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2013-04-17up

松本哉ののびのび大作戦

第73回:香港Hidden Agendaの襲来・前編

 つい最近、香港の「Hidden Agenda」という、ものすごいライブハウスをやっている人を招待して、そのドキュメンタリー映画の上映イベントをやった。この企画がまたとても面白かった。
 あ、ちなみにこの連載をマジメに読んでしまっている人はすでに気づいているかもしれないが、香港と言えば、何を隠そう約一年前に「東アジア有象無象サミット」なる企画が行われた! 無責任に呼びかけるだけ呼びかけて、その後まったく報告もせず、完全に謎のイベントと化していたが、せっかくなので、Hidden Agendaに触れる前にちょっと紹介してみよう!!!!!

 ここ数年、海外でマヌケなことをやってたり、とんでもない場所作りをしてたりっていう連中とだんだん仲良くなって来ていて、お互い行き来することが多くなって来ていた。特に近隣の地域の奴らはお互い近いこともあって、やたらと交流が活発になって来た。それに、欧米などと比べても文化的にも環境的にも共通点も多々あり、似たようなセンスでやってたりもする。こうなって来ると本当に偶然会う機会も増えて来たので、もうこうなったら「みんなで一堂に会してしまうしかないね〜」ってことになり、集合してみることになった。そこで行われたのが、その香港の東アジアバカ者サミット!! ってことで、行ってきました、一年前!

 まずは、日本、台湾、韓国の各地から続々と香港へ上陸! 集まって来ると、こりゃもう挨拶がてら飲むしかない。連日飲み会が始まるわけだが、これがまた面白い。とりあえず、「よし、みんなで集まろう!」と香港に集結したのはいいが、よくよく考えたら言葉が通じない。集まったはいいけど、どうすんだこれ!? パッと見渡しただけでも日本語、韓国語、中国語、台湾語、広東語が飛び交う。エリートが集まったのなら、TOEIC免許皆伝みたいな顔してビシッと英語で議論とかするのかもしれないけど、謎の場所作ったりくだらないイベントやったりしてるような奴らが集結したんだからそうはいかない。カタコトの中国語を使ってみたり、丸とか四角とか書いてニセハングルを書いても一切通じない。会話に窮して漢字を書いたりしてもたまに通じない時もあるし、そもそも韓国人には通じない。もちろん、語学堪能な人もたまにはいるので通訳なんかしてもらったりもするんだが、酒が回って来るとまどろっこしくなってきて、みんなで中学生レベルの英語を総動員して会話をし始める。あるいは、知ってる知識を全部使って話すから、「ニーハオ、ギブミーマッコリ!」みたいなゴチャマゼのとんでもない言葉になって来る。こうなって来ると何となくわかるようなわからないようなって感じで、だいたいお互いの会話の70%程度の理解力で盛り上がりまくる。これがまた絶妙でいい感じ! 盛り上がって来ると、そんなインチキ語で意外と高度な話とかしちゃったりもする。しかも、お互いよくわかってなくても勝手にいいように解釈して「そうそう! それそれ!!!!」って感じ。たぶん原始人みたいな感じだったに違いない! くそ〜、こりゃ楽しいよ。いや、いいねいいね。人って意外と対面してると語気やら表情やら見ぶり手振りやらで、わかり合えちゃったりするもの。う〜ん、よくよく考えてみると、しち面倒くさい小難しい用語とか使ったところで、どうせみんな微妙にずれて解釈してたりもしそうなのを考えると、結局言葉ってそこまで大したもんじゃないんだよな〜。

 さてさて、そんな日々を送ってるともう完全に仲良くなってくるわけだが、ついにイベントの日を迎える。場所はなんとオキュパイセントラル。そう、あの、2011年の9月から始まったニューヨークの「Occupy Wall Street」の流れの香港版がまだ存続していて、超巨大銀行の1階ロビー!! そこに大量のテントが張ってあり、すごい迫力! なんと、香港ではこんなに盛り上がっていたのか!!!!!! ・・・と思ってたら、「いや、実はこれ全部ダミーだ。実は泊まってるのは10人ぐらいしかいない。オイ、これはナイショだぞ」という。おお、いいね、そのマヌケな作戦! ただ、さすがにそのマヌケサミットのイベントのときはやたら人が集まって来て銀行の1階が人でごった返してくる。各国が順番に大きなスクリーンに映像を映し出して、自分たちの場所作りの紹介や、問題点や、オルタナティブ作りに関して自国政府のダメな点、逆に利点などなど、貴重な議論が期待される! さあ、待ちに待った世紀のサミットの開幕だ!!!!!
 まずトップバッターの韓国・釜山で多ジャンルなアートセンターを運営しているリュウ・ソンヒョ氏らが、前日の大宴会の疲れで肝臓が悪そうな表情でテンションは極めて低めで開始。そして、お次は香港の「活化廳」という旧市街エリアの地域活性化アートギャラリーを運営するリーさんとローランドが登場! ただ、広東語なので何を話してるかサッパリわからない。この二人の自然と聴衆に笑いを誘う超マヌケなキャラもあって、完全に漫才にしかみえない。漫才も終わり、次に出現したのは台北の人種のるつぼ=「直走珈琲」を運営する台湾勢! 前評判もあり聴衆も目を輝かせて注目し、会場の関心も一挙に集まる中、開口一番「あの〜、スイマセン。最近、店潰れたんですよ」だって。で、「ええ〜!」と聴衆もガッカリ。おい、コントかこれは! しかも、イベントでバカ騒ぎしすぎて、大家さんが契約を更新してくれなかったというショボすぎる理由。これには香港の聴衆もあっけに取られるしかない。さあ、大トリを飾る素人の乱紹介。高円寺をウロつくマヌケな奴とか、いかにも儲かってなさそうな店、商店街の飲んだくれのオッサンの写真なども交えながら、必至に紹介!!! が、時すでに遅し。時間も押してることもあり、じっと人の話を聞くことが苦手な人が力尽きて寝始めてたり、もう飲み始めてる奴がいたり、晩メシのブースに並んでたり・・・。おい! 誰も聞いてねえじゃねえか!!! 
 という感じで、気付いたら自然と飲み会に移行していた。いや〜、いいイベントだった。

 ただ、諸君。あきれるのはまだ早い。実はこのサミット、2日連続企画! 初日はディスカッションで、翌日は実践! そう、謎の大バカな東アジア人が共同で街に繰り出して場所を作ってしまうという計画もやってしまったのだ。その名も「移動BAR大作戦」!
 ご存知の通り、香港の街、特に旧市街地は街に屋台が並んでいる。ってことで、屋台作戦を決行!!!! 突然、謎のアジア人が勝手に屋台を香港の街に出現させ、「昔からいましたよ」ぐらいの感じでやってしまおうって作戦。これまで日本で場所作りをやって来たわけだが、2年前の原発大爆発で、突如として危険な状態に陥った。ところが、日本政府はそれを救うどころか「大丈夫大丈夫」などと言い出し、何事もなかったかのようにしようとし始めた。う〜ん、このヤバい状態をごまかそうという姿勢、これはキケンだ! こんな頼りにならない連中が支配している限り、なるべく自力で場所作りをしておかないと、原発に限らず次にまた大事件が起こった時、突如としていままでの苦労が水の泡と化してしまいかねない。ってことで、去年あたりからは「場所作り」だけじゃなく「移動」もセットで考えなきゃいけないと思っている。そんな時、見ず知らずの海外の街で突如として場所が作れるのかという壮大な実験!!!! これはすごい!
 しかし、そうはいってもやることは極めて単純明快!! 突貫工事で作ったインチキ屋台と勝手に作った酒を街で振る舞いまくるとの作戦。これ、最初は「屋台やろうよ」と提案したものの、香港の連中のくだらないことへの情熱がハンパなく、突如としてものすごい行動力を発揮し始めた! まず、屋台作りもやたらと人が集まって来て、あっという間に作ってしまう。そして、大喜びで酒も作り始め、こっちが香港に到着するやいなや「おい、これを見ろ!」と、ものすごい量の瓶に酒がつけてあり、「後数日で完成だよ!」という。早い!!! ちなみに売るとヤクザにショバ代を取られるかもしれないから無料で配ろうってことに。そして、買った者を配ったんではただのいい人かビール会社の回し者みたいになってしまうから、やっぱり自分で作ろうということに。なるほど、いいねこの企画! ちなみに、味見してみると、これがまたうまい。ビールと果実酒の間みたいな感じで、4種類の味に分けて作っている。う〜ん、さては馴れてるな!?
 そんな感じで当日は顔は同じだけど話す言葉が全然違うという謎の東アジア人たちが曳く屋台が街に出撃! で、旧市街地を練り歩いて、要所要所で酒を無料で配りまくるんだけど、この反応がすごい! 「お、来た来た〜!」とか言って、屋台の店主や近所の住人たちが大喜びで集まってくる。何だと思ったら、この企画の中心で動いている香港の「活化廳」の人たちの香港旧市街地での信頼度がすごい。
 せっかくなので紹介しておこう。香港も日本と同様、どんどん再開発が進み、人間味のある街並から金を生むのが目的のつまらない街並に変わって来ている。そう、我々が子どもの頃に見た香港映画に出て来るような、いかにもな場所はどんどん減って来ている。そんな古い景色を守ろうとしているのが「活化廳」で、伝統的な職人さんの作った作品を展示したり、普通に営業してる個人商店なんかに勝手に賞をあげて、若いアーティストが作ったトロフィーを渡したり(「普通にやってるのが一番すごい」ってことだって)、再開発でなくなりそうな香港の文化の紹介を展示したりと、すごいいいことをやっている。このおかげで、イベントの準備をしていても近所の店主のおじいさんが仕事が終わってふらっと遊びに来て一杯飲み始めたり(これ、高円寺と同じ光景だ!!)するぐらい。いや〜、いいねこの感じ! で、さらにこの屋台作戦の前にチラシを街中にバラまきまくった(これも日本人韓国人台湾人なども一緒に撒いた)ので、いよいよ謎のことに!
 ま、こんな訳で街の反応がやたらとよかった! 行けば行くほど友達が合流して来たり、その辺を歩いてる人が集結して来たりする! で、最終的には屋台を先頭に100人ぐらいの訳の分からない行列に! で、そんな感じで交差点に行っては酒をバラまいたりしつつ練り歩き、最も賑わってるあたりでは、なんと豚の丸焼きが登場! なんだかよくわからないが「景気がいい」=豚の丸焼きらしい。で、「活化廳」界隈の腕のいい料理人が、なんとその場で料理! もうその辺の人も突如街にごちそうが登場したもんだから大喜びで、屋台の店主やら買い物に来てるおばあちゃんやら、ヒマで街をウロついてる若者なんかが肉の取り合いで大騒ぎに! いや〜、なんだかよくわからないけど景気がいいね! ヨーロッパなんかでこの手のイベントをやるときは、「肉を食うのは粋じゃない」って人が多く、わりとビーガン料理になることが多いんだが、やはりアジア圏はごちそう=景気がいい=肉=丸焼き、って感じの文化。これ、たぶん日本だったら職人が寿司をにぎりまくったり、豪勢な刺身の舟盛りとか伊勢エビなんかがでてきたりするのかも。いやいや、いろんな文化があって面白いね〜、やっぱり。
 さて、その謎の屋台行列の締めくくりは街の真ん中の公園でゴール。そこで、残った酒と料理が振る舞われ、大宴会に! 近所のガキんちょたちやおばちゃんたちもワラワラいるし、すごいにぎやか! 当時、まだ日本は震災後の低下したテンションが全然戻ってない頃だったので、この香港の何かあったらすぐ盛り上がってしまうこの元気さがやたらよかった。
 ちなみに、これだけの騒ぎになっているので、なんかあったらいけないと警察も一応見張りでついて来たんだが、警察もだんだんバカバカしくなって来たのか、結局飲み始めちゃって赤い顔で帰ってしまったという。目撃情報によると「最初は制服も着てビシッとしてたけど、最後は帽子もかぶってなかったよ!」という。う〜ん、いいね。杉並警察署みたい。

 ・・・というわけで、東アジア有象無象サミット、まさに大成功。結局顔も大差ないような奴らが一緒に何かやるから、去年の11月のNO BORDER RIOTの時と同様、誰がどこの国の人だかってのが一瞬で吹っ飛んでしまう。そう、同じ感覚の奴らってのは国境を問わず、完全に仲間なのだ。さらにはヨーロッパだろうとアメリカだろうと(行ったことないけどアフリカとか中東とかも)、似たような奴らは似たような価値観で行きてるし、一瞬で仲間になる。というか、初対面でも会った瞬間に「あっ、おまえアホそうだな〜」って時点で同類の仲間だってことに気付く。いや、おもしろい!!!! 逆に、特に東アジア圏なんか、どこに行っても政府がろくでもない。日本は言うまでもなくメチャクチャだし、韓国も貧乏人を切り捨てまくる政府だし、台湾政府も中国べったりで民衆の生活や文化を無視しまくるし、香港も自由がどんどんなくなりつつあるし、中国も相変わらず共産党=絶対正義みたいな感覚が窮屈そうだし、北朝鮮なんかミサイルばっかり作ってるし、アメリカも勝手に世界の支配者ぶって人を殺しまくっている。ロクでもないところばかり。まったく、そんな連中の勝手な政治に巻き込まれたらたまったもんじゃないよ。
 よし、いまこそ全世界のくだらないことにアホな労力を使いまくる大バカな連中はお互い遊びまくって、とんでもないマヌケ裏社会を作ってしまおう。いや、これは手っ取り早い!!!!
 というわけで、先日も行ってしまった本題のHidden Agenda上映会の報告は次回!!!!!! 乞うご期待!

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果たして覚えていた人はどのくらいいるのか!? な有象無象サミットですが、
なんだかやっぱり楽しそうなことになっていたよう。
正面から抗議したり意見を言ったり、ももちろん大切だけど、
並行して「マヌケ裏社会」をつくり上げちゃうのも、多分同じくらい重要なのです。
ということで、ほんとにあるのか次回の報告、ですがお楽しみに!

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松本哉さんプロフィール

まつもと・はじめ「素人の乱」5号店店主。1974年東京生まれ。1994年に法政大学入学後、「法政の貧乏くささを守る会」を結成し、学費値上げやキャンパス再開発への反対運動として、キャンパスの一角にコタツを出しての「鍋集会」などのパフォーマンスを展開。2005年、東京・高円寺にリサイクルショップ「素人の乱」をオープン。「おれの自転車を返せデモ」「PSE法反対デモ」「家賃をタダにしろデモ」などの運動を展開してきた。2007年には杉並区議選に出馬した。著書に『貧乏人の逆襲!タダで生きる方法』(筑摩書房)、『貧乏人大反乱』(アスペクト)、編著に『素人の乱』(河出書房新社)。「素人の乱」公式ホームページ

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