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2011-05-25up

鈴木邦男の愛国問答

第75回

ホリエモンは実刑になったけれど…

 5月23日(月)は、ロフトプラスワンにホリエモン(堀江貴文さん)が出る。という「予定」になっている。でも、果たして出れるのか。ロフトのスケジュール表では、「棄却された。。。(仮)」となっている。タイトルは仮題だが、堀江さんの出演も(仮)だ。それに、「ホリエモン・トークライブSESSION 最終回!?」と思わせぶりに書いている。

 だって、堀江さんはライブドア事件で異議申し立てが棄却され、懲役2年6月の実刑が確定した。いつ収監されるか分からない。5月23日前に収監されるかもしれない。あるいは、わざと、その日にぶつけて収監されるかもしれない。

 だから、ギリギリまで不安だった。ホリエモンのいない「ホリエモン・トークライブ」になるかもしれない。収監前に会いたいと思ったし、僕も当日はロフトに早目に駆けつけた。しかし、大丈夫かな。堀江さんは、いるのかな? と不安だった。そんな不安を抱えた人が多かったのだろう。ロフトは超満員だ。中は立錐の余地もない。7時開始で、1時間前なのに、ギュウギュウ詰めだ。控え室に行ったら、もう堀江さんは来ていた。「やあ、鈴木さん。『アエラ』ではありがとうございました」と言われた。『アエラ』(5月23日号)で、『ホリエモンの宇宙論』(講談社)を書評したからだ。これは実にいい本だった。宇宙への限りない夢を語っている。

 この書評を頼まれた時は、堀江さんの「棄却」の前だった。この『アエラ』が出たのは5月16日(月)だ。「これだって、間に合わないかもしれないと思いましたよ」と僕は言った。それに、「今日(5月23日)は、絶対に危ないと思いました。この日にぶつけて、収監されるのでは? と思いましたよ」と言った。でも堀江さんは落ちついている。

 「皆そんな心配してたんですか。そんなことはありえませんよ。もう1カ月以上は大丈夫でしょう。5月、6月の予定も入ってるし」と言う。

 「向こうは嬉しくてたまらないでしょう。"堀江を実刑にした"と。喜びを抑えるのに大変でしょう。だから急ぎませんよ。特捜部とは違うんだから。ロフトの日にぶつけてマスコミを喜ばそうなんて、考えませんよ」

 そうなのかと思った。余裕があると思った。この日は司会が吉田豪さんで、第1部は田原総一朗さんがゲスト。田原さんは盛んに「これは冤罪だ。なぜ敗れたのか」と聞いていた。第2部は上杉隆さんがゲスト。そして、途中から、北野誠さんと僕も加わった。

 堀江さんは懲役2年6月の刑が確定したとき、「中でしっかり読書します。2千冊は読めるでしょう」と言っていた。新聞に出ていた。これは凄いと思った。収監前に、こんなコメントをする人はいない。やはり、ただ者ではない、と思った。その話をしたら、「あっ、あれは撤回します」と簡単に言われた。「懲役だから、中で労働があります。だから、とても2千冊は読めないですね」と。でも、やれるとこまで挑戦してほしい。出てきたら、ぜひ『ホリエモンの読書術』を出してほしい。

 ロフトでは、司会者も他のゲストも、心配してる。というよりも、「中は大変ですよ」と不安を煽る。ホリエモンがホラレモンになるんじゃないかと下品な事を言う人もいる。ムッとすると思ったら、全く気にしていない。「そんな心配は全くないですね。雑居でなく、独居ですから」。重要人物や、思想的影響力のある人は、皆、独房だ。雑居だと、新しく入る人もいるが、出る人もいる。その人間を使って、外と秘密の連絡をされては困る。同房のものが思想的に感化されて、獄中闘争をやったら困る。…といろいろ考えるからだ。

 田原さんは、「初めから、冤罪だと思っていた」と言う。「ライブドア事件は、部下がやって、その部下は金を取った。むしろ堀江さんは被害者だ。そんな部下を持った『社長としての責任』はあるかもしれないが、でも過去の大企業の事件を見ても皆、不起訴か執行猶予だ」と言う。「憎まれっ子」の堀江さんだから、実刑になった。それに、堀江さんは徹底的に闘ったからだ。メディアに出て、検察批判をしたし、本も何冊も出している。

 もし、類似の事件で、大企業の社長だったら…。そして、社長が徹底的に謝罪し、「どんな刑にでも服します」と恭順の意を表し、他は一切口をつぐんでいたら…。多分、起訴もされない。されたとしても執行猶予だ。実際、今まではそういう例が多い。

 それなのに堀江氏は闘った。「冤罪だ!」「無罪だ!」と声を大にして言った。検察を批判した。それで検察はムッとなって、実刑にした。どうも、そんな感じがする。謝り、おとなしくしてたら執行猶予で、声を大にして検察批判をしたら実刑だ。個人的感情で動いているのは検察の方だ。

 田原さんや我々はそう言ったが、堀江さんは余り気にしてないようだ。収監を前にしてるのに、余裕がある。自分の置かれた立場を、客観的に見ている。「日本には明文化された法とは別に、コモン・ローがあって、それで僕は捕まったようです」と言う。たとえば、会社の社長なら、背広を着て、ネクタイをするのは当たり前だ。「そんなことは誰に言われなくても分かるだろう。それが分からないのか」となる。テレビの討論番組にTシャツで出たら、「なんだ、下着で出るなんて!」と他の出演者に怒鳴られていた。ビジネスのやり方にしても、メディアの出演にしても、そんなことが多かった。

 僕はロフトなどで何回か対談したが、会うと、礼儀正しいし、爽やかな人だ。とても頭がいいし、現状の分析も鋭い。未来への夢も真面目に語る。これは、『ホリエモンの宇宙論』を読んだ時も感じた。今時、<夢を語る>というのは、かなり勇気がいる。だって、世の中の現象や人や、あらゆることを批判、罵倒し、斜に構えて語ることが、インテリの証明のように思われている。明るく、将来の夢を語るなんて人は余りいない。そんなことを言うと「軽薄だ!」「能天気だ!」と馬鹿にされかねない。だから、未来についても暗く、否定的に語る。それが、「深く、よく考えている」ことの証明のように思われている。

 そんな中で、堀江氏は少年の頃からの夢を持ち続け、素直に夢を語る。これは驚きだったし、勇気のいることだと思った。実際に、SNSという会社のファウンダーとして、集まった仲間たちとともに衛星打ち上げ用ロケットを開発している。これから収監されるが、2年半後、出所時にはロケットを打ち上げてもらいたい、と言う。

 堀江氏の夢は、ビジネスにも直結した夢だ。衛星を打ち上げて、通信、放送。地球や気象の観測…などしか僕らは思い及ばないが、違うという。宇宙実験や宇宙観光旅行への夢のビジネスが膨らむ。無重力の中での半導体チップの製造など、産業に役立つという。又、宇宙で新しい医薬品や新材料を作ることもできるだろう、という。今まで治らなかった病気も治り、新しい薬品も開発される可能性があるのだ。

 さらに僕らにとって興味深いのは、宇宙観光旅行だ。宇宙ホテルも出来る。有人宇宙船を打ち上げ、それを大量生産してコストを下げていくと、「宇宙に数百万円で行くというのもあながち荒唐無稽ではないだろう」と言う。

 これはいい。僕らも行ってみたい。でも、宇宙に行くには、宇宙飛行士のように強い肉体を持った人間が厳しい訓練を受ける必要があるのか。

 「じゃ、僕らじゃダメなのか」と、ロフトで田原さんが聞いていた。堀江氏は、すかさず答えていた。「いや、田原さんでも大丈夫です。ジェットコースターに乗れる体力があれば、誰でも行けます」。じゃ、僕だって行ける。77才の田原さんだって行ける。「じゃ、まずジェットコースターに乗って訓練しなくっちゃ」と田原さんは言っていた。田原さんは、ジェットコースターも乗ったことがないようだ。でも、朝生では獰猛な論客たちを捌いて、激論を進めている。「猛獣使い」と言われている。その体力と気力があれば大丈夫だろう。

 宇宙飛行士の中には、宇宙で神を見て、宣教師になった人もいる。僕らも、神を見るかもしれない。大いなる夢だ。人間がどう変わるか、見てみたい。そんな夢をかなえてくれるのが堀江氏だ。それなのに、もうすぐ収監だ。残念だ。早く戻ってきて、夢の続きに取り組み、夢を実現してほしい。

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「すごい人だ」という人から「大嫌い」という人まで、
評価の大きく分かれる堀江氏ですが、
その好き嫌いとは別に、起訴→実刑の流れには疑問を呈する声多し。
皆さんはどう考えますか?

ご意見・ご感想をお寄せください。

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鈴木邦男さんプロフィール

すずき くにお1943年福島県に生まれる。1967年、早稲田大学政治経済学部卒業。同大学院中退後、サンケイ新聞社入社。学生時代から右翼・民族運動に関わる。1972年に「一水会」を結成。1999年まで代表を務め、現在は顧問。テロを否定して「あくまで言論で闘うべき」と主張。愛国心、表現の自由などについてもいわゆる既存の「右翼」思想の枠にははまらない、独自の主張を展開している。著書に『愛国者は信用できるか』(講談社現代新書)、『公安警察の手口』(ちくま新書)、『言論の覚悟』(創出版)、『失敗の愛国心』(理論社)など多数。近著に『右翼は言論の敵か』(ちくま新書)がある。 HP「鈴木邦男をぶっとばせ!」

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