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2011-07-27up

癒しの島・沖縄の深層

オカドメノート No.105

前原誠司は食わせ物の政治家だ

 前回の当連載で民主党の前原誠司 、自民党の中谷元らの「新世紀の安全保障を確立する議員の会」の6名が沖縄を訪問し、辺野古新基地建設容認の島袋吉和前名護市長や経済関係者らと会談し、「どの政党が与党になろうとも、普天間の移設先についての日米合意は揺るぎない」と気勢を上げたことを書いた。今や、稲嶺進名護市長も辺野古移転反対を明言し、名護市議会も基地建設反対派が過半数を占めている。仲井真県知事も「辺野古は不可能」といい、県議会も基地反対派が過半数を占めている。菅政権は賛成でも地元の民主党沖縄県連は反対である。さらに前回の参議院議員選挙で、自民、公明の推薦で出馬した島尻安伊子議員も辺野古反対で当選した。 おそらく、いま沖縄で県民投票をやれば、辺野古新基地建設は8割くらいの圧倒的多数で否決されるはずである。

 にもかかわらず、次の次くらいの民主党代表とも取りざたされる前原氏がなぜここまで辺野古新基地建設にこだわるのか不可解でならない。野党時代から自民党の防衛族にきわめて近い思想の持ち主といわれた前原氏だが、ここまでくると米国政府の代理人か防衛省の回し者、もしくは大手ゼネコン業者の手先にしか見えない。冒頭に書いた超党派の「議員の会」の中谷元も防衛長官をつとめたこともある親米派。そして興味深いのは、この20日に発表された自民党の国家戦略本部の報告書によると、普天間基地の移設問題に対して「合意含みの懸案を着実に処理する」と明記されている。これは、わかりやすくいえば日米合意=辺野古新基地建設を推進するという事である。民主党菅政権と谷垣自民党が奇しくも、同じスタンスを表明したわけである。もっとも、日米合意じたいは自民党の負の遺産であり、ここにきて原点帰りを明確にしただけの話である。時代の流れが読めてないところが、谷垣自民党の度し難い保守性と政治センスという他はない。おそらく、谷垣自民党には脱原発の意志も実行力もないのだろうが。

 すでに新聞でも報道された通り、米国の上院議会においては、米軍のグアム移転の費用が全面削除された。杜撰で曖昧な計画自体に、議会が厳しく「NO!」を突きつけたのだ。イラクやアフガン戦争で膨らんだ国家予算緊急削減の一環である。ゲーツ氏に代わり、国防長官に就任したバネッタ氏はグアム移転だけでなく、辺野古新基地建設に対しても否定的な見解を打ち出している。これまでは親日家といわれる「日米安保マフィア」といわれる米国の政治家たちが、辺野古新基地推進で凝り固まっていた動きとはまったく別の潮流の登場である。そこで、焦りだしたのが、防衛、外務官僚である。防衛省は北沢防衛大臣をたきつけてバネッタ国防長官との電話会談をセットしたり、ホワイトハウスの行政管理予算局にグアム予算復活を働きかけたりという巻き返し作戦に出ている。仕掛け役は紛れもなく日本の防衛、外務官僚の側である。ウィキリークスによる米国公文書の暴露においても、日本の官僚たちが国益に反するような対米工作を仕掛けているシーンが登場している。東電とズブズブの馴れ合い関係を続けてきた経済産業省のメンタリティと同じような思い上がりを持つふざけた官僚連中なのだ。

 そんな中、沖縄では泡瀬干潟を埋め立てる計画が再び進行する方向で動き始めた。この埋め立て計画に対しては那覇地裁に続いて、09年の福岡高裁判決でも「経済的合理性がない」として公金支出差し止めがいいわたされている。ところが、この東部海浜開発事業に執着する沖縄市、沖縄県、国は何としても、埋め立て事業を推進したいらしい。当初の計画では埋め立ては約187ヘクタールだったものを約95ヘクタールに縮小。その計画を事業者の国(沖縄総合事務局)と沖縄県が、港湾管理者である県へ提出するため、事業者と管理者という二つの顔を持つ県の港湾課が審査するという八百長みたいな方式。原発の安全性をチェックする原子力安全・保安局が原発推進の経済産業省の管轄にあることと同じペテンである。客観性を担保せず、何事も身内で審査するという日本の官僚システムは完全に制度疲労を起こしているのだ。

 裁判所の判断を基準にした計画見直しの審査が認められることはシステム上、想定の範囲内であった。したがって、この審査も最初から「再開ありき」で進行し、検証のプロセスも不透明だ。むろん、市民の声を聴く機会は一度も設けられなかった。建設費は1020億円。東門沖縄市長の計画案によると、「経済波及効果は建設時に1629億円、稼働後には年間149億円の生産額、市民1347人の雇用を生み、2億1千万の税収増につながる。市の負担は30年で67億円」なのだという。この計画を後押ししたのが誰あろう、元国土交通大臣で沖縄担当大臣もつとめた前原誠司だといわれている。今でも、辺野古基地建設を悲願とする前原氏の沖縄に対する基地政策とのリンクであり、アメとムチのヤリクチである。もともとは、40年前からくすぶっていたこの計画に「GO!」を出したのが財務大臣をつとめた尾身幸次氏。「GO!」を出したのは02年のことだが、明らかに尾身氏の利権狙いの計画だった。

 さらに言えば今回の計画見直しの背後には二重行政で行革の対象とされている沖縄総合事務局の暗躍もあった。小賢しい官僚の権益と利権死守の戦いでもある。もう一歩突っ込んでいえば、沖縄で今最大の問題でもある沖縄振興一活交付金にも関係してくるためだ。沖縄県としては3000億円を要求しているが、国としては2000億円プラスアルファという開きがある。そのためにも、来年度の予算が決まる前に別枠で駆け込み着工したいのである。埋め立て工事は今年の9月を予定しているが、埋め立て反対の市民グループは、この計画の合理性や環境破壊を争点に第二次集団訴訟を提起している。その意味では東門市長や沖縄総合事務局、沖縄県の思惑通りいくかどうかはまだ予断を許さない状況だ。それにしても、前原誠司という人物の沖縄における動きを見ていると、なかなかの食わせもの政治家であることがよくわかる。要注意人物だ。

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辺野古新基地建設も、泡瀬干潟の埋め立ても、
沖縄よりもアメリカのほうを向いた官僚・政治家たちは、
どこまで「住民無視」を決め込む気なのか。
泡瀬干潟の第二次集団訴訟については、
琉球新報に記事があります。

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岡留安則さんプロフィール

おかどめ やすのり1972年法政大学卒業後、『マスコミ評論』を創刊し編集長となる。1979年3月、月刊誌『噂の真相』を編集発行人として立ち上げて、スキャンダリズム雑誌として独自の地平を切り開いてメディア界で話題を呼ぶ。数々のスクープを世に問うが、2004年3月の25周年記念を機会に黒字のままに異例の休刊。その後、沖縄に居を移しフリーとなる。主な著書に『「噂の真相」25年戦記』(集英社新書)、『武器としてのスキャンダル』(ちくま文庫)ほか多数。 HP「ポスト・噂の真相」

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