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2010-03-02up

やまねこムラだより〜岩手の五反百姓から〜

第五十回

五反百姓、いきなり九反百姓になる!?

 3月の声を聞いて、やまねこムラもやっと春めいてきました。春といっても、まだあちらこちらに雪が残っていて、朝などは氷点下の気温なのですが、雪の下からバッケ(ふきのとう)が、芽を出したりしています。バッケは、さっそく天ぷらにしたり味噌汁の具にしたりで楽しみました。この、ほろ苦い味が、岩手では「早春の味」なのですね。
 季節季節に、その季節にしか味わえない自然からの味覚がある、というのも農山村に暮らす楽しみのひとつです。

 ところで、先日ムラで親しくしているAさんが、やってきました。しばらく、言いづらそうにもじもじしていたのですが、意を決したようにこうきりだしました。
 「じつは…。この春から、牛をやめることにしたんでがす。ついては、いままで借りてた牧草地をお返ししたい…」
 Aさんは、お米を1町5反歩ほどと、7~8頭の肉牛を飼育している専業農家です。そのAさんが肉牛の飼育を今年からやめる、というのです。働き者だった奥さんを昨年病気でなくし、働き手がいなくなったことが大きいようです。ご自身も歳をとったから、無理もできない、というのです。
 Aさんには娘さんがいて、婿をとって孫もいますから、跡継ぎはいるのです。ただ、娘さんも婿さんもムラの外に勤めにでていて、家の農業を継ぐ気がないのです。
 Aさんは奥さんをなくして、一人では米も牛も両方はできない、と判断したのでしょう。娘や婿はいても、農作業にはかかわらない。手伝う気もない。そんな孤立無援の状態で、牛をやめることを決心したのだとおもいます。

 これも、前回でふれた現代の「農村問題」ではありますね。農村に暮らしていて、実家が農業していても、農家を継ぐ気がない若い世代がかなり多いのです。いまや、そのほうが「跡継ぎ世代」の多数派になってしまったような感があります。
 それだけ、若い世代には農業に魅力がないということなのでしょうか。あるいは、農業だけでは家族を養っていけるだけの収入の見通しがないから、最初から農業には近づかない、マチ場に勤めに出て月給もらったほうがいい、ということなのでしょうか。
 かくして、老人だけが、日本の農業の現場に残る、残るしかない、という現状になってしまったのです。(日本の農民の平均年齢はいまや、66歳です。)

 かくして、この春から、わたしにはAさんにお貸ししていた牧草地4反あまり(約1300坪)が戻ってくることになりました。戻ってくる、といっても、Aさんに牧草地を貸したのは、わたしの前の持ち主ですから、わたしにはいきなり突然のことなのです。
 わたしは、今の農地を16年前の1995年に取得したのですが、その時点ですでに、その牧草地はAさんが牛の飼料用牧草地として使っていたのです。前の持ち主が、Aさんと縁戚だということで、口約束で貸していたのです。その口約束を、わたしも受け継いでいたわけです。もちろん、賃貸料などは一切いただいておりませんでした。

 さて、現在のわたしは、困ったなどうしようかな気分が3割、何しようかなわくわくするな気分が7割、の気持ちでおるのです。
 いきなり、「1300坪の土地をやるから、なんとかしろ」といわれたら、みなさんならどうしますか? そこは、我が家から1キロほど離れた、森に囲まれた、日当たりのよいゆるやかに傾斜した牧草地です。牧草地のすぐ横には、二車線の舗装道路が走っていますから、交通の便もよいのです。じつは、この牧草地の奥に、わたしの田んぼもあるのです。
 ほうっておいたら、草刈ノルマが1300坪分増えるだけです。1300坪を、草刈のためだけに草を刈るのはしんどいし、第一もったいない。農地として、何とか利用しない手はありません。耕作放棄地にはなんとしても、したくない。

 いま考えているアイデアはふたつあります。ひとつはここを果樹園にすることです。日当たりはいいし、緩やかな傾斜があることで、水はけもよい。これまでの牧草の伸びを見ていると、土質もわるくない。果樹園にはもってこいの地形です。ブルーベリ畑にしようか、それ以外に、梅や杏も植えようか…などと考えています。
 もうひとつは、羊を飼うことです。羊がいれば、わざわざ草刈をしないですみます。もともと牧草地ですから羊の放牧にはうってつけの場所なのです。1頭につき1反は草地が必要ですから、最大4頭まで羊を飼えます。ただ、ネックは冬場のえさと羊の管理で、これをどうするか…。

 あらたな農地をどう使うか、結論はまだですが、ともかく事実として、わたしは五反百姓から九反百姓になってしまいました。この「やまねこムラだより」ですが、サブタイトルの「岩手の五反百姓から」では、カンバンにいつわりあり、の状態になってしまいました。そこで、次回から「岩手の楽農家から」とサブタイトルを変えたいとおもいます。牛を飼っていなくても、農を楽しむラクノウカという意味です。

 今回はこんなたわいのない近況報告になってしまいました。しかし、今回のようなたわいのない、しかし当事者にはけっこう重たいことの連続が、ムラに住むということの現実でもあったのです。
 その姿を(憲法9条にはほとんど関係がないかもしれませんが)、今後もなるべくありのまま、皆さまにはお届けできたらいいなと、いまは考えております。よろしくお願いいたします。

(2011.3.1)

85歳になるムラの農民歌人がつくってくれました。
「真白なる兎に似たる猫も居てやまねこ農園の留守番をする」
馬場あき子さんの選で、地元新聞の短歌欄の特選になりました。

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五反百姓、九反百姓へ!?
「何をしよう」とワクワクしている辻村さんの様子を思うと、
こちらまで楽しい気分になってきます。
新たなやまねこムラだより「岩手の楽農家から」、
どうぞお楽しみに。

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つじむら・ひろおさん
プロフィール

つじむら・ひろお1948年生まれ。2004年岩手へIターンして、就農。小さな田んぼと畑をあわせて50アールほど耕している五反百姓です。コメ、野菜(50種ぐらい)、雑穀(ソバ、ダイズ、アズキ)、果樹(梅、桜桃、ブルーベリ)、原木シイタケなどを、できる限り無農薬有機肥料栽培で育てています。

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