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2010-12-15up

松本哉ののびのび大作戦

第35回:快挙! 各地に新アジトが続出!! ヨーロッパツアー(1)

 どうもどうも、みなさんまたしてもご無沙汰してます。実は1か月ほどヨーロッパに行ってました。当然ながら観光旅行などではなく、ひと騒動のため。いや~、相変わらず向こうは貧乏人がのさばってたね。

 さて、そもそも何でわざわざ地球の裏側まで行くことになったのか?
 どこの世界にも勝手なことをやらかしてる連中はいるもんで、当然のように、ヨーロッパからも日本のマヌケ貧乏人シーンのところに続々とやってくる。中でもフランス人がやたらと高円寺にやってくるのだが、それもそのはず、フランスでは素人の乱がテレビや雑誌で紹介されたことがあり、それを見て続々とやってきていたのだ。さらには、フランスのバンドが高円寺にやってきたときに仲良くなったりしたこともあり、「こりゃもう、ひとつ行ってみるしかないな」ということになった。
 で、もちろん、ただ行ってエッフェル塔を見て「ボンジュール」とか言って帰るだけじゃ面白くもなんともない。せっかく行くなら、向こうのマヌケな連中のところに行ったり、イベントをやらかして来ようということになった。世界的に金持ち連中がのさばるなか、それぞれの場所でいろいろやらかしてる連中同士がお互いを知ることは、かなり参考になることなので重要だ。そう、我々がフランス人のことを毎日働かないでワインを飲みながら長いパンを持ってウロウロしていると思っているように、フランスの連中も日本人のことを、全員がスーツにマヌケメガネをかけて通勤電車に乗って週60時間ぐらい働いてると思っているに違いない!! よし、こうなったら日本の大バカな連中を集めてフランスに乗り込むしかないな!

 と、いざ「フランス作戦やるよ」と声をかけたら、出発直前だというのに続々と参加者が名乗り出てきて、あっという間に20人以上も集まってしまった! いつも高円寺のデモに出るバンドの連中なんかが大多数だ。ちなみに、どいつもこいつも貧乏人なので、1か月分の給料を前借して全部旅費に当てるやつから、最後の手段とばかりにアパートを引き払ってフランスに向かう奴など、マヌケな事態が続出していた。さらに、当然ながら集団行動が不可能な奴らばかりなので、バラバラに現地入りし、勝手な動きをして行方が分からなくなったり、突然現れたりとメチャクチャな感じで、ツアーを敢行した。
 現地ではライブイベントを中心に、素人の乱の映像の上映やトークイベントなど、各地でイベントをやって回ることになった。で、いろんな人脈を使って知り合いに声を掛けまくったところフランスのみならずだいぶ広がり、フランスはパリ、ナンシー、メス、レンヌの4都市。そして、ベルギーのブリュッセルとモンス、ドイツはベルリンとケルン、そしてオランダのアムステルダムの計9都市。なんだかやたらと増えてきた。う~ん、いったいどうなる事やら!

こんなライブハウスもあるところもある。いや~、レベルが高い!

 さて、今回はまず場所の話をしてみよう。イベントは普通のライブハウスなどもあったんだが、ヨーロッパ名物のスクワットでもたくさんイベントがあった。これは以前にも度々紹介してるけど、要は使ってない建物を貧乏人連中が乗っ取っている場所のこと。スクワットがたくさんある要因は、もちろん、ぶん捕る側の連中のテンションの高さも半端じゃないんだが、建物のオーナーの側も「まあ使ってないんだからいいか」みたいなことになって、そんなに必死に追い出しをかけないことも多々ある。この、大家さんの懐の広さは守銭奴王国の日本では考えられないことかもしれない。
 とはいえ、やはり社会の窮屈化は欧州にも広がっており、最近はスクワットも減少気味だという。こう聞くと、今まであるスクワットが少しずつ潰されていってるだけかと思うかもしれないが、そうではなく、新スクワットもやたら増えていたのがいい。ちょっと紹介してみよう。

 まず、ドイツのケルンでイベントをやったところは、まさに新スクワット。使ってなくて廃墟化していた銀行所有の建物(スポーツ施設だったかな?)を、半年ほど前に数百人の連中で攻め込んで奪い取ったという。これがまた異常に巨大な建物で、地下はライブスペースになってたり、1階には少し大きいホールがあったり、いろいろ使い勝手は良さそうだった。で、まだできたばかりということもあって、ケルンの連中は妙に張り切っていて、その建物の中に図書館やフリーショップ(物々交換所)をつくったり、外壁に巨大な壁画を描いたりと、やたらと楽しそうに作業をしていた。いや、いいね。まさに解放区だ! 銀行側は当然「おい、うちのビルになんてことするんだ!」と怒って圧力はかけてくるんだが、そこまでは強硬手段に訴えても来ない。そうなってくると、警察も「まあ、うちらは知ったこっちゃないな」って感じでほとんど手を出してこない(その証拠にそのスクワットは警察署から約100mのところにある)。で、もっと驚いたのが、地元の新聞などでは「使い道のなかったビルが、今では若者たちに有効に使われています」みたいな、好意的な記事を載せてたりすること。なんだなんだ、ずいぶん懐が広いぞ!! 日本の大家さんや警察やマスコミも、いつも重箱の隅をつつくようなことばかり言ってないで、少しは見習ってもらいたいもんだね。

これはフランスのレンヌ。貧乏人に乗っ取られた総評会館。

 フランスにも新スクワットはあった。レンヌという西フランスの町に行った時もスクワットでイベントだったんだが、ここもまだ数カ月のところで、学校みたいな作りのところ。ここがまた面白くて、労働組合から奪い取ったところ。どこの国にもあると思うが、貧乏人の敵だか味方だかよくわからないような巨大労組。まあ、日本でいえば連合とか民主党みたいな感じかな? こういうところにも容赦なく乗り込んで、ヒッピーやパンクスの城みたいにしちゃってるところがすごい。やるなー、奴ら。やっぱりここも図書室やイベントスペースなどを作り始めてて、なんだか楽しそうだった。しかも、人材も豊富で、素人の乱の上映イベントをやった時も、どこからともなくやってきた人が「俺らは仲間の移動手段を手伝う活動をやってる。長距離移動などは難しいけど、近場だったらタダで乗れるキップを手に入れてやるよ!」などと申し出てきた。いや、いろんなことやってる奴がいるもんだね。
 また、パリで泊めてもらったところも、所有権がウヤムヤになって空き家になっていたところに乗り込んで、まだ3ヶ月目のできたての家だった。まだ警察がちょくちょく来るとのことで、入口も厳重に鉄条網で守られていた。だが、住人達は「もうちょっとすれば大丈夫になるでしょ」と、ケロっとしていた。

これもフランス。デモ用の新兵器を開発中だった!

 ブリュッセルにも新しいところがあった。ここは、なんと不況で開店をあきらめて放置されていたスーパーマーケットを奪ったところ。新築の建物なので、入口が自動ドアというマヌケなスクワット。ここは夜中に遊びに行ったところなんだが、各地からバンドが来て200人ぐらいで大パーティーをやっていた。飲みながら遊んでいると「中国からよく、はるばるやってきたね!」と声をかけてくるので「いや、日本だよ」というと、その違いにはほとんど興味ないらしく「いや~、ブリュッセルでもローカルなこんなパーティーに来れるのは運がいいよ! この場所は最高だろ!」と、大はしゃぎ。やっぱりここも、さっき紹介したところと同じで、自分たちの場所が新しくできたことが嬉しくてしょうがない感じ! あ、そういえば、このパーティー中に突然警察が来て一瞬緊迫したんだけど、何かと思えば「前の路上に停めてある車が駐車違反だから、あれ何とかしてくれ」とのこと。なんと、スーパーを占領して大パーティーやってるより違法駐車のほうに怒るのか! 警察えらい!

 しかし、チョロっと何都市か回っただけで新しい場所がどんどんできているのに遭遇するってのがいいね! この様子だったら、すごい量の新スペースができてるに違いない。いや、やはり攻撃は最大の防御というか、いろんなことをやり続けていくことによって、自分らの場所や生活や遊びなんかが切り拓かれて行くもんだ。やはり違う文化圏のところに行くといろいろと勉強になるね!

 さあ、そんなことで、ひと勉強終わったところで! 次回は逆に日本のマヌケっぷりを完全に炸裂させてきた闘いの報告! 期待して次回を待て!!!

「スクワットのイベントで日本風ラーメンを作ろうとして大失敗して暴れるドイツ人」

【スケジュール】

2011年1月1日
元日デモ 高円寺にて。詳細未定!

【お知らせ】

このコラムが一冊の本になりました。しかもなんとハングル版! 1月13日より韓国の有名書店で絶賛発売中。
タイトルは、「貧乏人の騒動ショー」、副タイトルが「松本哉ののびのび大作戦」です。

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日本の中だけを見ていると、
世の中ますます窮屈に? と思ったりもするこのごろですが、
実は遠い海の向こうで、とんでもないことがいっぱい起きていた!
そしてそこに乗り込んだ松本さんたちは、
いったいそこで何を繰り広げてきたのか? 
次回もご期待ください!

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松本哉さんプロフィール

まつもと・はじめ「素人の乱」5号店店主。1974年東京生まれ。1994年に法政大学入学後、「法政の貧乏くささを守る会」を結成し、学費値上げやキャンパス再開発への反対運動として、キャンパスの一角にコタツを出しての「鍋集会」などのパフォーマンスを展開。2005年、東京・高円寺にリサイクルショップ「素人の乱」をオープン。「おれの自転車を返せデモ」「PSE法反対デモ」「家賃をタダにしろデモ」などの運動を展開してきた。2007年には杉並区議選に出馬した。著書に『貧乏人の逆襲!タダで生きる方法』(筑摩書房)、『貧乏人大反乱』(アスペクト)、編著に『素人の乱』(河出書房新社)。「素人の乱」公式ホームページ

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