧困問題とかも書きたい。貧困問題は徴兵とある程度関係があると思うんですよ。まず、自分でやりたくてやるのじゃないし、徴兵に行かなかった人と同じように社会から孤立され、追い出されるから。そういう圧力がある。つまり社会的弱者っていう面で似てると思ってます。明らかに構造の問題なのに、個人が責められることも同じですね」 

 最後に何か一言、と言うと、彼は珍しく真剣な顔になって言った。

「次の世代は、必ず徴兵されないようにしたいと思うんですよ。韓国版ミクシィみたいのがあって、そこで親戚のページなんかを見ると、親戚の子どもとか赤ちゃんの写真があるんですね。それ見たら、ああ、こいつらからの世代は徴兵に行かせるわけにはいかないと。次の世代は。徴兵制はなくすべきだと思うんですよ。21世紀版奴隷制だから。あと、やっぱりべ平連に興味がありますね。当時のべ平連はアメリカの軍人を助けた。でも、日本国籍の人たちがやったから法律的にはなんの問題もなかったわけです。だから同じく、日本国籍の人が韓国の徴兵問題にかかわってもなんの問題もない」

 取材の数日後、彼は東京のある大学の編入試験を受けた。今回の上京は、編入試験を受けるためだったのだ。
 そうして試験の数日後、彼から興奮気味に電話がかかってきた。

「女神さま! 大分KCIAは東京KCIAに単身赴任を命じられました!」

 よくわからないので、「は?」と聞き返すと、なんと編入試験に合格したという連絡だった。それにしても、なんで「単身赴任」とかそういう日本語知ってて使いこなせるんだろう・・・。
 ということで、これまではバスで17時間かけて東京に来ていた大分KCIAは、東京に住むことになったのである。きっとこれからは「PANDA」の活動に加えていろんなデモなんかにも参加しまくるはずだ。
 なんだか騒がしくなりそうだが、これからもこの連載に登場すると思うので、大分KCIAをみんなもひとつよろしく。

(おわり)

公設派遣村の集会にて。真ん中は日弁連会長になった宇都宮弁護士、右は鎌田慧さん。

●キム君がかかわっている「韓国の徴兵制について考える」グループ「PANDA」のサイトはこちら
●また、韓国の徴兵拒否者・忌避者に手紙やメールを出したい人、もしくはPANDAの活動に参加したい方はこちら 「翻訳配達担当、大分KCIA」まで。

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かくして東京へとやってきた「大分KCIA」。
次回の登場を楽しみにしつつ、
「徴兵制」という現実についても、
今後も引き続き考えていきたいと思います。
皆さんのご感想もぜひお寄せください。

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